高騰が続いている都市圏のマンション価格。
不動産経済研究所によると、2024年10月に販売された東京23区の新築マンションの平均価格は1億2940万円で、6カ月連続で1億円を超えています。国際的に見ても高い上昇率で、価格が急激に上がっています。
なぜこれほどまで価格が高騰しているのでしょうか?そして、マンション高騰はいつまで続くのでしょうか? 不動産事業プロデューサーでオラガ総研株式会社代表取締役の牧野知弘さんに伺いました。
<東京ビジネスハブ>TBSラジオが制作する経済情報Podcast。いま注目すべきビジネストピックを、音声プロデューサーの野村高文をナビゲーターに週替わりのプレゼンターと語り合います。(※今回は、デジタルテクノロジー領域のリサーチャーであるcomugiさんが代役です)
comugi:いま、マンション価格はどのぐらい高騰しているんでしょうか?
牧野: たとえば東京都区部ですと、平均価格が1億円をはるかに超えちゃっています。これを一都3県の首都圏でも2023年の平均で8000万円超えちゃったんですね。
comugi:とても庶民には手が届かない価格なんですよね。
牧野: だから「東京無理じゃん、埼玉や千葉で買おうか」と思っても、平均8000万円するんですよね。
comugi: 「持ち家か賃貸か」という論争、常にビジネス界隈では語られているので気になります。まずはなぜ今、マンション価格が高騰してるんですか?
牧野: 「買ってる人が違うから」です。
comugi: どういうことですか?
牧野: マンションというと普通は自分の家、つまり住みたいですよね。そういう人ももちろんいらっしゃるんですけれども、今このマンションマーケットで、喜んで高いマンション買っている人は平たく言うと、一般庶民の方ではないんです。
comugi: となると、誰が買ってるんですか?
牧野: おおむねカテゴリー的には4つあるといわれています。
1つは当たり前ですけれども、「お金持ち」です。富裕層と言われてる人たちで、いま日本中で富裕層がものすごい勢いで増殖しています。
以前は東京オリンピックが過ぎれば不動産の価格は落ち着いて、だんだん下がってくるんではないかと議論がされていたかと思うんですね。でも、結果そうならなかった。
この理由は、2013年以降、日本が行った大規模金融緩和です。通称「アベノミクス」なんですけれども。まさかこれを10年以上もやっちゃったんです。
comugi: そうですよね。ゼロ金利、むしろマイナス金利と呼ばれた時代が長く続きました。
牧野: 富裕層といわれる純金融資産で1億円以上保有している世帯が、いま全体の2%、約150万世帯弱なんですが、この富裕層がアベノミクス以降急激に増えたんです。
資産を持っている人は、どんどんそれを担保に、あるいはそれを利用して新たに資金を調達できます。
このお金が株や債券、そして一部不動産に回ることによって、マンション価格がどんどん高くなりました。
comugi: 資産が資産を生む構造ですね。
牧野: お金が増えてくると誰が一番ドライブがかかるかって、当然、お金持ってる人に一番ドライブがかかるんです。
comugi: なるほど、これは庶民にはつらい話になってきますね。
牧野: 富裕層は東京大阪ばかりではなく、地方にもものすごく増えています。不動産に投資したいと思ったときに、マンションっていうのは、流動性もあるし、買いやすいですよね。
買うならやっぱり新築だよねということで、東京大阪の高いマンションを買うわけです。
comugi: バブルの時期の頃のように、軽井沢に別荘を持つような感覚に近いですね。
牧野: 2番目のカテゴリーが一番大きな勢力になったんですけれども、「国内外の投資家」です。
comugi: 内外ということは海外からもということですね。
牧野: よく中国の方がたくさんマンションを買っているという報道がありますが、アジアの国って、日本の「失われた30年」の間にどんどん経済成長したんですね。
そうすると日本の不動産を自分の資産ポートフォリオの中に一部取り込んでおこうということで、日本の不動産を狙いました。
日本だけがずっと低金利の一人旅をやっていたんで、結果何が起こったかっていうと、円安になってしまった。
ちなみに、北京とか上海って、普通の一般庶民のマンションでも大体3億円ぐらいします。
そうすると、彼らにとっては日本の不動産というのは、大バーゲンセールをやってるように見えるんです。
comugi: 3つ目はなんでしょう?
