特定妊婦という言葉を聞いたことがあるだろうか?
特定妊婦とは、出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦のことだ。
主に収入が安定せず、貧困状態にある、未成年の若年妊娠、パートナーからのDV、知的・精神障害などで育児困難が予想される妊婦のことを指す。
2010年に設立され、2012年6月に茨城県にて『特定非営利活動法人』として認証された国内優先型の特別養子縁組団体であるBabyぽけっとでは、こういった産むことはできるが育てることが難しい特定妊婦の出産を全面的にサポートし、不妊治療に励むも子供を授かれなかった子供を育てたい夫婦とマッチングさせる養子縁組の仲介とあっせん事業を行っている。
今回はBabyぽけっと代表である岡田卓子代表に、昨今の特定妊婦の現状を赤裸々に語ってもらった。
様々な事情を抱え相談にくる特定妊婦が多いそうだが、ここ数年は未成年とくに中学生の相談が増えてきているという。
「12歳はいないけど、13歳はいました。中学生で出産する子のほとんどは育てることが出来ないので、養子に出すという選択をします」
中学生妊婦の多くが親も30代半ばと若い。親が実子として育てることも可能な気もするが、なかなかそううまくはいかないようだ。
「大体が妊婦以外にも兄弟が何人もいて金銭的に厳しかったり、あとはご近所の目がありますから。1番良くないのは娘が産んだことがバレてしまうこと。学校を長い期間休んで、いきなり新生児が生まれていたら『お母さん、妊娠した様子がなかったよね』『娘さんが産んだかもね』でバレてしまうと思います」
子供の父親に多いのは事件性のあるレイプよりも、同級生の彼氏がほとんど。避妊をきちんとしなかった理由の多くが「彼氏に嫌われたくない」なんだとかー。
「生理が来ないから彼氏とドラックストアで妊娠検査薬を買って、陽性が出る。でも怖いから誰にもいえず病院も行かず。8ヶ月頃になって大きくなったお腹を不審に思った母親に『あなた妊娠してない?』と聞かれ白状する、なんていうパターンが多いですね」
中学生で出産でしかも地元で出産となるとリスクが大きく、Babyぽけっとなどの団体を頼る親子は多いようだ。
「学校や親戚だけではなく、中には同居している祖父母にも隠していることもあります。父と母の3人の秘密にしようと」
出産したこと自体は周囲にバレないようにしたいが「中学校には話すべき」と岡田代表は話す。
「中学は義務教育だから退学させられることはないし、長期間休むと逆に変に思われてしまうこともあるので、校長と学年主任には言った方がいい」
そこから広まってしまうことはないのか?と問うと「ない」とキッパリ言い切る。
「在校生が妊娠したなんてなれば、その学校の性教育を問われてしまうので絶対に口外しませんよ。それに中学生はやっぱり若いからかなぁ。本当にコロっと産んじゃうし、産後の体力の回復もすごく早い。だから意外とすぐに元の暮らしに戻れます。でも高校生は別。義務教育ではないから、私立はほぼ退学になります。卒業間近だと『レポート提出だけでいいよ』という配慮をしてくれる学校もありますが、こればっかりはなんともいえません」
高校生で出産し、高校を退学になった場合、出産後に通信制の高校に行くことが多いようだ。
中学生にしろ高校生にしろ未成年同士の妊娠・出産は当然親同士の話になる。だが、相手(男)側の親は「子供同士の話だから」と逃げ腰なことも多い。
「強い親が勝ちっていうところもありますね。悲しいけど。『本当にうちの息子の子なのか?』と、その母親仕切りでDNA鑑定して『親子関係が認められない』と言い張られた子もいました…。病院などを通さず、ネットか何かで購入したDNA検査キットでやったんでしょうけど、息子の唾液を入れたかどうかも定かではない。母親が考えたのか誰かの入れ知恵なのかはわかりませんが、妊婦は『彼氏としかSEXしていない』と言い切っていたので不憫でした」
未成年の次に、ここ数年増えているのが【ホームレス妊婦】。彼女たちは、きっちりメイクをしてブランド物のバックを持っているのに、頼る家族も住む家も、さらに現金までもがない。
「何十万の鞄を持っているのに現金は100円しかなくて、住民票も保険証もなくて荷物はキャリーケース一つ。水商売や風俗の寮を転々としたり、繁華街で知り合った友人の家を転々としたり。だから妊娠しても病院に行けない。冗談抜きで貧困の妊婦ばかりです」
筆者が見た報道特集に出演していた特定妊婦は「もう1万円しかなかった」と発言し、驚愕したが「1万円持っているだけ全然いい方」なんだとか。
