兵庫県警は11月7日、別の女児殺害事件で服役中の勝田州彦(くにひこ)容疑者を殺人未遂容疑で逮捕した。2006年9月、兵庫県たつの市の路上で、学習塾から帰宅中だった小学4年生の女児を刃物で刺し、胸などに重傷を負わせた疑い。これまで女児を対象とした極悪非道の犯行を重ねてきた勝田容疑者の特異な家庭環境について、改めて振り返る。
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先月11日から勝田容疑者の精神状態を調べる鑑定留置が始まった。今後の裁判で勝田容疑者の刑事責任能力が争点になる可能性があることから、事件当時の精神状態を調べることになる。
鑑定留置では、医師が容疑者の精神疾患や障害の有無、それらと事件との関連を調べるため、容疑者の生い立ちや供述内容などを精査する。
鑑定は通常数カ月間にわたって行われ、当時の精神状態を見極めることになる。
現在行われている鑑定留置において、勝田容疑者の精神状態や異常な性癖に迫る上で重要なポイントとなるであろう特殊な家庭環境や来歴などについて、医師のコメントなどと併せて改めて振り返る。
(以下、「週刊新潮」2024年11月21日号記事をもとに再構成しました。日付や年齢、肩書などは当時のまま)
岡山県津山市で2004年9月、小学3年生の女児を刺殺した勝田州彦は、23年9月に無期懲役が確定して服役中だった。
この男が、新たな殺人未遂容疑で逮捕されたのは、24年11月7日のことである。
「06年9月、兵庫県たつの市で小学4年生の女児が胸や腹部を刺され、全治2カ月の重傷を負いました。津山市の事件と手口が似ていたこともあり、勝田の関与が浮上。兵庫県警は5月下旬から任意で事情を聞いてきました。当初、勝田は否認していたのですが、途中から犯行を認め、『学習塾の近くで帰る女の子を狙っていた』と供述している。また当時、付近で別の女児が男から抱きつかれる事案があり、これについても認めています」(県警担当記者)
小3女児を殺害した「津山事件」では、任意捜査の段階で犯行を認めながら18年5月の逮捕後は否認するなど、勝田容疑者は主張を二転三転させてきた。そのため供述の信用性が焦点となるのだが、
「たつの市の事件では凶器が見つかっていませんが、被害者のけがなど現場の犯行状況について本人が矛盾のない供述をしているため、逮捕に至りました」(同)
とのことで、さらに07年10月に同県加古川市で起きた鵜瀬柚希ちゃん(当時小2)刺殺事件についても、勝田容疑者は犯行を認めたという。
「自宅前で刺された柚希ちゃんは救急搬送される際、犯人について『大人の男』と言い残しました。が、物証が乏しく捜査は難航。一時は親族犯行説も浮上するなど、捜査は混迷を深めていたのです」(同)
迷宮入りが危ぶまれた事件に一転、大きな突破口が開かれた格好だが、そもそも勝田容疑者が「津山事件」で逮捕されたのも、別件で服役中のことだった。15年5月に姫路市で女子中学生の胸や腹をクラフトナイフで刺し、翌年には懲役10年の実刑が確定したのである。
残忍な凶行を繰り返してきた勝田容疑者とはどういう男なのか。
加古川市で生まれた勝田容疑者は、地元の小中学校を経て県内の私立高に進学。卒業後は海上自衛隊に入隊するが、長続きせず。語学専門学校に通った後、米国へ短期留学を果たしたのだが、帰国後はゴルフ場勤務や運送会社のガードマン、工員など職を転々としている。父親は兵庫県警の元警察官で、母親もまた元県警職員。10歳ほど離れた姉は早くに独立したといい、親元に住み続けた勝田容疑者は成人後、“異常犯罪者そのもの”と化していく。全国紙社会部デスクによれば、
「最初の逮捕は21歳だった00年。明石市で10歳前後の女児数人に対し、腹を殴ったりわいせつ行為をしたりして逮捕されています。この時は10件超の余罪を認め、保護観察付きの執行猶予判決でした。続けて09年、姫路市で小学1年の女児の腹を殴り、懲役4年の実刑判決を受けました」
そして出所後、前述の「姫路事件」を起こしている。
