私のクリニックを訪れる半数以上の患者さんが、女性です。そのうち多くの人が、ニキビや肌荒れ、シミなどの肌トラブルに悩んでいます。
中でも最近、特に多いと思うのが、自分では気づかないうちに、「赤ら顔」を発症している女性です。
「赤ら顔」と聞いて、どんな症状か思い当たるでしょうか。赤ら顔にまったく縁がない人は、ピンとこないかもしれません。
「赤ら顔」とは、文字通り、顔が赤くなってしまうことをいいます。
赤くなるといっても色の現れ方は人それぞれで、頬や小鼻の周りなど顔の中心だけが赤くなる人もいれば、顔全体がほてったように赤くなってしまう人もいます。
顔が赤く見えるのは、皮膚表面の細い血管である毛細血管が、なんらかの原因で広がっているからです。これを「毛細血管拡張症」といいます。
なぜ、患者さんからの訴えがないのにこれに気づいたのかというと、近年、皮膚科の診断ツールとして、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を使うようになったからです。
もともとは皮膚の腫瘍やホクロなど、色素性病変を詳しく診察する時に使う道具なのですが、これを使って顔のシミを診察している時に、シミのある部分やその周囲の毛細血管が拡張していることに気がつくようになったのです。
また、患者さんが「シミです」と訴えている部分が、実はシミではなく、毛細血管拡張が肉眼ではシミのように見えていたということもよくあります。
もちろんその部分にシミ取りレーザーを照射してもそのシミ(もどき)は取れません。
毛細血管拡張による赤ら顔を特徴とする疾患に「酒(しゅ)さ」があります。これは鼻や頬、顎などが赤くなる病気で、ほてりを伴い、肌が敏感になります。症状が進行すると、赤ら顔に加えてニキビ様のブツブツも現れてきます。
顔全体が赤くなっていれば、さすがに自分でも気づくでしょう。
でも血管の拡張がそれほどでもなかったり、顔の一部しか赤くなっていなかったりする場合には、顔に赤みが出ていることに気づかない場合もあります。
だから患者さんに「血管が拡張して、顔に赤みが出ていますよ」と指摘すると、「えっ、そうなんですか!」と驚かれるのです。
毛細血管拡張症の原因はさまざまで、紫外線や摩擦、そして、「一次刺激性皮膚炎」といって、なんらかの物質に接触したことが原因で発症する場合もあります。
私は多くの患者さんにおいて、ある共通の「一次刺激性物質」が原因になっていると考えています。
それは、「合成界面活性剤」です。すなわち、日々の暮らしで合成界面活性剤を使用していることが、肌トラブルの原因になっているのです。
また、先述した「シミのある部分やその周囲の毛細血管が拡張している」原因として、シミ取り化粧品に含まれる界面活性剤の影響はもちろんですが、そもそもシミができている部位は紫外線の影響を受けている部位ですし、シミを取ろうとしてこすりすぎたり、シミ取り化粧品をすり込んだりする摩擦の影響が考えられます。
もちろん、赤ら顔の患者さんのなかには合成界面活性剤が原因ではなく、遺伝や生まれつきの体質という人もいます。しかしそういう人は、たいてい子どもの頃から赤ら顔に悩まされているので、すぐにわかります。
でも、大人になってから赤ら顔に悩むようになった人の多くは、合成界面活性剤が原因である――。これが、皮膚科医として私が臨床を重ねるうえで、常々実感していることです。
また、「酒さ様皮膚炎(赤ら顔)は約1カ月、既存の洗顔、化粧品、薬剤外用を中止し、保湿ケア(ワセリンを使用とのこと)をするだけで改善する」との報告(第31回日本臨床皮膚科医会九州ブロック学術教育講習会〈2015年4月26日〉)もあり、これも私が赤ら顔の原因は合成界面活性剤だと考える根拠のひとつです。
なぜならば、洗顔料、化粧品、外用剤に共通の成分は、合成界面活性剤と考えられるからです。