牧野:「高齢化したお金持ち」です。この層は何が心配かっていうと、自分が亡くなった後の相続なんです。
comugi: 子どもにお金をどうやって渡すのか、ということですね。
牧野: 日本はほぼ世界一の相続税率になっていて、お金をある程度以上持ってしまうと、相続税率の最高税率が55%、半分以上取られちゃうんです。
ただし、税制改正前の状態ですと、たとえば1億円で買ったマンションの評価が3000万円ぐらいになっちゃうんです。つまり7割ぐらい価値が圧縮できちゃうんです。
comugi: どういうことですか。
牧野: からくりはですね、相続税の不動産の評価って土地は路線価。建物は固定資産税評価額というのが基本なんですが、マンションって土地の持ち分は大体3、4坪です。comugi: 小さいですね。
牧野: 建物は、たとえば25坪とか20坪といったような形で評価されますね。そうするともともと路線価って公示地価の7割ぐらいとか8割ぐらいになっています。
一方、建物というのをどんどん償却していきますんで、固定資産税評価はもちろん時価よりも安いと。そうすると、時価はどんどん上がるのに、評価額はうんと低くなります。
そうすると1億円の現金を持っているとこれに税率がかかっちゃいますけれども、1億円をマンションにしておくと、3000万円以下になっちゃうと。
マンションを買うことはスーパー節税手段だったんです。
comugi: 住むという消費の話というよりは、資産運用に近いんですね。
牧野: そうですね。そういった意味では、武蔵小杉は割と実際に住んでる人多いんですけれども、都心部の湾岸のタワーマンションとかになるとですね、こういう節税のために買っているんであんまり住んでないですね。
牧野: 4番目がですね、よくメディアでいわれている「パワーカップル」です。
4つのカテゴリーのなかで、この人たちだけが実際に住んでる人たちです。もちろん後で売るなど、値上がりの期待はあるんですけれども。
comugi: 今のところは、タワマンを買ったパワーカップルの皆さんも得をしているということですよね?
牧野: よくそういうふうに言われんですけど、売らない限り得はしないです。
comugi: 確かに含み益ですから、株と一緒ですよね。
牧野: パワーカップルの定義とは、2人の年収を合わせて世帯年収で1500万以上といわれています。今たとえば年収1500万円あって、金融機関にマンション買うんでお金貸してくださいというと、大体、住宅ローンで1億円ぐらい貸してくれます。
comugi: すごいですね。
牧野: 夫婦ペアローンというんですけれども、夫婦で限界まで借りると1億円ぐらいになりますし、変動金利型を選択すると、金利が1%以下になるんで、ちょっと背伸びすれば買えちゃうんですね。
物件価格はどんどん値上がりしてるから、あまりリスクもないねというのが、パワーカップルの方たちの価値観です。これらが重なってマンションというのは供給するデベロッパーからすれば、みんなどんなに高くてもついてきてくれると、こういうマーケットが出来上がっちゃったんです。
comugi: そういう人たちにとって、冒頭に言ったような金利が上昇するというシチュエーションは大丈夫ですか。
牧野: 大丈夫じゃないです。富裕層の方は比較的大丈夫なんですが。
comugi: もともとお金持ちですからね。
牧野: ただ、カテゴリーの2、3、4番目の人たちは結構大変です。たとえば投資で買ってる人は投資の理論で言うと、金利が上がるということは、物件価格は下がるということですよね。
comugi: どういうことですか。
牧野: 「投資利回り」という考え方で、たとえば1億円のマンションを買って、これを賃貸にまわして、年間400万円の賃料が入ります。そしたら利回りは4%です。
調達金利が上がるとまず借入金の金利が上がるので、分母である投資コストが高くなりますよね。
