北海道江別市で起きた男子大学生集団暴行死事件で、犯行に加わった少年グループの“黒幕”に祭り上げられ、動画配信された少年Eさん(16)。かつてヤンチャだった少年は、今回の事件とは「無関係です。巻き込まないでほしい」と話した。逮捕された「少年4人全員と知人」と配信された動画についても否定し、警察が複数で自宅を長時間訪れていたという動画の内容も「電話があっただけです」と否定した。憶測で事件を語るユーチューバーの暴走が、新たな被害者を生み出した。
〈画像〉憤りを覚えると記者に話すEさん
Eさんは柔道の強豪選手として知られ、ヤンキーインタビュー系のYouTubeチャンネルでは札幌の番長格というキャラクターで紹介されていた。この動画を、事件のことを伝える他のYouTubeチャンネルが切り抜くなど、さも事件と関係があるように報じられ、コメント欄が炎上する騒ぎになっているのだ。
あるYouTubチャンネルでは「札幌の不良界のボス」とEさんを容疑者扱いする動画を配信。
別のYouTubチャンネルでは「不良のリーダー格みたいのが柔道ですごい強いやつがいて、今回の加害者全員ともちろん仲間なんですけど」と配信。別日には「柔道の強い彼の自宅にですね、昨日、警察官複数人が、かなり長い間入って話を聞いていたというですね、ご近所さんからの情報提供がありました」と報じた。
いかにも凶悪事件の黒幕的な凶暴な少年という印象を与える内容だが、はたして彼は事件と関係があるのか。Eさんが集英社オンラインのインタビューに答え、さらに父親がネット時代の恐怖について語った。
――加害者だった少年たちと繋がり自体はありますか。
「繋がりはありますよ。知り合いはいますが、僕は事件とは無関係です」
――事件のことは何か聞いていますか。
「事件の前日の夜8時くらいに、グループの1人から『むかつく奴いるからやろうかな』とインスタのDMがきました。相手が誰とかいう話はこっちから聞いてないし『巻き込まないでね』って返信しました。要はボコりたい奴がいるから一緒に来てくれってことですね。それで『一緒に来る?』みたいに聞かれて『俺、彼女と遊ぶ予定あるからいかないよ』って断りました。そしたらニュースでやってたんで、驚きました」
――その後、事件に関連して、その少年は何か言っていましたか?
「それはないです。聞いてもろくなことにならないのはわかっていたんで、こっちからも聞いてないですし。でも事件の後も彼から連絡はちょくちょく来てましたよ。その前に、一緒にご飯行こうって約束してたし。
ただ遊んでないですよ。なんとなく嫌な予感がしてたんで。ボコるとか言ってたし、ろくなことにならない感じもありましたから。こっちは仕事もあるし、巻き込まれるのは目に見えてるじゃないですか」
――自宅に警察が来たという動画が配信されていましたが、事実ですか。
「家には来てないけど、2日前に警察から逮捕された容疑者のことで電話はありましたよ。そいつとは共通の知り合いを通じて仲良くなった感じです。あとは俺に『現場に行ってないんだよね』って聞くんで『行ってないですよ。そんなに疑うなら防犯カメラでも何でも確認してください。指紋もとっていいんで』って言ったら『そこまではしないけど』ってことでした。配信されたユーチューバーの発言のことを確認したかっただけなのかなって、電話も5分くらいで終わりました」
――本当に迷惑している?
「ハイ。共犯だと思われるような内容のTik Tokがあげられてたんで、連絡とって削除要請もしてたんですよ。犯人とも繋がる札幌のボスだなんだって動画でやられれば、見る人からすれば印象変わりますよね。
友達からも『お前もやってんだろ』とか言われちゃうし、彼女の親にも『もう別れたほうがいいんじゃない?』とか言われてるんで、被害でかいすよね。俺、事件と無関係なのに。
友達からは『お前江別の事件関わってるかもだから縁きろう』って一方的なメッセージがきました。俺の顔も出てますしね。会社のみんなにも動画を見られてしまいましたから。こんな動画出されたら迷惑なんで『訴えますよ』と削除を求めたら『裁判まで行くなら受けて立ちます』とか言うんですよ」
インタビューに応じたEさんの父親も、集英社オンラインの取材にこう胸中を明かしてくれた。
「まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。ウチの息子は事件とは無関係だから普段通りの生活をしていたら突然、誹謗中傷がはじまったんだ。
『Eが事件の首謀者で指示してたんだろ』とかいう連絡がさまざまなところから来だして、息子からも江別の事件の関連で自分の話がYouTubeに上げられてるって相談を受けた。それで動画を確認すると、息子の写真や中学出身で柔道が強くてという、すぐに本人特定できる形で動画が上げられている。しかもあたかも事件に関わってるみたいに匂わすように。
そりゃ息子も昔はワルだった部分があって、事件の容疑者の中に知り合いがいるのは事実なんだ。でも、今は無遅刻無欠勤で仕事して真面目にやっている。事件の日だって家にいましたよ」
配信された動画の中には警察の捜査対象になっていると誤認させるものがあり、父親は憤りを抑えられなかったという。
「昨日も家に警察が何時間も入り込んでいたなんてYouTubeで言ってた奴いたけどな、警察なんて来てないから。一部の配信者とは連絡がついて削除要請したけど『Eが事件をやったとは言ってない』とか屁理屈をこねる。
じゃあ、なぜ息子の動画を出すんだって話なんだよ。本人の了承を得てるならまだしも、あまりに一方的な話だし、このままにしとくつもりもないから近々きちんと警察に被害届も出しますよ。一回出てしまったら誹謗中傷については止めようがないし、これまで実感したことなかったけど、こんな事態になってネットの怖さを思い知ったよ」
思わぬ二次被害を生み出した江別市の集団暴行死事件。女子大生コンビと4少年の無軌道な犯行の詳細はいずれ、公判で明らかになるだろう。
※「集英社オンライン」では、今回の事件について情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せください。メールアドレス:[email protected](Twitter)@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班