【前後編の後編/前編を読む】排卵日の「行為強制」が苦痛…結婚2年、進まぬ妊活で見えた妻の本性 44歳夫のボヤキ
「ごく普通の家庭に育った」と自称する江崎貞一さん(44歳・仮名=以下同)は、1年半ほどの交際を経て奈那さんと結婚した。はじめは気の強い彼女に好感を持っていたが、結婚2年がたっても子に恵まれないことで「思い通りにならないことが許せない」という奈那さんの一面が明らかに……。時にヒステリックにもなり、妊娠がわかったときは「これで振り回されなくてすむ」と貞一さんは思ったという。だが娘が産まれても奈那さん変わらなかった――。
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その後、息子も生まれ、奈那さんは「これで家族の形ができた」とうれしそうだった。どこか違和感があったが、妻が満足しているならそれでいいと貞一さんはホッとした。
上の子は10歳、下の子は7歳になる。
ただ、奈那さんの不機嫌さ、口うるささは今も変わらない。年月を経てより助長されているようだ。
「娘が5歳になったころ、あまりに子どもたちへの小言が多いので『パートで仕事復帰してみたら?』と言ったことがあるんですが、『私に子どもと離れて稼いでこいっていうの?』と睨まれました。なんというか……今どきでいえばヒス構文っていうんですかね、話が飛躍しがちでなおかつ、被害者意識が強いんですよ。いや、そういう意味じゃなくて、ずっと子どもと一緒だとストレスになるだろうしと言うと、母親は子どもと一緒にいるべきよ、と。かえって子どもたちにストレスがかかるなと感じましたね」
それは娘が小学校に上がってからも変わりなかった。自分がすべてを把握していないと気が済まないところがあるのだ。
「いろいろありましたよ。娘が学校の帰りに道草を食っただけで、妻が娘の夕食を出さなかったこともあった。彼女の制裁は“食事抜き”なんですよ。子どもに対して、それだけはやってはいけないと僕は言いました。育ち盛りの子の食事を抜くなんて言語道断。すると『兵糧攻めがいちばん効くのよ』と妻が言った。怖い人だと思いました」
奈那さんの矛先は、もちろん貞一さんにも向かってくる。2年ほど前に貞一さんは異動になった。地道にがんばってきた「ごく普通のサラリーマン」だった彼が、急に社内でもっとも多忙な営業部員となったのだ。
「最初はお手上げでした。たまたま僕の1年後輩が営業にいたので1から仕事を教えてもらいました。先輩後輩問わず、誰にでも教えを請うていましたね。そのおかげで半年ほどでなんとか少しずつ仕事の全体像が見えてきた。前任者と同じことをやっていてもダメ、自分のやり方を見つけなければと必死でしたね」
昨年は大事な出張にも行かせてもらった。入社して20年を越えて、彼はようやく仕事のおもしろさに目覚めたと恥ずかしそうに言った。もちろん出世欲などはない。ただ、目の前の仕事をいかに相手の期待以上に仕上げるか。周りと力を合わせてそれが達成できたとき、今まで感じたことのない喜びを感じるようになった。
「仕事は生活の糧だけど、それ以上にもなり得るんだと思います。今どきは、そういうのをやりがい詐欺だとかいうんでしょうけど、そんなことはどうでもいい。実際、僕は楽しんでいますから」
妻にもそんな話をしたことがある。だが妻は、「仕事に逃げればいいんだから羨ましいわ。家庭内のことはすべて私に任せるといえばいいんだものね」とため息をついた。そういうことじゃないんだけどなあというと、「私は毎日、ふたつの命を全力で見てるのよ。仕事と子ども、どっちが大事なの」と言われた。子どもに決まっているだろと彼は少しイラッとしながら言った。
「何か不満があるなら言ってほしいとも何度も言っていますよ。彼女はいろいろなギャップに悩んでいるように見えます。子育ての理想と現実、自分自身がもっていた万能感と実際の日常、僕に対してももっと頼りになると思っていたのにそうではなかったこと、収入ももっと上がるはずだと思っていたのに上がらないとか。でも収入はどうにもなりませんし、僕は自分が頼りになる人間だなんて期待をさせたことはない。むしろしっかり者の妻とダメ亭主みたいに友人たちから言われていて、それは奈那もわかっていたはずなのに……。もちろん、開き直るつもりはありませんが」
でも、人生って思い通りにならないからおもしろいとも言えるわけで、と彼は言った。奈那さんはそれをおもしろがれずにストレスとして抱え込んでしまうようだ。だから一方的につらくなり、夫がヘラヘラしているように見えるのだろう。
「それぞれの違いはけっこう明確だから、じゃあ、どうやって補い合っていくかを話せばいい。僕はそう思うんだけど、彼女はそれぞれが完璧を目指すべきだと言い張る。完全な人間を目指してどうなるんだろうと思いますけどね」
そんなとき奈那さんが体調を崩した。子どもたちがインフルエンザになり、とうとう奈那さんも引いてしまったのだ。ただ、すぐに医者にかからずにこじらせて肺炎を起こしてしまった。奈那さんは入院し、貞一さんは義母を呼んだ。
