南海トラフ地震の「臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことに伴い、SNS上で偽・誤情報が拡散している。
今回は「地震発生の可能性が平時より相対的に高まっている」と気象庁が公表した初めてのケースで、不安感を背景に、科学的根拠がないのに地震を「予知」する投稿も目立つ。政府は注意を呼びかけている。
現代の科学では、場所や日時を絞って地震の発生を予測することは極めて難しい。今回の臨時情報も、予知ではなく、統計に基づく発生確率によって出されたものだ。
気象庁によると、1904~2014年、世界でマグニチュード(M)7級以上の地震は計1437回起きている。そのうち、震源から50キロ以内で7日以内に7・8以上の地震が発生したケースは6回あった。
8日には、南海トラフの南西端の日向灘でM7・1の地震が発生したため、同庁は、平時より相対的にこの地域で巨大地震が起きる可能性が高まったと判断した。
正確な地震予知の困難さは、過去の巨大地震が実証している。例えば政府は南海トラフの東側で起きるとされる「東海地震」の予知を前提に防災対策を進めてきたが、2011年3月9日、三陸沖でM7・3の地震が発生したにもかかわらず、その2日後に起きたM9・0の巨大地震(東日本大震災)を予測できなかった。
この事例を踏まえ、17年、「2~3日以内に東海地震が発生するという確度の高い予測は、現在の科学的知見では困難」と方針を転換。南海トラフ地震では、同じ震源域でM6・8以上の地震が起きた後などに、警戒や注意をうながすように改めた。
同庁がホームページで「日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマ。心配する必要はない」と呼びかけているのは、こうした教訓を踏まえた対応だ。
「大地震の前に現れる」との主張がある「地震雲」については「科学的に説明できない」とし、動物や植物の予知能力についても「科学的な根拠に欠ける」との立場だ。
同庁の武田清史・大規模地震調査室長は10日、SNSで「予知情報」が広がっていることについて「デマに惑わされず、備えや防災対応をとってほしい」と記者団に語った。(社会部 畑武尊)