さらに、風俗店で働き望まない妊娠をしてしまう特定妊婦のほとんどが「ホストにハマっているんですよね」と、岡田代表はため息をつく。
「昨今のTVの報道の通りです。20歳そこそこで月に何十万、何百万稼いで全部ホストに使っちゃうから家も借りれないし、現金もない。稼いだら稼いだ分ホストに流れてしまう」
ホストの子供を妊娠中に入院していた病院を抜け出し、立ちんぼをしようとしていたところを倒れて救急車で運ばれた妊婦もいたようだ。
「指名しているホストの売上をほぼ一人で支えていたんでしょう。入院している間にホストに金の無心をされたのか、大きなお腹で切迫流産の危険性もあるのにバスに乗って客をとりに行こうとしたと…。その子は最後まで、養子に出すか迷っていました。ホストが『一緒に育てよう』と言ってくれるんじゃないかと…」
結局、願い虚しく欲しかった言葉はもらえなかったようだ。
こういった特定妊婦は悲しいことにBabyぽけっとのリピーターになる可能性が高いと岡田代表は胸を痛める。
「ほとんどが連絡がつかなくなってしまいますが、1割がリピーターとして、また戻ってきます。みんな2回目はもっと酷い状況になっているんですよね…。今までわかっている限りで、自殺してしまった子は2人。ずっと寂しかったのか『シェルターから帰りたくない』と言っていたのが印象的でした。特定妊婦には心が乾いている子も多いのが現実です。母と一緒にご飯を食べたことがない、親に『頑張ったね』『偉いね』と褒められたことがない。だから褒めてくれる、肯定してくれるホストに行ってしまう。この子たちがBabyぽけっとに来るのは、彼女たちだけの責任では絶対にないんです」
Babyぽけっとに頼る特定妊婦の全てがシェルターに入るわけではなく、自宅で出産するというケースもある。その際に大切なことが2つあるという。
「少し前に『少しお腹が痛いな』とトイレに行ったら、もう胎児の頭が出ていた…ということがありまして。妊娠したことはおろか陣痛にもおしるしにも気が付かず、前日まで普通に働いていたというのです。咄嗟に母親が胎児を取り上げて、胎盤と臍の緒を切って救急車を呼んで、病院から電話をいただいたのですが、こういう場合は産気づいたらすぐに救急車を呼んで、胎盤も臍の緒も切らないで欲しいんです。もし間に合わなかった場合も胎盤は捨てず、出産した様子を写真に撮る。汚いとか関係ない。全てが証拠となるので必ずそれはやってほしいです」
また救急車を呼ばずに最悪のことになった場合「胎児放棄」となり、逮捕されてしまう。
「救急車を呼んでいるのと、呼ばなかったのでは全然違う。彼女の場合はじぶんで妊娠に気が付かず、母親が対処してくれたからよかったですが、もし妊娠に気がついていたけど『誰にもいえない』『保険証がない』と悩んでも、後からどうにでもなるのでまずは救急車を呼んでください」
また本人以外から「助けてください!」と、相談がくることもあるようだが岡田代表は「情報を得ることは大事なこと。連絡をください」と力強くいう。
「特定妊婦自身が『どうして良いのかわからない』と何も行動を起こせず、情報をシャットダウンしたまま出産し、子供を死なせてしまうことが1番問題です。間に合って、ちゃんと出産して特別養子縁組をすれば感謝されるのに、出産した子供を遺棄してしまったら犯罪者となり警察に勾留されてしまう。そうすると、家族に出産したこともバレてしまい、帰れなくなってしまうこともあります」
岡田代表は続けてこう語る。
「シングルマザーは『大変なのに偉いね』と褒められて、子供を養子に出した親は誹謗中傷される。そんな風潮が良くないです。子供がいくら欲しくても授かれない親はいる。逆に授かってもどうしても育てられない親もいる。そんな生みの親と育ての親をマッチングさせることで、救われて幸せに暮らせる命がある。何も批判されることではないし、外野がどうこういうことではありません」
取材日も生まれたばかりの新生児が眠っていた。とても可愛い顔で眠る男の子だった。彼は近日育ての親の元に行くことが決まっており、名前もつけらていた。
彼の母親がどんな事情があって、育てることができなかったのかはわからないが、Babyぽけっとに出会えなければ救えなかった命かもしれない…と思うと、胸が締め付けられた。
今後も1人でも多くの妊婦と小さな命が守られることを願うばかりだ。
さらに続きとなる記事<「子どもを産みっぱなし」で施設に預けておきながら、「他人にあげるのは嫌」と養子に出すことも拒否…それでも親を待ち続ける子どもたちの痛ましい現状>も、ぜひご覧ください。
「子どもを産みっぱなし」で施設に預けておきながら、「他人にあげるのは嫌」と養子に出すことも拒否…それでも親を待ち続ける子どもたちの痛ましい現状