札幌市の繁華街ススキノのホテルで2023年7月、頭部のない男性会社員(当時62)の遺体が見つかり、親子3人が逮捕された事件。死体遺棄ほう助と死体損壊ほう助の罪に問われた母親の無職・田村浩子被告(61)の第3回公判が8月30日、札幌地裁(渡辺史朗裁判長)で開かれた。
【写真】事件前に瑠奈被告が通った怪談バーの店内。リアルすぎる生首オブジェや血しぶきのような跡で覆われるトイレなど
娘の田村瑠奈被告(30)は殺人と死体損壊罪で起訴され、父親の精神科医・田村修被告(60)は殺人ほう助罪などで起訴されているが、ふたりは裁判員裁判の対象事件となっており、公判開始時期は現時点で未定。そんななか、親子3人のうち最初に始まった浩子被告の公判ではこれまで、いびつな家族の姿、猟奇的な犯行態様が明らかにされてきた。【前後編の後編。前編を読む】
第3回公判では、7月の第2回公判から行われていた父親・修被告の証人尋問の続きが予定されていたが、修被告が26日に発熱し、新型コロナウイルスに感染していることが判明。残りの尋問は延期となった。
今回の法廷では検察官請求証拠の読み上げが行われ、修被告のインターネット検索履歴や事件前の行動などが明らかにされた。修被告が犯行に用いられた刃物や道具を購入していたこと、瑠奈被告と修被告がDVDレンタル店でホラー映画を2本レンタルして視聴していたこともわかった。
初公判の検察側冒頭陳述によれば、瑠奈被告は中学時代から不登校となり、仕事をせず実家で暮らし続ける娘を“お嬢さん”と呼び、その“お嬢さん”こそが一家の最優先事項だったという。瑠奈被告は“置いた物の向きが違っていた”など、些細なことで両親を責めた。浩子被告は、「熟女系風俗にでも売り飛ばせばいい。とっとと売れや」などと怒鳴られたり、「お嬢さんの時間を無駄にするな。奴隷の立場を弁(わきま)えて、無駄なものに金を使うな」という誓約書を書く羽目になった、それでも娘を叱らなかったという。
修被告のことを瑠奈被告は「ドライバーさん」と呼び、クラブや怪談バーへの送迎に徹夜で付き合わせていた。運転中の修被告の首を絞めて叱責するなどしていたが、やはり怒らず謝っていたという。田村家において、瑠奈被告は圧倒的な立場だった。家に瑠奈被告の所有物があふれかえり、奴隷扱いされても、「瑠奈ファースト」の親子関係が形成されたと指摘された。
その“お嬢さん”はクラブで知り合った被害者男性とホテルに行った際、男性が避妊しなかったことを理由に、恨みをつのらせたという。加えて瑠奈被告には「人体への興味」があった。
〈瑠奈被告は人体に興味があり、2023年1月ごろから頭部のない人形や骸骨などが飾られ、“人の目玉(をモチーフにした)カクテル”などが飲める怪談バーに出入りしていた。6月18日ごろに、瑠奈被告が被害者への恨みから、被害者を殺害して本人の趣味嗜好である死体を弄ぶことを計画していると修被告も知った〉(検察側冒頭陳述より)
そして事件発生──。瑠奈被告は「おじさんの頭持って帰ってきた」と言い、本当に頭部を持ち帰り、自宅浴室に保管したのだ。検察側によると瑠奈被告はその後〈刃物を使い、被害者の頭部の皮膚をはぎ取り、左眼球、舌、食道などを摘出していた。さらに浴室でカメラを撮影しながら右眼球の摘出を計画した〉という。
瑠奈被告から、その様子を動画に撮ってほしいと言われた浩子被告。恐怖を覚えていたという浩子被告は、修被告に依頼しようとLINEで「撮影カメラマンするでしょ?」と連絡した。修被告が撮影するなか、被害者の眼球をくり抜いた瑠奈被告は、それをガラス瓶に保存したのだという。だが浩子被告は「何を撮影するか知らず手伝う意識は全くなかった」とこれを否定している。
7月の第2回公判では、弁護側証人として出廷した修被告が証言。逮捕前の写真よりも痩せた印象の修被告は、緑色の長袖に黒いズボンの服装で現れ、手錠腰縄で証言台の前に伴われて着席。そんな夫の姿を見て、浩子被告は目頭を白いハンカチで抑えていた。
