正月は久しぶりに家族が集まり、雑煮などで餅を食べる機会があるだろう。その時に注意が必要なのは、毎年のように起きている高齢者が餅を喉に詰まらせる窒息事故だ。
国民生活センターが呼びかける事故防止のポイントと、「改定6版 救急蘇生法の指針2020(市民用)」から、いざ窒息事故が起こった時の対処法を紹介する。
国民生活センターが2024年12月に公開した「少しずつゆっくりとかんで、餅での窒息事故を防止!」と題した注意喚起では、2つの事例を紹介している。
1つ目は、残念ながら亡くなってしまったケース。
「自宅で餅を食べていたところ、のどに詰まらせた。苦しがって数分で意識を失い、救急車を呼んだ。救急隊により餅は取り除かれたが、死亡した。(80歳代)」
2つ目は、一命をとりとめたケース。
「朝食に食べた餅がのどに詰まり、反応がなくなった。家族が救急車を呼び、口の中から餅を取り出した。救急隊が到着した時は、呼吸はできていたが異物が残っていたため取り除いた。病院に到着した時には意識が回復し、他に異常がないことが確認されたため、帰宅となった。(80歳代)」
そして、このような事故を防ぐためには、次のポイントに注意してほしいとしている。
・餅を食べやすい大きさに小さく切っておきましょう。・あらかじめお茶や汁物を飲んでのどを潤しておきましょう。・ゆっくりとよくかんで、唾液とよく混ぜ合わせてから飲み込みましょう。・高齢者と一緒に食事をする際は、少しずつ口に入れているか、しっかりかんでいるかなど食事の様子に注意を払い、見守りましょう。
しかし、実際に事故が起こってしまったらどう対処すればいいのだろうか。2つ目の事例にもあったように、いざというときの周囲の対処が生死を分ける可能性につながる。
そんな時に参考になるのが、一般財団法人日本救急医療財団心肺蘇生法委員会が監修する「改定6版 救急蘇生法の指針2020(市民用)」だ。
同指針から、「窒息の発見」と「119番通報と異物除去」について紹介する。
「適切な対処の第一歩は、まず窒息に気がつくこと」だという。
「苦しそう、顔色が悪い、声が出せない、息ができないなど」があれば窒息している可能性がある。
また「気道異物により窒息を起こすと、親指と人差し指で喉をつかむ仕草」をすることがあるそうで、これを「窒息のサイン」と呼ぶ。
このとき、反応がある場合は次のように対処する。
「傷病者が声を出せず、強い咳をすることもできないときには窒息と判断し、救助者はただちに大声で助けを呼んで、119番通報を依頼」し、異物除去を試みる。「救助者が1人の場合、傷病者に反応がある間は119番通報よりも異物除去を優先」する。
異物除去の手順は、「まず背部叩打法を試みて、効果がなければ腹部突き上げ法を試み、異物が除去できるか反応がなくなるまで」続けてほしい。
(1)背部叩打法「声が出ない、強い咳ができない、あるいは当初は咳をしていてもできなくなった場合には、まず背部叩打を試みます」。立っている、または座っている傷病者の場合「傷病者の後方から手のひらの付け根(手掌基部)で左右の肩甲骨の中間あたりを数回以上力強くたたきます」
(2)腹部突き上げ法「背部叩打で異物が除去できなかったときには、次に腹部突き上げを行います。救助者は傷病者の後ろにまわり、ウエスト付近に手を回します。一方の手で握りこぶしをつくり、その親指側を傷病者の臍より少し上に当てます。その握りこぶしをもう一方の手で握って、すばやく手前上方に向かって圧迫するように突き上げます」
異物が除去できるか反応がなくなるまで繰り返し行う。
腹部突き上げを実施した場合は、腹部の内臓をいためる可能性があるため、異物除去後は、救急隊にそのことを伝えるか、すみやかに医師の診察を受けさせることも忘れてはいけないという。
なお、明らかに妊娠していると思われる女性や高度な肥満者、乳児には腹部突き上げは行わないとのこと。
反応がなくなった場合は次のように対処してほしいという。
「傷病者がぐったりして反応がなくなった場合は、心停止に対する心肺蘇生の手順を開始します。胸骨圧迫によって異物が除去できることもあります。まだ通報していなければこの段階で119番通報を行い、近くにAEDがあれば、それを持ってくるよう近くにいる人に依頼します」
なお「心肺蘇生を行っている途中で異物が見えた場合は、それを取り除きます。見えない場合には、やみくもに口の中に指を入れて探らないでください」とのこと。
周囲の大切な人が窒息しているかも?と気づいたら、恐れることなく行動を起こしてみよう。それが命を助けることにつながる一歩になるはずだ。