昨今、中高生でも利用するほど身近になった美容医療。だが、もし自分も試そうと考えているのなら、この話を読んでからでも遅くはない。何しろ施術する側だった医師自身が、その“結果”を後悔しているというのだから……。
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「今でもつえを突かなくては歩けません。まさか自分がこんなことになるなんて」
そう後悔を顔ににじませ語るのは、元美容クリニック医師のS氏だ。20代後半で、趣味はテニスと壮健そのものだった氏が、なぜかような状況に陥っているのか。経緯を当人に尋ねると、
「2022年4月、大手美容クリニックのTCBに採用され、働いていました。そこでの研修が原因で、足に障害を抱えることになってしまったのです」
TCBこと東京中央美容外科の名前は、電車の広告などでご存知の向きも多いかもしれない。さる美容ライターいわく、
「湘南美容クリニックに次ぎ、業界ナンバー2に当たる企業です。十年前に代表の青木剛志(つよし)氏が福島で創業すると、瞬く間に全国で100院以上を開設、急成長を遂げました」
その成功の裏ではひずみも生じていたらしく、
「今年9月ごろ、週刊文春が不祥事を連続して報じました。患者を個室に閉じ込め高額契約を結ばせるといった悪質な内容で、ネットでもトラブルを訴える声が散見されます」(同)
そうした芳しからぬ風評の絶えないTCBに就職したS氏は、見習いとして北関東のクリニックに配属された。
「勤め始めて1カ月ほどたち、簡単な施術はできるようになった頃でした。午前中の業務を終え控室で仕事をしていると、院長から“ボトックス注射の練習をするように”と指示を受けたのです」(S氏)
ボトックスとは近年、時折耳にするが、
「筋肉を弛緩させる薬剤のことで、眉間のシワなどの改善に役立ちます」(同)
S氏は、これを足に打つ“ふくらはぎボトックス”を、同僚の医師とお互いに「打ち合う」よう言われた。
「足を細くする美脚目的の施術ですが、筋肉が弱るなどデメリットもある。気は進みませんでしたが、院長に“日常生活の中で元に戻る”“歩けなくなることはない”と言われ、診察台にうつ伏せになりました」
そして両足のふくらはぎに、同僚の手によるボトックス注射を受けたS氏。特に痛みなどもなく、仕事に戻ったのだが……。
“異変”に気付いたのは、それから約1カ月後のこと。
「最初は、何だか足が疲れやすいという程度でした。その内、5歩も歩くとふくらはぎが“つる”ようになってしまい、尋常ではないと思いました」(S氏)
慌てて都内の脳神経外科に駆け込むと「副作用のリスクがある本物の薬剤を練習で使うなんて」と驚かれたうえ、「注射により足の筋力が著しく低下している」との診断を受けた。
S氏はこの頃、TCBを退職し労災としての対応などを求めたが、はぐらかされるばかり。
そこで診断書を片手に、弁護士に助けを求めたのである。担当する五領田有信(ごりょうだありのぶ)弁護士が語る。
「美容クリニックでのトラブルは、被害者が同意書などを交わしていると、泣き寝入りになることが多い。今回は勤務医が被害者という、極めてレアなケース。戦える見込みがあると考え、一昨年9月に損害賠償請求を起こしました」
訴訟を準備する間にもS氏の症状は重くなり、
「一時は車椅子生活になってしまったほどで、障害者手帳(6級)も取得しました。リハビリで少しずつ改善していますが、走ったりはとてもできません」(S氏)
と嘆くのだ。そしてTCBにはこう憤る。
「自分も医師なので、どうしても事故が生じるのは理解できます。しかし謝罪もケアもないというのは、あまりに無責任。そんな所だと分かっていたら、就職なんてしませんでした」
TCBに見解を求めるも、回答はなかった。今月26日の判決が注目される。
「週刊新潮」2024年12月26日号 掲載