兵庫県知事選に関する話題が尽きない。
斎藤元彦知事(47)がPR会社にSNS戦略を依頼したのではないかという疑惑が再選直後から連日報じられ、斎藤知事の一部支持者が「サクラだったのではないか」というウワサまで持ち上がっている。
斎藤氏の勝因として注目されているのが政治団体「NHKから国民を守る党」党首でYouTuberの立花孝志氏(57)の存在だ。立花氏は斎藤氏を支援するために自ら知事選に出馬し、100本のYouTube動画を投稿。選挙中の再生回数は約1500万回にも及んだ。動画で立花氏は、
「テレビや大手新聞は知事がパワハラしていたことについて、根拠なく噂話で報じている。パワハラを告発した県議会職員は不倫日記をパソコンに隠していた」
などと主張。動画は一気に拡散し、全会一致で議会に不信任を突き付けられた斎藤知事は、いつの間にか“マスコミと県政の黒幕にハメられた悲劇のヒーロー”となった。
もうひとつ、斎藤知事を支援していたのではないか!?――といわれているのが、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)である。11月4日、渋谷で旧統一教会の有志団体による「信者の自由と人権を護る」街頭演説が行われたのだが、そこで彼らは「マスコミによる報道、斎藤バッシングは嘘だった」「斎藤は悪ではなく斎藤は正しかった」「主要マスコミはでたらめ」と訴えたのである。
旧統一教会と関係が深い日刊紙「世界日報」は11月14日付の紙面で
「もし斎藤氏が県政に復帰すれば、オールドメディアが隠した事実をネットメディアが伝え、有権者の投票行動を大きく変えた歴史的な選挙と言われるだろう」
と主張した。
旧統一教会は斎藤氏を支援していたのか。30年にわたり旧統一教会を取材してきたジャーナリストの鈴木エイト氏が言う。
「教団は組織としての応援は否定していますが、街頭のアピール活動で古参幹部信者がメディアの偏向報道によって被害を受けた事例として斎藤元彦氏に言及していました。
“両者には共通点がある”と彼らが思っていることが伺えます。メディアの偏向報道により悪者にされた、報道被害を受けたと統一教会は主張していますから」
ただ、旧統一教会の応援によって斎藤知事が返り咲くことができたか、という点については「旧統一教会が持っている票数はそこまで多くありません」と首を振るのだった。
「N国党には統一教会から重宝されている国会議員がおり、立花氏を含めて教団を擁護しているのは確かですが……SNSでの斎藤氏への応援投稿や拡散に誰がどのように関わったか(旧統一教会が関わっていたか)については、これから検証がなされていくでしょう」(鈴木エイト氏)
支援者の熱狂、真偽不明の情報の拡散など、今回の兵庫県知事選と米大統領選の共通点を挙げる者も少なくない。
次期大統領のドナルド・トランプ氏が『Qアノン』や『サンクチュアリ』に応援されていることは有名だが、デマゴーグ(デマを流して民衆を扇動する政治家)はカルトと癒着しやすく、「両者には共通したマインドコントロールのテクニックがある」と鈴木エイト氏は言う。
「デマを信じ込む背景にはカルト同様、『思考停止』があります。本人は『自分で考えて得た真実』などと思い込んでいますが、実は巧妙に刷り込まれている。カルトが使うマインドコントロールの手法と似ているところがあります。
よく『民意が反映された』という言い方がされますが、その民意の中にデマが入り込んでいれば、やはり民主主義が歪められたということになります。デマが流布していく過程でのファクトチェックや、デマの萌芽を如何にして早く見付けて指摘していくかなど、メディアが果たす役割や重要性は増していると思います」
旧統一教会のHPに、今回の兵庫県知事選について以下のように記載があった。
《兵庫県知事選挙(10月31日告示、11月17日投開票)に関連し、一部SNSで「統一教会は斎藤元彦氏(前兵庫県知事)を支持している」などとする誤った情報が流れていますが、当法人が斎藤氏を支持している事実は一切ありません。
なお、当法人の教会員が街頭演説で同知事選に言及している動画が一部SNSに掲載されていますが、これはマスメディアの報道姿勢の問題点を指摘する趣旨で言及したものです。同教会員個人が、知事選に立候補している斎藤氏への支持を表明しているものではありません》
鈴木エイト氏が指摘するように「自分で考えて(メディアではなくSNSで)得た真実」によって投票を決めたという有権者の主張も見られたが、情報が錯綜するなか、SNS上には「真実はどうでもいい」という主張もあった。
「人は嫌いな人が話す真実より、好きな人が話す嘘を選ぶ」
ナチスについて研究した哲学者、ハンナ・アーレントの名言である。この言葉の意味を、もう一度考える時がきているのかもしれない。
取材・文:深月ユリア