「義母はすぐ来てくれました。息子が学校に入ってからは、あまりうちに来てもらうこともなかったんですが。夕飯の支度をしてくれて子どもたちが寝るまでつきあってくれて。子どもたちも義母のことは好きなので、僕が帰宅すると3人でゲームをしていることもありました。楽しそうでしたね。子どもたちがキャッキャと声を上げている。それを見て、奈那がいると子どもたちはどこか萎縮しがちなんだなと改めて気づきました」
貞一さんは、奈那さんの母親としての厳しさを義母に相談してみた。奈那さんはもともとああいう人なのかということも含めて聞くと、義母はしばらく考え込んだ。
「私はあの子に厳しくしたつもりはない。自分も子どもだったから、子どもとは同じ目線で話したし、教えてもらうことも多かった。だけどあの子は小さいときから、妙に責任感と正義感が強かったわね、と言っていました」
奈那さんが小学校に入ったばかりのころ、遅刻してきたクラスメイトがいた。奈那さんは「遅刻しちゃいけないんだよ、帰れ」といち早く声を上げた。周りの子たちがそれにつられて帰れ帰れと叫び、その子は泣きながら帰ってしまったのだという。
「先生にその話を聞いて、どうしてそんなとびっくりしたと義母が言うんです。『私も夫も正義感のために人を批判するなんてことはほとんどないはずなのに。奈那はまじめでしたけど、正義のために人を傷つけてもいいと思っているところがあった』って。確かにそうだなと思いました」
義母はため息をついていた。つられて貞一さんもため息をついた。僕は家族でのんびり楽しく生きていきたいだけなのに、と彼はつぶやいた。
「でも出世したんでしょ、奈那が言ってたわよって。『いや、出世とは違う』と異動になったことなどを話しました。義母はじっくり聞いてくれて『いいわね、仕事に夢中になれるってすごく素敵だと思う』と言った。そうだ、僕はこういう反応を奈那に求めていたんだと思った」
その昔、子どもたちが小さいころ、うちのおとうさんが失業したのよと義母は言った。初めて聞く話だった。手っ取り早く稼ぐために義母は水商売の世界に入った。夫は仕事を探しながら子どもたちのめんどうをみた。そのうち、水商売がおもしろくなっちゃって、おとうさんが主夫やってくれてもいいと思い始めたと義母は笑いながら言った。
「ま、結局、自分の店を持てるわけでもないし、年齢とともにウケが悪くなるのも感じたからやめたけど。でも4年くらい勤めていたのよ、けっこう売れっ子ホステスだったんだからと義母は言いました。その話、奈那は知ってるのかと聞くと、奈那はもう小学生だったから覚えてるんじゃないかなって。でも僕は奈那の口からは聞いたことがない。それで思い当たったのは、奈那がサービス業の女性に冷たいこと。結婚前、デートで喫茶店とかバーとかへ行くと、サービスしてくれる女性をよく睨んでた。『あの子、あなたに媚びるような目で見てた』と言う。当時は嫉妬してくれているのかななんて思っていたけど、母親が酔ってどこかで男に媚びるところでも見たことがあるのかもしれません。とはいえ、潔癖すぎますけどね」
義母にそれとなくそんな話をしてみると、「貞一さん、奈那を見捨てないであげてね」と手を重ねてきた。きれいにネイルが塗られた細長い爪と、その手のあたたかさに彼はドキッとしたという。
「義母に“女”を感じてしまい、そんな自分を恥じました。でもそれ以降、毎日、義母と話すのが楽しみになって。奈那は1週間ほどで退院したんですが、退院した日は義父母も交えてお祝いをしました。奈那は元気そうでしたが、義父母が帰って子どもたちが寝つくと『なんだかあなた、生き生きしてるわね』と。きみが退院してうれしいよと言ったら、『男の人がそういうときって怪しいのよね』って。どうして素直に言葉を受け取らないんだろうと思わずつぶやいてしまいました。それ以上、争いたくなかったから僕は風呂に入った。出てきて寝室に行くと、妻はもう背中を向けて寝ていた。なんだかかわいそうな女だなと思いましたね。同時に義母のきれいな手を思い出して、自分もちょっとおかしくなってると戒めました」
もちろん、義母とどうにかなろうとは思っていない。ただ、1日仕事をして疲れて帰宅し、夕飯をとりながら四方山話をするなら、妻ではなく義母のほうが楽しい。貞一さんは自分の心の中に義母がくっきりと存在感を示しているのを感じている。愛に年齢は関係ない。彼の表情を見ていると、このままおわりそうにはないような気がした。
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今のところは問題のないように思える貞一さんだが、このまま奈那さんの“ヒス”が続くとなるとはたして……。夫婦のなれそめ、そして変貌していった奈那さんについては前編で詳しく紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部