パワハラなどの疑惑が指摘されている兵庫県知事。調査する百条委員会が初めて知事の証人尋問を行いました。
【写真を見る】兵庫県知事のパワハラ疑惑を内部告発した職員は、なぜ死に追い込まれたのか 県の“告発者捜しマニュアル”を独自入手【報道特集】
内部告発した職員は、なぜ死に追い込まれたのか。独自に入手したマニュアルから、告発者捜しの実態が見えてきました。
パワハラ疑惑が指摘される兵庫県の斎藤元彦知事。30日、こう弁明した。
兵庫県 斎藤元彦 知事「いろんな指摘をされたということは、真摯にうけとめ、自分の行動の襟を正していくということをやっていきたいと思います」
ことの発端は2024年3月、ある告発文が報道機関などに届いたことだった。告発文には兵庫県の斎藤知事について…
告発文書「知事のパワハラは職員の限界を超え、あちこちから悲鳴が聞こえてくる」「齋藤知事のおねだり体質は県庁内でも有名」
さらに、当時副知事だった片山安孝氏に関するこんな疑惑も。
告発文書「斎藤知事の政治資金パーティ実施に際して、商工会に対してパー券を大量購入させた」「実質的な実行者は片山副知事」
告発文の内容について、兵庫県庁の元職員が報道特集の取材に応じた。斎藤知事を「知事様」と呼ぶ職員もいたという。
兵庫県 元管理職の男性「『知事様』という言葉がこの頃使われていますけども、『自分は知事なんだからもっと丁寧に扱え』という姿勢で、あたられたように思いますね。長い会見が終わった後で多分イライラされたのでしょうけど、終わった後に資料とかをバンっとお付きの職員に投げつけた」
知事の意見に異を唱えると、異動の対象になったという。
兵庫県 元管理職の男性「飲みの場で県政に対して批判的なことを言っただけで、その人に対して『辞表を書け』と言って、迫られたこともあります。犯人を捜して左遷するなどの方法をとることによって、みんな職員はおびえ上がっていた」
この斎藤知事のパワハラなどの疑惑を告発し、7月に亡くなったのが西播磨県民局長のA氏だ。A氏の告発について元職員は…
兵庫県 元管理職の男性「勇気ある行動だったと思います。(県が)きちんと処理していたら、彼は英雄になれていたと思います」
「一死を持って抗議をする」という家族へのメッセージが残されていて、自殺とみられている。
何がA氏を死へと追い詰めたのか。そもそもこの告発は匿名で行われた。にもかかわらず、県はどのように告発した人物をA氏と特定したのか。
報道特集は県が作成した告発者捜しのマニュアルを独自入手した。これは、取材を基に再現したそのマニュアルだ。タイトルは「庁内調査手順」。告発者の特定が組織的、計画的に行われていたことがうかがえる。
聞き取り対象として告発したA氏を含む3人の名前が書かれていた。3班に分かれ、1人に対して2人で聞き取りを行うことになっている。
A氏に聴取を行うのは片山安孝副知事(当時)と人事課職員となっていた。
【調査手順】・午前10時30分に、各班一斉に訪問し、調査開始。・秘書や周囲の職員に対しては、訪問の目的は「近くに来たので寄っただけ」と伝える。・「名誉棄損及び守秘義務違反の調査のため、パソコン、スマートフォンには触らないように」と告げ、事情聴取を開始する。・パソコンは押収する。
また「調査実施結果」と題された別の文書には、A氏への聞き取り結果について、こう書かれていた。
【調査実施結果】・午前10時45分から11時30分で事情聴取を実施。・告発文書のことは知らない、自分はやっていないと「否認」の姿勢。
しかし調査終了から2時間後、A氏から人事課へ電話があり、自ら告発を認めたと記されている。
【電話の主な内容】・すべて自分一人でやったことを認める。
A氏が別の対象者・B氏に電話をした時、B氏は聴取を受けている最中だった。会話はスピーカー状態にされていた。
・情報収集してきたものを文章にまとめたことがバレた。・単独で行った。
A氏が告発を認めた発言には下線がひかれ強調されていた。聞き取りの2日後、斎藤知事が会見した。A氏を告発者と特定した上で、強い非難を繰り返した。
