ロシアの同盟国のベラルーシで中西雅敏さんが「日本の情報工作員」として拘束された事件は、ナゾが深まるばかりだ。南東部のゴメリ国立大で日本語教師をしていた中西さんは出国直前だった7月上旬、情報機関のKGB(国家保安委員会)にスパイ活動容疑で身柄を押さえられ、拘束が続く。国営テレビが自白の強要をうかがわせる特番を流してもいる。この先どうなるのか。
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「ベラルーシ1」は5日夜(現地時間)、15分番組「東京から来たサムライの失敗」を放送。中西さんがウクライナとの国境地帯などで9000枚超の写真を撮影したほか、軍事施設などの情報を収集し、日本の情報機関に送ったとして当局による捜査を受けていると報じた。
2018年にベラルーシ人女性と結婚したのを機にゴメリ州に移り住んだという中西さんは、丸刈りで手錠をかけられたまま出演。ロシア語で「国境近くに行き、線路や橋を撮影した」「写真は(日本の)国家公安委員会に渡そうと思った」「これは犯罪だ」などと、目線を落としてとつとつと語っていた。
■最後のやりとりは4月
特番でスパイの証拠として取り上げられたのが、妹の前夫の「Mike Sato」なる人物とのLINEトーク。〈ベラルーシ進出はかなり厳しいのが実情〉〈明日は大使館関係者と飲みに行く〉などのやりとりだ。ロシア語で「監督者」と説明されていた。いわば上司。北関東で製造業を営む件の男性に電話で事情を聴くと、疑惑を否定し、こう話した。
「(拘束は)寝耳に水で、朝から映画『ミッション:インポッシブル』のテーマ曲が頭の中をぐるぐる回っています。特番を見ましたが、あのLINEは3、4年前のもの。確かに当時は欧州への輸出を模索していた。(中西さんが18年に)ゴメリで開いた結婚式には夫婦で出席しましたよ。最後のやりとりは今年4月、その前は昨年12月。こちらが昨年離婚したこともあり、頻繁に連絡し合う間柄ではありません」
機密性の高いテレグラム利用が定番の業界で、LINEは微妙な印象ではある。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう指摘した。
「岸田首相の退陣表明以降、日本の政治的空白が生じている。ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、側面支援するベラルーシに対しても西側諸国は経済制裁を科しています。ロシアのプーチン大統領も盟友のルカシェンコ大統領も制裁解除を切望しており、邦人男性は揺さぶりに利用されている可能性がある」
ベラルーシは中西さんの起訴を示唆。風雲急を告げる事態だ。