それから、「期待利回り」といって、このマンションで何%の利回りを実現できるかを考えるのが、投資理論の基本中の基本です。
comugi: なるほど。
牧野: たとえば「利回りが4%じゃないと買いたくない」と考えていた人が、金利が1%上がったとすると、「あれ4%じゃちょっと足らないな」と感じるわけです。
金利5%だったらちょうどミートすると考えると、物件価格が下がってくれないとあるいは賃料がものすごいその分だけ上がるかどっちかですよね。
comugi: ただ一方で不動産業界でいわれてる話を聞くに、人件費や原料の価格は上がってると、なかなか原価を下げるって難しいんじゃないでしょうか。
牧野: 原価は上がる一方なんですね。加えて金利も上がっちゃうと、そうすると分母ばっかりが増えてくんですね。
それに対して、東京の賃貸マンションの賃貸料がそれに合わせてガンガン上がっていくかというと、ここの部分って、実需じゃないですか。
稼ぎが飛躍的に上がって、家賃月額100万円でもOKというような人がいっぱい出てくれば成り立つんですけど、なかなかそういう世の中ではないので。ということは、利回りが下がっちゃうとリスクは大きいよねとみんな考えるわけです。
comugi: なるほど。ということは、富裕層にしても投資家の方々というのも徐々に不動産から離れていく可能性があるということですか?
牧野: その可能性はあります。
comugi: そうなってくると、市場の状況が徐々に違うものに変わっていくということですよね。
牧野: 投資のマーケットというのは、そういった意味ではものすごいドライなんですね。だから今までは非常に環境が良くて、日本は金利なんて上げられるわけがないと、いろんな人が言ったわけです。
この時代が続けば、どんどんマンションは値上がりしていくというふうに考えて、みんな買ってると。今でもそうなんですよ。
でも投資って面白くて、真逆に考える人がいるから売買マーケットが成立するんですね。どこかでバランスする動きがある。
comugi: なるほど。
牧野: それから相続についても、国税庁が新しい見解を発表しまして、マンションは時価の6割で評価しますという方針になっています。
タワマンだから得とか上層階だから得というのが全部なくなりました。
comugi: そんな大変化があったんですが。
牧野: この1~2年のことです。とはいえ時価の6割で評価してくれるわけですから、節税効果がゼロになったわけでは当然ないんですけれど。
一番大きなファクターは金利です。日銀は0.1から0.25程度とアナウンスメントしたんで、金利の上げ幅としてはあんまり大したことないですね。
ところが、不動産投資マーケットの中で、1%はこの先上がるんではないかというのが、共通の見解になってくると、不動産投資をしている人の中でぐらつく人が出てきます。
これを投資の世界で「イグジット」と言うんですが、売って逃げようとするということですね。「これは宴が終わった」と、実際に売り始めている投資家がいます。
comugi: 徐々にそれが加速していくんでしょうか。
牧野: とはいえ、また宴が続くこともあるんですよ。そういうことも考えて、残っている人も当然いるんですけど、退場が始まっているというのが今のマーケットです。
comugi: これが不動産ビジネスの核心に近い話、まさに本音というところですね。牧野: つまり、マーケットを引っ張ってきた人の間に動揺が走って、この一部が離脱を始めると、今までのマンションマーケットというのは、こういった人たちで支えられてきていますので、この人たちのニーズ、需要が落ちてしまうと。
そうなると、マンションを買う人いないですよね。そうなると、ペアローンでギリギリで借りてるパワーカップルの方々は、金利1%上がっちゃうと結構つらいですよね。
それに今は物価がどんどん上がってきてますよね。そうすると、当初借りたときよりも生活コストもすごい上がってる中で金利上げられると、中にはもう無理だという人が出てきても不思議ではないです。