“スキマ時間”に好きな場所・仕事を選んで働ける「スポットワーク」が盛況だ。企業と求職者がそれぞれアプリに登録し、単発のバイト契約を結ぶ働き方のことで、スポットワーク協会によると、同協会に参加する事業者の登録会員数は10月1日時点で約2500万人。若者からシニアまで幅広い層が利用している。
労働者側にとっては面接や履歴書なしで働ける手軽さ、「自分の都合の良い時間に働きたい」というニーズを満たしてくれ、企業側も少子高齢化での深刻な人員不足を補う重要な手段となっている。
7月に時価総額1379億円の大型上場を果たした「タイミー」が最大手に挙げられるが、ほかにもリクルート、LINE、メルカリといった大企業が続々と参入している。求人企業と労働者のいずれにもメリットをもたらす“新しい働き方”だと喧伝される一方、懸念点は数多い。
副業として始めたスポットワークでトラブルに巻き込まれたという、兵庫県在住の池田真一さん(51歳)は、自身の体験をこう話す。
「普段は大阪で印刷会社の正社員として働いているのですが、そこの給料だけでは厳しい状況になったため、副業としてスポットワークを利用するようになりました。
あるクリーニング工場で十数回働きましたが、企業側の都合で予告なく一方的に早上がりさせられたにもかかわらず、その分の賃金が支払われないということが、たびたび起きるようになりました。募集時点では8時間の契約で就労したところ、当日になって6時間労働になることが続いたのです」(以下、「」は池田さん)
池田さんが利用したスポットワーク業者では、業務終了後にアプリ上でワーカーと企業側が相互に評価し合い、レビューが公開される仕組みになっている。その際に、企業への要望や改善点があれば書き込むこともできる。
「実際にレビューを見ると、早上がりをさせられて不満を抱いている他の方のコメントも見受けられました。そこで、善処してもらえるようアプリに書き込みをしたところ、先方から“ブロック”されて求人を一切閲覧できない状態になったのです。私が利用したアプリでは、企業側が『態度が悪い』などといったことを理由に、相性の悪いワーカーをブロックできる機能があるのです」
投稿したレビューの内容が原因に違いない、と池田さんは呆れる。
「仕事中に大きなミスをしたり、企業に損害を与えたりといった、解雇の理由に抵触するような行為はしていません。早上がりなど一連の問題に対して、所属する労働組合を通じて団体交渉を申し込んだところ、企業側からは『アプリ上でブロックした理由は“仕事が遅かったから”』だと言われました。
しかし、それ以前に十数回も就労していましたし、現場で仕事が遅いことを指摘されたことはありません。私がレビューに要望を書き込む前は、新たな求人公開があるたびに先方からリクエストが届いていたので、むしろ仕事ぶりを認められていたと思うのですが……。
アプリ上に仕事は溢れているのだから、イヤな目にあったのであれば次の条件に合うとこに行けばいいと思われる方も多いと思います。ですが、自分としては仕事内容が合っていましたし、今後も働きたいと思っていました。何より企業側に正当な改善を求めただけでシャットアウトされるというのは、あまりに不健全な状態です」
池田さんは上記の実情をスポットワーク事業者にも問い合わせたが、特に対応はしてもらえなかったという。
「『我々の仕事は、企業さんとワーカーさんをつなぐ橋渡し的な存在である。労働基準法にのっとって企業に対応は任せているので、トラブルは会社とワーカーの間で解決してください』と、そういう丸投げのスタンスなんです」
スポットワーク事業者は、ワーカーの総時給に対して約3割の仲介手数料を受け取っている。にもかかわらず、問題生時の対応は労働者側に任せきりという一端がみえる。
社内規定管理のクラウドサービスを展開する「KiteRa」が、今年5月に公表した調査結果では、スポットワークでトラブルに遭遇したと回答した人は51.4%に上った。そのうちトラブルに遭った6割以上が、スキマバイト事業者など仕事の紹介元に相談したが、半数以上は未だ解決していないという。
なお、トラブルの内訳は「仕事内容が事前に聞いていた内容と異なる」が最多の52.0%で、「労働条件(時間や給与など)が異なる」が46.9%に及んだ。また、労働基準法で定められている労働条件通知書の交付についても、「1度も送られてきたことがない」「送られてこないことがある」と回答した人が半数を占めている。
スポットワーク事業は、企業とワーカーが相互評価を行うことで、評価の低い企業にはワーカーが集まらず、同様に評価の低いワーカーには仕事が渡らなくなる仕組みになっている。
だが、池田さんのように正直な評価をつけることでブロックされることがまかり通るのであれば、労働者側がマイナス評価を付けることは困難になる。こうした問題を是正する仕組みがない以上、アプリ上のレビューが正当な評価で成り立っているかは極めて不透明と言えるだろう。
「もちろん早上がりで賃金をカットされるのは稼ぎ的にも困ります。ただ、その未払い賃金を払ってほしいというよりは、求人をシャットアウトされ、働く機会が失われたことの改善を求めたかったのです」
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