公立小中学校の給食に、ファミリーマートの定番商品「ファミチキ」が提供されることが話題を呼んでいる。 時を同じくして、ファンケルは小学生向けスキンケア商品を発売。元ローソン店長にしてポーラ・オルビスにも勤務していた、コンビニにも美容業界にも詳しい消費経済アナリストの渡辺広明氏が、「子供」をターゲットにした企業戦略を読み解く。
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【画像】小中学校で提供される「ファミチキ給食」&ファンケルの「小学生向けスキンケア」
今回の「ファミチキ給食」は、12月19日と20日にかけて、埼玉県狭山市の23校に約1万500個が無償提供された。狭山市がファミマの発祥の地であること、市制施行70周年を記念しての企画だが、地域の小中学生にとっては喜ばしいニュースだっただろう。
2006年に登場したファミチキは、コンビニのホットスナックを代表する商品である。ローソンには「Lチキ」、セブン-イレブンに「ななチキ」の類似商品はあるが、“ファミチキが一番好き”という声はよく聞く(正直に言うと私は食べ比べて当てる自信はないのだが……)。チキンを食べる習慣のある日本のクリスマス前のこの時期、話題になった今回の施策は宣伝効果大といえるだろう。
ただ、ただの宣伝以上の狙いもある。
“三つ子の魂百まで”という諺のとおり、子どもの味覚は、3歳までにほぼ将来の好みが形成されるという。4~5歳で好き嫌いのピークを迎え、8~9歳、だいたい小学2年から3年生で味の嗜好が定着する傾向があると、食育業界ではいわれている。戦後、アメリカの余剰小麦政策の一環として給食にパンが登場したことで、日本の洋食化が進んだとも言われている。
その点、今回の施策で小学生も給食でファミチキを食べる事を考えると、将来のファンを開拓する企画ともいえる。給食で初めてファミチキを食べた、という子も少なくないだろう。それゆえに「幼少時からコンビニ食に触れさせていいのか」「添加物を子供に与えるな」といった声もSNSにはあり、難しいところなのだが……。
つまり、企業戦略において重要視される「LTV(ライフタイムバリュー)=顧客生涯価値」がこの取り組みのポイントである。将来にわたり「ファミチキ」を選び続けるファンを小学生から獲得すれば、長期的な収益にもつながる。
「ファミチキ給食」と同じタイミングの12月17日にファンケルが発売した小学生向けスキンケアブランド「クリアアップ」も、まさにそうした企業戦略だ。200mlで1,320円の泡洗顔と、70ml同価格のジェルミルクがラインナップされている。
“プレ思春期”の肌トラブルを分析したという触れ込みの商品だが、もともとファンケルは「無添加」を謳い、防腐剤や合成香料、紫外線吸収剤などを使用していないため肌への優しさを売りにしている。小学生向けのスキンケア商品を発売するメーカーとして相性が良いといえるだろう。親としても安心して買い与えることができるのではないか。
「クリアアップ」発売を報じるニュースには「小学生に必要なのか」「早すぎる」といった声もあったが、「メイク」と勘違いされていそうな印象をもった。若年層の美容意識の高まりで小学生向けのメイク商品はすでにいくつかのブランドから発売されているが、美しく見える事を目的とするメイクと違い、スキンケアは肌を健康に保つ事を目的としている。スキンケアのほうが、長い人生においてより重要性が高いともいえる。実際、2023年のメイク市場が4,650億円だったのに対して、スキンケア市場は1兆3,519億円とその差は大きい。
将来にわたるファンの獲得という点でも、また小学生向けのスキンケア市場が成熟していないという点でも、大手ファンケルの参入は正解といえる。ブルーオーシャン市場でシェアを一気に獲得していく可能性も高い。
ファミチキは歴史こそ20年ほどだが、先に触れた通り、ライバルコンビニの類似商品がある。詳しくは別記事「“ミスド”を目指すとまた失敗する… セブンはなぜ『ドーナツ』に再挑戦するのか」を参照頂きたいが、今後のコンビニ食の鍵を握るのはできたて=揚げ物でもある。また創業44年のファンケルは、特に国内事業においては顧客の年齢層が上がってきている。どちらも、新規=若年層向けの客層拡大が必須になっている共通点がある。
そして、どちらも「親世代も食べた/使った」となる歴史を持っており、次世代顧客へのアプローチに効果的なタイミングでもある。とくにスキンケアに関しては、親子世代で同じファンケル商品を使うような形も想定できる。
小学生まで広がった“前倒しの顧客獲得”は、企業戦略としてこれから注目されていくかもしれない。
ただし――給食に関しては切実な事情もありそうだ。帝国データバンクの調査によると、学校給食事業者の採算は厳しい状況にあり、2022年度の調査では給食事業者の約34%が赤字で、全体の6割以上で業績悪化が報告されているという。「ファミチキ給食」をめぐる報道でも、現在の給食が映し出されることがあり、その“貧相”っぷりを指摘する声もあった。
それを鑑みると、今後、メーカーや農水産物業者が、マーケティングの一環として給食に商品を無償提供するというのは効果があるかもしれない。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。
デイリー新潮編集部