自分の顔を「醜い」「欠点」などと思い込み、整形を繰り返す心の病「醜形恐怖症」。それは10年前、同級生の一言から…。女性は“自分の顔が嫌い・視線が怖い”と悩み続け、メイクに2時間かかったことも。カウンセリングを受けながら、今願うのは…。■他人が見ても分からない“心の病”東京・渋谷。人混みの中を歩く、女性。実は、他人が見ても分からない“ある病気”を抱えています。田中 真緒さん(仮名・24)「なんか見られているのではないか。人の視線が…“私がブス”だから、にらんでいるんだろうなと思っちゃう」

大勢の前では、マスクを外せません。彼女が抱えているのは、「醜形恐怖症」という病気。自分の顔を「醜い」「欠点」などと思い込み、整形を繰り返しています。医師「心の病気なんです。(整形で)形を変えても治らない」家族以外、友人や職場にも、病気を明かすことができないといいます。知ってほしい私のこと「醜形恐怖症」。■自分の顔を受け入れられない…関東で暮らす、田中真緒さん(仮名)24歳。醜形恐怖症に悩んでいます。真緒さん(仮名)「(顔の嫌な部分は)目とか鼻とか唇が薄いところ。顔の輪郭、骨を、丸みを帯びている感じにしたい」自分の顔を受け入れられない真緒さんは、鏡を見続けてしまうことも…。そのため、メイクに時間がかかるといいます。鏡の前に立つ、真緒さん。まずは、目元。黒目を大きくみせるため、カラーコンタクトは欠かせません。そして、唇のメイク。真緒さん「鼻の下が長いのがコンプレックスなのでここ(上唇)に色をのせて短く見せる」上唇をメイクして、鼻と唇の間を短く見せる工夫をします。そして再び、目元。「目は優しい目に見えるように、涙袋をつくっています。目を大きくみせながら垂れ目っぽく…」この日、メイクにかかった時間は、1時間。かつては2時間以上、かかっていたといいます。■知ってほしい「醜形恐怖症」の不安今回、醜形恐怖症を知ってほしいと、取材に応じてくれた真緒さん。本人の了解を得て、渋谷の街を一緒に歩いてもらいました。気になるのは、周囲の“視線”。真緒さん「ちょっと緊張して怖いです。“変な顔だな”とか思われるのが嫌なので(マスクで)隠したり」以前、男性に“にらまれた”と感じました。真緒さん「“私がブスだからにらんでいる”と思ってしまう」“自分の顔のせいで、相手が不快に思うのでは” ――日々、不安を抱えながら生活しています。性別を問わず、思春期に発症することが多いという「醜形恐怖症(身体醜形症)」。心の病気で、髪の毛や、体形などの外見に強い不安を抱き、メイクに2時間以上かかったり、鏡を1日に何十回も見たりするなど、日常生活に支障が出るといいます。真緒さんの場合は、目や鼻、口などの部分が「醜い」「欠点」と思い込み、次々と不安が襲ってくるといいます。■“容姿を軽蔑”する言葉から発症したきっかけは10年前、中学校の同級生の言葉でした。真緒さん「男の子に『顔がブスだね』と言われてすごく傷ついて、それがきっかけでものすごく鏡を見るようになった」同級生から言われた“容姿を軽蔑”する言葉。それ以降、顔に不安を抱くようになりました。当時、真緒さんが書いた日記。「今の私はブサイクで、自分のことあんまり好きじゃないし、自信ないし」「私は可愛いくない。ブスは生きるイミがない」誰にも言えず、一人で追いつめられていました。その後も、顔への不安はなくなることがなく、写真に映る自分の顔が嫌で、自ら塗りつぶしたことも…■整形を繰り返す娘「病気では…」5年前からは、目を二重にしたり、鼻を高くしたりする整形を繰り返すようになりました。“娘は病気なのではないか”――2024年の夏、母親がテレビで醜形恐怖症の番組を見て、医師に相談。母親は10年間、真緒さんの悩みに、気づいてあげられなかったと話します。真緒さんの母親「(娘の悩みに)気づきませんでした」「ただ…中1か中2のときのお誕生日プレゼントで、顔の両方が同じに見える鏡を『これが欲しい』と言って」「いまだにずっと外から戻ってきてはその鏡で顔のチェックをしている」母親は、真緒さんが不安にならないよう、普段から“他人の容姿を褒めない”ようにしています。■患者の考え“受け止める”カウンセリング現在、真緒さんは、都内にある精神科で定期的にカウンセリングを受けています。原井クリニック 原井 宏明 医師「先週3連休だったじゃない。土日も(外に)出た?」