「この事件の公判では、勝田の異常な性癖が明らかになりました。中学校でいじめられた経験や両親の厳しいしつけが原因で、ナイフで自分の腹を刺したり彫刻刀で腕を切ったりと自傷行為を繰り返すようになったとのことで、出血する様子を見て興奮、快楽にふけっていたというのです」(前出のデスク)
高校入学後は、少女が登場するアニメに傾倒していったという。
「一審判決では、自分の血を見ながら、少女が血を流している姿を想像して興奮を覚えるという性癖が指摘され、“少女のシャツが血で染まるのを見たいという特異な性癖に基づき女子中学生を無差別に狙った”“他害行為への衝動は相当に根深い”などと認定されています」(同)
前述した09年の事件で出所した後、勝田容疑者は自傷がエスカレートして入院。「姫路事件」を起こす2カ月前のことだった。医師から行為を止められた勝田容疑者は、代わりに「他人を刺そうと思った」と法廷で証言している。
「姫路事件」の公判を16年5月に傍聴した、元兵庫県警刑事の飛松五男氏が言う。
「たつの市や加古川の事件は、私の退職後に発生していますが、早期解決を願って常に関心を寄せてきました。一方で15年に『姫路事件』で勝田が逮捕されたことで、その手口などから残りの2件もこの男の犯行ではないか、と疑いを抱くに至ったのです。実際に、犯行当日の行動を振り返って淡々と証言する姿を目の当たりにし、その思いはいっそう強まりました」
公判では、高校卒業時に警察官の採用試験を受けて失敗したことや、実家を出てマンション暮らしをした時期があり、250万円のローンでワゴン車を購入していた事実など、勝田容疑者の身上が次々と明かされていったという。
先述の通り、家庭でのしつけが自傷行為、ひいては異常性癖へとつながっていったという見方があるのだが、
「勝田の父親は県警の先輩ですが、在職中に面識はありません。母親は私の在籍していた捜査1課の庶務係だったこともあります」
飛松氏はそう前置きしながら、
「私は津山事件で勝田が逮捕された直後に実家を訪問し、両親と対面したことがあります。まず父親に、家庭で虐待をしていたのかと問うたところ、『(州彦が)言うことを聞かないから半殺しにしたった』と認めていました。一方、中学校で勝田は、暴力を振るわれたり机に落書きをされたりといったいじめを受けていたのですが、父親は放置していたというのです」
また母親についても、
「体を傷つけて快楽にふける息子には気付いていた様子でした。というのも、息子の部屋で血を見ており、“栗の花の匂いがする”と私に明かしたのです。また加古川の事件が起きた後、警察が自宅を訪ねてきたことがあったといい、両親がそれとなく本人に聞いてみたものの、はっきり返事をしなかったという。それでも『やっていないと信じるしかなかった』と話していました」
そんな父も6年前、そして母は後を追うように4年前、他界したという。
前出のデスクが言う。
「『姫路事件』の公判では、勝田の精神鑑定を担当した医師が出廷。本人について、『サディズム型ペドフィリア』であると述べていました」
精神科医の片田珠美氏によれば、
「攻撃衝動を向ける先は正反対ですが、実はサディズムとマゾヒズムは表裏一体です。フロイトも、両者は反転したものであると述べています」
とのことで、
「勝田容疑者は初め、父親に対する攻撃衝動があったものの、直接向けるのは怖いので抑圧せざるを得ず、衝動を反転させて自身を傷つけていたと思われます。それが途中からもう一度反転し、小児性愛の傾向も相まって、小さい女の子を刺して流れる血を見て興奮するに至ったのでしょう。刃物で人を傷つけることには性的な意味合いがあります」
元東京高検検事の川口克巳弁護士は、
「津山の事件の裁判が確定する前に犯した罪、つまりたつの市の殺人未遂事件、そして加古川の殺人事件が加わることで刑法45条の併合罪となります。常識的には検察官は死刑を求刑し、判決も間違いなく死刑となるでしょう」
鑑定留置は3月14日まで行われ、その後、検察は勝田容疑者を起訴するかどうかを判断することになる。
デイリー新潮編集部