去年12月に大阪府岸和田市で、飲酒運転により親子2人をはね死傷させた罪に問われている男。大阪地裁堺支部は9月24日、懲役12年の判決を言い渡しましたが、男が判決を不服として控訴していたことが分かりました。事故で母親を亡くし、自らも重傷を負った全盲の息子は「予想はしていたが、罪の重さを分かっているのか疑問で、残念」と心境を語りました。▼親子2人死傷 死亡した母親は全盲の息子に付き添っていた…
判決によりますと岩井拓弥被告(31)は去年12月、岸和田市の道路で乗用車を酒に酔った状態で運転。対向車線脇の路側帯に時速約56kmで突っ込んで、歩行者の親子2人をはね、母親の大久保春江さん(当時82)を死亡させたほか、息子の大久保孝之さん(51)にも外傷性くも膜下出血などの重傷を負わせました。全盲で白杖をついて歩いていた孝之さんに春江さんが付き添い、2人でJR阪和線の駅に向かっていた際に事故は起きました。▼1軒目ですでにビール8杯 その後もスナックやダーツバーでハシゴ酒…裁判で明らかになった事実をまとめると、岩井被告は事故前日の夜、知人らとの忘年会に車で向かいました。1軒目に居酒屋、2軒目と3軒目にスナック、4軒目にダーツバーと、計4軒の飲食店で飲酒。1軒目ですでにジョッキで8杯ほどのビールを飲み、その後もビールや焼酎を飲んだといいます。そして翌朝、車で帰宅する際に今回の事故を起こしました。呼気検査からは、事故時の被告は、酒気帯び運転の基準(0.15mg/?)の4倍以上にあたる、呼気1リットル中0.69~0.85mgのアルコールを体に保有していたと考えられるといいます。▼「車を買ったばかりで、正直見せたいという気持ちがあった」被告人質問で岩井被告は、忘年会に車で向かったのは“車を知人に見せたかった”などの理由があったと説明しました。(9月18日の被告人質問)弁護人「なぜ車で行ったんですか?」被告 「家の掃除とか洗濯、家事が(出発ギリギリまで)あったというのと、車を買ったばかりで、正直見せたいという気持ちがあった」また岩井被告は、当初は帰宅時に運転代行業者のドライバーを呼ぶつもりだったといいます。弁護人「家を出る時は、代行を呼ぶつもりだったという理解で間違いないですか?」被告 「はい」検察官「素面(しらふ)の時に代行を呼ぶつもりだったとしても、お酒を飲んだら気が大きくなりますよね?どうして代行を呼ぶと、自信が持てたんですか?」被告 「普段からずっと、当たり前のように呼んでいたので」しかし、被告は運転代行業者の電話番号を、携帯電話に登録していませんでした。裁判官「なぜ携帯電話に登録しないんですか?」被告 「常に名刺を持ち歩いていたので、登録する必要性を感じませんでした」裁判官「結局代行を呼ばなかった理由は、今も思い出せないんですか?」被告 「はい」▼求刑通り懲役12年の判決大阪地裁堺支部(武田正裁判長)は9月24日の判決で、危険運転致死傷罪の成立を認定。そのうえで、「自宅を出た時から飲酒運転する意図があったとは認められないが、安易に自動車で酒席に赴いた上、帰宅に際し、代行運転の依頼や他の交通手段の利用も容易だったのに車を運転した。同情の余地はない」「被告なりの反省の言葉は述べているが、反省はいまだ不十分と言わざるをえない」として、検察側の求刑通り、岩井拓弥被告に懲役12年を言い渡しました。▼判決を受け全盲の息子 涙こらえ…「なるべく“事故前の自分”を取り戻していきたい。そうすることで母親も安心してくれるだろうと思う」判決公判後には、事故で外傷性くも膜下出血などの重傷を負った、全盲の大久保孝之さん(51)が取材に応じ、時に涙をこらえながら心境を語りました。母親の春江さんを亡くし、自らも重傷負った大久保孝之さん(51)「(裁判所が判決で)最大限の懲役12年を出してくれたことに対しては、非常に私は納得していますし、感謝しています」「事故の時に僕と一緒にいた母親に伝えたいと思います。求刑通りの刑が出たよと報告したいと思います」▼判決を不服として被告本人が控訴大阪地裁堺支部によりますと、判決を不服として10月4日、岩井被告本人が大阪高裁に控訴したということです。大久保孝之さんはMBSの取材に対し、「(求刑通りの判決だったので)これ以上は刑は重くはならないわけで、少しでも刑を軽くするために、控訴するだろうなと予想はしていました。ただ、犯した罪の重さを被告が本当に分かってくれているのか疑問だし、残念です」とコメントしています。(MBS大阪司法担当 松本陸)