事件のあった2023年7月1日深夜までに、瑠奈被告と修被告は犯行に使ったとみられる複数の刃物を購入していた。警察はこれまでの家宅捜索で、田村家の自宅からノコギリ4本を含む約20本の刃物を押収している。一体どのような目的で、それだけの数の刃物を買い揃えていたのか。修被告は尋問で、以下のようなことを語っていた。
「けっこう前から時々買っていた。(瑠奈に)必要だと言われると、『そうですか』と買っていました。少し良いナイフは、(瑠奈が)お守りだと言っていました。『魂が強くなる』と。しょっちゅう買うわけではありません。数年前からで、ナイフが入っている福袋を買ったのが最初でした。押収品目には20本以上とありますが、もともと家で使っていたものもあり、どれだけが娘のものかは把握していません」
ノコギリを欲しがるのには理由があったようで、瑠奈被告は「木を切ったり、カボチャをくり抜いてランタンを作ったりするのに使っていました。作ったプラモデルをコンテストに出品していて、そのプラモデルの背景として、板に色を塗ってノコギリで切っていました」という。しかし、それらの刃物は被害男性の遺体を損壊するのに使われた可能性がある。修被告は、娘に言われるがまま、その過程をハンディカメラで撮影した。なぜ娘を止めなかったのか。
「そのときの記憶がけっこう曖昧で、はっきりと思い出せませんが、やめなさいと言ってもやるだろうと思いました。咎めると、本人の精神状態が悪化する。不穏当ですが、どうせ逮捕されるとわかっていたので、その日まで穏便に時間が過ぎるのを待ちました。断ると本人が興奮する。(断るのが)怖いという気持ちはゼロではなかったが、本人の精神状態が壊れるほうが心配でした」(同前)
“娘の心が壊れないように”と配慮していた修被告は、事件前にさまざまな“道具”を購入していた。5月には楽天市場でサバイバルナイフ、6月後半にはAmazonで折りたたみナイフを購入。そして6月上旬から7月にかけて、瑠奈被告とたびたびドン・キホーテに出かけ、ノコギリや斧、キャリーケースやウィッグ、アイマスク、手袋、ハサミなど計13回の買い物をしている。ノコギリの刃元からは組織片が検出されており、そこから被害者男性のDNA型が検出された。
さらに修被告は事件前にインターネット検索で〈ハイターで指紋は消せる?〉、〈スーツケース 耐荷重100kg〉などと調べていたことも判明。瑠奈被告は被害男性をススキノのホテルで殺害後、浴室壁面にハイターを吹き付けていたことが分かっているが、このハイターも修被告が事前に購入していたことがわかった。
さらに“瑠奈ファースト”の一環か、修被告は事件を起こす約10日前、瑠奈被告とともにレンタルDVD店へ出向き、2本のホラー映画をレンタルしていた。店舗で瑠奈被告が作品を探す様子が防犯カメラに記録されている。彼女が選んだのは『レザーフェイス─悪魔のいけにえ』と『テリファー』。どちらの作品も人体を切断する描写がある。
逮捕後に自宅から押収されたハンディカメラには、瑠奈被告の撮影による、被害男性の殺害映像が記録されているというが、この2作品には「酷似した場面がある」と検察官が明かしていた。
娘の瑠奈被告が男性を殺害してから、逮捕まで20日以上。修被告は前回の証人尋問で、警察に通報しなかった理由を問われ、瑠奈被告への恐怖からではなく、あくまでも裏切ることができなかったという“親心”からだったとも述べていた。
「現場まで自家用車で行っているし、すぐにでも娘が逮捕されるだろうと思っていました。私の手で(警察に)突き出すということは、娘を裏切る行為になるような気がして、できませんでした。もし通報して突き出したら……。娘をこれ以上、苦しめたくない。“恐ろしくて通報できない”という気持ちはありませんでした」(同前)
次回公判は10月に予定されており、修被告の尋問が再開される見込みだ。修被告は瑠奈被告への恐怖からではなく“娘の心を守るため”に殺人を受け入れたのか、そして浩子被告は、本当に瑠奈被告の殺害計画を知らなかったのか。今後、両親が法廷で何を語るのか注目してゆく。
(了。前編から読む)
◆取材/高橋ユキ(ジャーナリスト)