真緒さん「家族と出かけていました」この日、真緒さんは医師に“あること”を打ち明けました。真緒さん「(別のクリニックで)ヒアルロン酸を顔に打ちに行くんですけど、まだ家族には言っていなくて…」原井医師「それはどうして?」真緒さん「(整形を)しないと約束したんですけど、結局何回もやっているので言いづらい」「(親が)知っちゃったら悲しんでしまうかな」顔のしわを目立ちにくくするためのヒアルロン酸の施術を受けたいという真緒さん。原井医師は、患者の考えを否定することは逆効果なため、中立な立場で受け止めることが大事だと言います。■“整形をしない”約束…それでも施術当日。母親にも、胸の内をあかします。真緒さん「あの…この後、クリニックに…」真緒さんの母親「行くの?何をしに?」真緒さん「あの…ヒアル…」母親「ヒアルロン酸?」真緒さん「実際に…」母親「あ… そう」10年もの間、顔に執着し続ける娘に母親は…母親「(娘の病気に)もっと早くに気がついていたら…病院に行ってカウンセリングをうけていたら…この子はもう少し楽だっただろうなと思います」“整形を繰り返す”真緒さんについて、医師は…原井 宏明 医師「本人は“外見の病気”だと思っているので(整形で)外見を治そうと思ってしまう」「中学校のときに言われたことがいつまでも(心で)大きくなっている。心の病気は(整形で)形を変えても治らない」■心の病気を治すため…続く苦しみ原井医師によると、治すためには、不安を抑える“抗うつ薬”の服用や、自分の考え方を変えるための「行動療法」などが有効だといいます。その後、施術をしに行った真緒さん。およそ6万円を費やしました。“外見を変えても病気は完治しない” ――そう、分かっていても“やめられない”と話します。真緒さん「もっと外見が良かったら、みんな優しくなれると思うし、恋愛も友人関係もうまくいく。(整形では治らないと)分かっているけど、逃げている」同級生の一言で、今も続く苦しみ。真緒さんはこう訴えます。真緒さん「見た目のことで欠点を抱えていたりコンプレックスがあるので、見た目に対する意見を軽々しく口に出さないでほしい」真緒さんは“いつか病気を治し、他人の視線を気にせず暮らしたい”と話しています。(2024年12月19日『news every.』特集より)
自分の顔を「醜い」「欠点」などと思い込み、整形を繰り返す心の病「醜形恐怖症」。それは10年前、同級生の一言から…。女性は“自分の顔が嫌い・視線が怖い”と悩み続け、メイクに2時間かかったことも。カウンセリングを受けながら、今願うのは…。
東京・渋谷。人混みの中を歩く、女性。実は、他人が見ても分からない“ある病気”を抱えています。
田中 真緒さん(仮名・24)「なんか見られているのではないか。人の視線が…“私がブス”だから、にらんでいるんだろうなと思っちゃう」
大勢の前では、マスクを外せません。彼女が抱えているのは、「醜形恐怖症」という病気。自分の顔を「醜い」「欠点」などと思い込み、整形を繰り返しています。
医師「心の病気なんです。(整形で)形を変えても治らない」
家族以外、友人や職場にも、病気を明かすことができないといいます。
知ってほしい私のこと「醜形恐怖症」。
関東で暮らす、田中真緒さん(仮名)24歳。醜形恐怖症に悩んでいます。
真緒さん(仮名)「(顔の嫌な部分は)目とか鼻とか唇が薄いところ。顔の輪郭、骨を、丸みを帯びている感じにしたい」
自分の顔を受け入れられない真緒さんは、鏡を見続けてしまうことも…。そのため、メイクに時間がかかるといいます。
鏡の前に立つ、真緒さん。まずは、目元。黒目を大きくみせるため、カラーコンタクトは欠かせません。そして、唇のメイク。
真緒さん「鼻の下が長いのがコンプレックスなのでここ(上唇)に色をのせて短く見せる」
上唇をメイクして、鼻と唇の間を短く見せる工夫をします。そして再び、目元。
「目は優しい目に見えるように、涙袋をつくっています。目を大きくみせながら垂れ目っぽく…」
この日、メイクにかかった時間は、1時間。かつては2時間以上、かかっていたといいます。
今回、醜形恐怖症を知ってほしいと、取材に応じてくれた真緒さん。本人の了解を得て、渋谷の街を一緒に歩いてもらいました。気になるのは、周囲の“視線”。
真緒さん「ちょっと緊張して怖いです。“変な顔だな”とか思われるのが嫌なので(マスクで)隠したり」