女性が何人か集まれば、肌やメイクの話題になることは多いでしょう。キレイな肌をしている友人には「どんなお手入れをしているの?」と尋ねるかもしれませんし、肌トラブルに悩んでいる人は、「何か、良い治療法はないかしら」と、友人にアドバイスを求めるかもしれません。
くらし情報メディア「ヨムーノ」が2020年4月、21~56歳の女性132人を対象に行った「スキンケアに関するアンケート」によると、約90%の女性が「過去に乾燥肌・敏感肌などのデリケート肌に悩んだことがある」と回答しています。
デリケート肌を体験するきっかけになったのは、仕事の変化や結婚、妊娠・出産など、人生の大きな転機であることが多く、男性に比べて女性はライフイベントの影響を受けやすく、ホルモンバランスの乱れを起こしやすいことが要因として考えられます。
もちろん、そうした人生の転機では、精神的にも不安定になりますし、その不安定さが肌荒れにもつながります。
「ストレスがたまるとニキビができる」という経験をしたことがある人は、少なくないでしょう。これは、交感神経が優位になることで自律神経のバランスが崩れ、肌の健康を害するからです。
肌荒れが進めば、肌の免疫機能も低下してしまいますし、ちりやほこり、紫外線など、肌にとって悪影響をもたらす刺激の影響を受けやすくなってしまいます。
その結果、普段と同じお手入れをしていても、突然、ニキビや吹き出物ができてしまったり、肌がくすんでしまったりします。
つまり、「デリケート肌に悩んでいる」という人は、肌そのものがデリケートになっているのはもちろんのこと、メンタル面もデリケートな状態になっている、と言えるのです。
逆に、肌の調子が良い時は、気持ちも上向きになってきますし表情が明るくなります。自分に自信が持てるようになり、恋愛も仕事も、なんでもうまくいきそうな感じがします。
肌の状態が良いだけで、日常生活が大きく変わるのですから、ぜひいつでも元気な美肌でいたいものです。
しかし現実は、そう甘くありません。
多くの女性がさまざまな原因によって肌トラブルを経験しています。シミ、シワ、乾燥、ニキビ、くすみ、たるみ、ハリがない、毛穴が目立つ、クマがひどいなど、悩みを数え上げたら、キリがありません。
そんなふうに、肌トラブルがひどい時に、あなたはいったいどうしますか?
きっと多くの女性が、「いままで以上に、丁寧にスキンケアをする」「スキンケア用品を変えてみる」というような対策を取るのではないでしょうか。
あるいは、「化粧をもっとがんばって、シミやシワなどが目立たないようにする」と、化粧美人になるために涙ぐましい努力をする方も多いのではないでしょうか。
がんばって化粧美人になったとしても、「絶対、化粧を手抜きできない」というのはプレッシャーになりますし、温泉やプールなどスッピンにならざるを得ないシーンもありますよね。
でも、「キレイに化粧をしなければ、周りの友だちと比べて恥ずかしい」と、素肌をひたすら隠し、化粧美人になるために高い化粧品に手を出す人も多いことでしょう。
実はこれが、スキンケアが泥沼化するきっかけです。
「いままで以上に、一生懸命スキンケアをする」ということは、スキンケアからは決して逃れられない、スキンケアをせずにはいられない、という状態に陥り、もがけばもがくほど泥沼から抜け出せなくなってしまうのです。
———-西 正行(にし・まさゆき)皮膚科専門医・医学博士、ひふ科形成外科西クリニック院長1961年、鹿児島県奄美大島生まれ。幼少期からアトピー性皮膚炎に悩まされていたこともあり、皮膚科医になることを決意。鹿児島大学医学部卒業後、皮膚科医の道へ進む。皮膚科医になった後に、自らのアトピー性皮膚炎を完治させる。現在は鹿児島県皮膚科医部会の会長を務める傍ら、合成界面活性剤を使用しないスキンケア用品の監修も担当。スキンケアの真実を一人でも多くの人に伝えるため講演会なども積極的に行っている。著書に『美肌になりたければ、その肌ケアをいますぐやめなさい。』(自由国民社)。———-
(皮膚科専門医・医学博士、ひふ科形成外科西クリニック院長 西 正行)