11月5日に発表された上期の連結決算において、営業損益が150億円の赤字に転落した、宅配大手のヤマトホールディングス(HD)。

前編『「スマホをパクってるのは絶対にスキマバイトの連中だろ」…150億円の赤字に転落した「ヤマト運輸」で「iPhone窃盗」が頻発している「謎」』に続いて、後編では現場のドライバーを取材。

昨年スタートした「分業制」のほか、新サービス「こねこ便420」に関しても、現場からは不満が相次いでいることが判明した。宅配業界の雄、ヤマトの苦難の1年間を振り返る。
宅配大手のヤマトホールディングス(HD)にとって、今期は「勝負の1年」のはずだったーー。
昨年6月、トラック運転手不足が懸念される「2024年問題」を見据えて、ヤマトは長年ライバル関係にあった日本郵政との協業を発表。それに伴い、今年1月末にはポスト投函サービス「クロネコDM便」を廃止し、その業務に携わっていた個人事業主およそ2万5000人との契約を終了した。
そこで「クロネコDM便」を兼業していた「早朝仕分け」のパートが大量に退職したことにより、都内を中心とした営業所では、新たにスキマバイトアプリのスタッフが加入。しかし、単発バイトで不慣れなスタッフも多いことから、現場のドライバーから不満が相次ぐ事態になっている。
さらに現場ドライバーの利益効率化を目指すヤマト運輸は、昨年8月ごろから「分業制」をスタート。もともとヤマト運輸のドライバーは「SD」(セールスドライバー)と呼ばれており、集荷や配達のほかに営業も行なうのが基本だったが、冷凍食品や生鮮食品の配達を専門とする「CD」(クールドライバー)を新たに組織した。
対象エリアの全てのドライバーを対象に「説明会」を開いてメンバーを指名。港区・品川区・千代田区・新宿区・江東区などで新たに「クール部隊」と呼ばれる組織を立ち上げたが、これも現場からは非難の嵐だったという。
「現場ではドライバー1人あたりの配達範囲が広すぎて『時間指定便』の遅延が相次いだり、荷物が冷凍庫に入りきらずに解凍事故が起こりそうになったりと、その実態は業務効率化とはあまりにもかけ離れていました。
現在ではクール部隊は解体の方向に進み、担当エリアは縮小されていて、現場からも『本社は認めてないけど、あれは完全に失敗だったよね』と呆れられています」(ヤマト運輸関係者)
こうして本社の”肝入り”だった「分業制」まで失敗に終わったヤマト運輸は、今年9月に新サービス「こねこ便420」をスタート。
専用資材(横24.8cm×縦34cm×高さ3cm)を購入することで、小さな荷物を全国に発送できるサービスだが、これに関しても現場ドライバーからは「やる意味あるのか?」と疑問の声が相次いでいる。都内の営業所に勤めるセールスドライバーの男性はこう語る。
「明らかに日本郵政さんの『レターパックライト』とサービス内容が酷似しているんです。しかもウチの新サービスの場合、コンビニで専用資材を買えるわけではなくて、セールスドライバーか営業所でしか売っていない。
荷物を送るときも郵便ポストに投函できず、ドライバーに連絡して自宅まで来てもらうか、わざわざ営業所に持ち込みにいくしかないんです。だから同僚たちも『これ誰が買うんだよ。レタパのほうが便利じゃん』と話してますよ」
たしかに両社のサービスを比較しても、専用資材の大きさは瓜二つだ。「こねこ便420」のほうが、「レターパックライト」よりも10円安く購入できるのは魅力だが、前出の男性とは別の営業所に勤めるセールスドライバーの男性は「利用者の意見は、コスト面だけではない」と語る。
「新サービスが始まった当初は、所長も口酸っぱく『お客さんに営業してこい』と言うもんだから、昔から付き合いのある工務店とかに営業に行ったりしていました。でも、実際にお客さんと話していると、こねこ便を一通送るためにドライバーを呼ぶくらいなら、24時間いつでもポストに投函できるレターパックのほうが便利に感じている人が圧倒的に多かったんです。
こうしたユーザーの気持ちを会社はぜんぜん理解していなくて、同僚の間でも『これって企画倒れじゃないの?』と話のネタにされています」
その一方で、トラック運転手不足が懸念される「2024年問題」の対策としてか、ヤマト運輸では今年4月以降、残業時間が厳しく取り締まられるようになったという。
都内の営業所に勤めるセールスドライバーの男性は「たしかに『7-9』と呼ばれる最終の配達時間に関しては、一周してみて不在だったらすぐに切り上げるようになり、早く帰れるようになった」とおおむね満足気だ。だが、別の営業所のドライバーは「そのぶん時間内に仕事を終わらせなければならず、休憩中も荷物の配達をしている」とため息をつく。
そんなヤマト運輸のドライバーを悩ませるのは、なにも配達のトラブルだけではない。神奈川県の営業所に勤める男性はこう証言する。
「毎年クリスマスが近づくと、ウチの営業所では『一人一個はケーキ買ってね』とお達しがくるんです。どういうことかというと、ヤマトの子会社には『スワンベーカリー』というパン屋さんがあるんですけど、そこは先代の社長・小倉昌男さんが福祉施設として立ち上げた背景がありまして…。
だからなのか、一部の営業所ではスワンベーカリーが販売するクリスマスケーキを、社員たちは半ば無理やり買わされるそうです」
毎年10月後半になると、営業所には「Xmasケーキ ご予約受付中」と書かれたカタログを掲示。ケーキを予約した人のリストも出回り、過去には朝礼で「もうケーキ買った?」と副所長に問い詰められることもあったという。
「そりゃ、確かに福祉支援のためになるならという気持ちもあるのですが、こっちは自腹を切るわけだし、無理やり買わされるのはどうなのかなって思いはありますよね。やっぱり個人のケーキ屋さんに比べると味も劣りますし、家族もあんまり喜ばないですよ。同僚たちも『今年もまたこれ買わないといけないのか…』って愚痴ってましたから」
こうした事態についてヤマトの広報部に質問状を送ったところ、以下のような回答があった。
「ヤマトグループは経営理念に掲げている『豊かな社会の実現に貢献』するため、障がいの有無にかかわらず誰もが活躍できる職場づくりに取り組んでおり、ヤマトホールディングスの特例子会社である株式会社スワンを通じて、障がいのある人の経済的自立と社会参加を支援しており、『社員が「スワンべーカリー」のクリスマスケーキを買わなければいけない』という事実はございませんが、いずれのご質問も個別の事案のため、回答を差し控えさせていただきます」
ヤマトの災難は、まだまだ続きそうだ。
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「スマホをパクってるのは絶対にスキマバイトの連中だろ」…150億円の赤字に転落した「ヤマト運輸」で「iPhone窃盗」が頻発している「謎」