斎藤元彦 知事「県民局長としてふさわしくない行為をしたということ。被害届や告訴なども含めて、法的手続きを進めているところです。」
知事は15人ほどの記者を前に、告発の内容は事実無根だと強調した。
斎藤元彦 知事「不満があるからといって、しかも業務時間中に、嘘八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格ですので」
この告発について調査するため、議会は51年ぶりに百条委員会を開くことになった。A氏はその最初の証人として委員会に呼ばれていたが、出席を前に亡くなった。
遺族は声明を出した。
遺族の声明「主人が最後の言葉を残していました。そこには一死をもって抗議をするという旨のメッセージとともに、百条委員会は最後までやり通して欲しいことが記されていました」
知事が公然とA氏を批判したことに問題はなかったのか。28日、知事に聞いた。
――八百であるとか、公務員として失格だという発言についてどういうふうに考えていらっしゃいますか。
斎藤元彦 知事「表現としては行き過ぎたという風に思ってまして、反省しています。一方で、八百を含むということをお伝えしましたので、八百を含む事実と異なることが多々含まれている文書だということです」
――あの発言を聞いた元県民局長がどれだけ傷ついたかは想像に難くないわけじゃないですか。あれは公衆の面前で行われたパワハラそのものじゃないんですか。
斎藤元彦 知事「私としては、そこはやっぱりああいう文書が作成配布されたっていうことは大変遺憾だったと思っています」
――元県民局長が追い込まれて、それで亡くなるという結果が出ていて、その言葉で済まされるような状況じゃないと思うんですけど。
斎藤元彦 知事「行き過ぎた発言があったということは、これまでも反省お伝えしていますけど、やはり誹謗中傷性の高い文章ですから、そこは繰り返しになって申し訳ないんですけど…」
知事は告発文の内容は誹謗中傷性が高いとして、A氏を処分したのは適切だったと主張した。
公益通報者保護制度では、告発した人は降格や減給など不利益な扱いを受けることがないよう、保護される。
だが、自殺したとみられる兵庫県西播磨県民局長のA氏のケースでは県の窓口に公益通報し、その調査が行われていた最中に停職3か月の懲戒処分を受けていた。
県は告発者を特定する調査はA氏の同意を得て行ったなどと説明しているが…
A氏と親しかったという県のOB職員がJNNの取材に応じ、A氏が強引な調査の実態を語っていたと明かした。
OB職員「人事課の発表ではパソコンの回収も『同意の上で』となっているが、元幹部(A氏)は『不意打ちだった』と言っていた」
プライベートで使用していたUSBメモリまで持って行かれたという。A氏への聴取を行った片山副知事は7月、「特別職として責任を取る」と辞職している。
兵庫県 片山安孝 副知事(当時)「前からよく知ってた職員で、亡くなった事実は本当に痛恨の極み」
会見中、涙を見せたが、それはA氏の死を悼んでのものではなかった。
兵庫県 片山安孝 副知事(当時)「悔しくてしゃあないですけど、自分の能力がもうなかったのだと思っています。一生懸命やってる知事を何で支えられなかったのか。」
疑惑で名前が上がる片山副知事がA氏を聴取したことについて、斎藤知事に聞いた。
――3月25日だと思うんですけど聴取を行われたのはどなたですか。片山副知事ですか。
斎藤元彦 知事「片山副知事含めて対応されてます」
――公益通報者保護法では、『公益通報内容の利害関係者はかかわってはいけない』と定められています。片山副知事はもろ利害当事者だと思いますが。
斎藤元彦 知事「あくまで誹謗中傷性の高い文書を作成した。これをやはり内容から見て、県の職員が作った可能性が高いということで調査をしたので、懲戒処分に該当することをやった可能性がある職員がいる、ということで調査をしたので、これは公益通報に対する調査ではないんです」
斎藤知事はA氏は公益通報者として保護する対象ではなかったとし、現在も告発内容は真実ではないと主張している。