微熱や切り傷といった緊急性がないか低い症状で救急搬送された場合、病院が患者から「選定療養費」として原則7700円以上を徴収する取り組みが2日、茨城県で始まった。
都道府県単位で制度として適用するのは初めて。軽症患者の搬送による救急業務の逼迫(ひっぱく)は全国的な課題になっており、現場の負担軽減につながるかが注目される。
軽症患者の救急搬送が多くなると、救急車の運用や病院の受け入れ体制が逼迫し、重篤患者の救急搬送が遅れて命を落とすことになりかねない。
県内の救急搬送は2023年に14万3046件(速報値)と過去最多を更新したが、このうち47・9%が軽症だった。県は制度の導入により、搬送患者数が「2割ほど減る」とみる。
選定療養費は、200床以上の大規模な病院で紹介状なしに受診した初診患者から徴収する特別料金で、16年の健康保険法改正で導入された。料金は医療機関に支払われる。茨城県は今回、制度の対象を救急搬送患者に拡大した。医療機関の医師が緊急性がないと判断した場合に徴収し、県内22の病院が適用する。
同県つくば市の筑波メディカルセンター病院では、年間で6000人近い救急搬送患者を受け入れる。阿竹茂・救命救急センター長(62)は「このままでは重症患者の受け入れができなくなる。現状が改善される」と新制度に期待する。
ただ、県議会からは「緊急性の高い患者も119番を躊躇(ちゅうちょ)するのでは」との懸念も出ている。このため県は10月、「微熱のみ」「軽い擦り傷」など、徴収の可能性がある12の例を記した指針を公表した。県民に対しては、救急車を呼ぶべきか迷う際には「#7119」や「#8000」などの電話相談を活用するよう呼びかける。
総務省消防庁によると、全国の救急出動数は増加傾向にあり、救急搬送の適正化が課題になっている。23年は763万7967件(前年比40万8395件増)と過去最多を記録したが、このうち軽症のケースが48・4%を占めた。
三重県松阪市では6月、選定療養費の徴収制度を基幹3病院で導入した。市は8月末までの3か月間で、救急車の出動件数が前年同期比で21・9%減ったとする調査結果を10月に公表。帰宅した軽症者2056人のうち、徴収された人は278人(13・5%)だった。日本体育大の横田裕行教授(救急医学)は「制度の導入は理解できるが、一人暮らしの高齢者などの医療弱者にしわ寄せが出ないよう、問題点が見つかれば改善する必要がある」と指摘する。