以前、男性に“にらまれた”と感じました。
真緒さん「“私がブスだからにらんでいる”と思ってしまう」
“自分の顔のせいで、相手が不快に思うのでは” ――日々、不安を抱えながら生活しています。
性別を問わず、思春期に発症することが多いという「醜形恐怖症(身体醜形症)」。心の病気で、髪の毛や、体形などの外見に強い不安を抱き、メイクに2時間以上かかったり、鏡を1日に何十回も見たりするなど、日常生活に支障が出るといいます。
真緒さんの場合は、目や鼻、口などの部分が「醜い」「欠点」と思い込み、次々と不安が襲ってくるといいます。
発症したきっかけは10年前、中学校の同級生の言葉でした。
真緒さん「男の子に『顔がブスだね』と言われてすごく傷ついて、それがきっかけでものすごく鏡を見るようになった」
同級生から言われた“容姿を軽蔑”する言葉。それ以降、顔に不安を抱くようになりました。当時、真緒さんが書いた日記。
「今の私はブサイクで、自分のことあんまり好きじゃないし、自信ないし」
「私は可愛いくない。ブスは生きるイミがない」
誰にも言えず、一人で追いつめられていました。その後も、顔への不安はなくなることがなく、写真に映る自分の顔が嫌で、自ら塗りつぶしたことも…
5年前からは、目を二重にしたり、鼻を高くしたりする整形を繰り返すようになりました。
“娘は病気なのではないか”――2024年の夏、母親がテレビで醜形恐怖症の番組を見て、医師に相談。母親は10年間、真緒さんの悩みに、気づいてあげられなかったと話します。
真緒さんの母親「(娘の悩みに)気づきませんでした」
「ただ…中1か中2のときのお誕生日プレゼントで、顔の両方が同じに見える鏡を『これが欲しい』と言って」
「いまだにずっと外から戻ってきてはその鏡で顔のチェックをしている」
母親は、真緒さんが不安にならないよう、普段から“他人の容姿を褒めない”ようにしています。
現在、真緒さんは、都内にある精神科で定期的にカウンセリングを受けています。
原井クリニック 原井 宏明 医師「先週3連休だったじゃない。土日も(外に)出た?」
真緒さん「家族と出かけていました」
この日、真緒さんは医師に“あること”を打ち明けました。
真緒さん「(別のクリニックで)ヒアルロン酸を顔に打ちに行くんですけど、まだ家族には言っていなくて…」
原井医師「それはどうして?」
真緒さん「(整形を)しないと約束したんですけど、結局何回もやっているので言いづらい」
「(親が)知っちゃったら悲しんでしまうかな」
顔のしわを目立ちにくくするためのヒアルロン酸の施術を受けたいという真緒さん。
原井医師は、患者の考えを否定することは逆効果なため、中立な立場で受け止めることが大事だと言います。
施術当日。母親にも、胸の内をあかします。
真緒さん「あの…この後、クリニックに…」
真緒さんの母親「行くの?何をしに?」
真緒さん「あの…ヒアル…」
母親「ヒアルロン酸?」
真緒さん「実際に…」
母親「あ… そう」
10年もの間、顔に執着し続ける娘に母親は…
母親「(娘の病気に)もっと早くに気がついていたら…病院に行ってカウンセリングをうけていたら…この子はもう少し楽だっただろうなと思います」
“整形を繰り返す”真緒さんについて、医師は…
原井 宏明 医師「本人は“外見の病気”だと思っているので(整形で)外見を治そうと思ってしまう」
「中学校のときに言われたことがいつまでも(心で)大きくなっている。心の病気は(整形で)形を変えても治らない」
原井医師によると、治すためには、不安を抑える“抗うつ薬”の服用や、自分の考え方を変えるための「行動療法」などが有効だといいます。
その後、施術をしに行った真緒さん。およそ6万円を費やしました。
“外見を変えても病気は完治しない” ――そう、分かっていても“やめられない”と話します。
真緒さん「もっと外見が良かったら、みんな優しくなれると思うし、恋愛も友人関係もうまくいく。(整形では治らないと)分かっているけど、逃げている」
同級生の一言で、今も続く苦しみ。真緒さんはこう訴えます。
真緒さん「見た目のことで欠点を抱えていたりコンプレックスがあるので、見た目に対する意見を軽々しく口に出さないでほしい」
真緒さんは“いつか病気を治し、他人の視線を気にせず暮らしたい”と話しています。