今年4月、栃木県那須町で会社役員の宝島龍太郎さん(55)夫妻の遺体が見つかった事件。7月18日、東京地検は、夫婦の長女・宝島真奈美被告(31)、その内縁の夫であり首謀者の関根誠端(せいは)被告(32)のほか、あわせて7人を殺人罪で起訴した。
【写真】「青春ラブコメの主役みたいな子」小学校時代の若山容疑者
7人は共謀して宝島さん夫妻に睡眠薬を混ぜた飲み物を摂取させ、首を絞めるなどして殺害したとされる。報酬目的で殺害行為を引き受けたとみられるのが元俳優・若山耀人被告(20)と姜光紀(カン・グァンギ)被告(21)だ。若山被告の素性を詳報した当時の記事を再公開する。(初出:文春オンライン2024年5月4日配信。年齢・肩書等は公開当時のまま)
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〈小さい頃の夢は、仮面ライダーになることでした〉
かつてウェブメディアのインタビューに目を輝かせて語っていた少年は、いまヒーローではなく容疑者として世間を騒がせている。
東京・上野で飲食店など十数店舗を経営する宝島龍太郎さん(55)と妻の幸子さん(56)の遺体が見つかった事件で、警視庁と栃木県警による合同捜査本部は、死体損壊容疑で若山耀人(きらと)容疑者(20)を逮捕した。
遺体が発見された那須町の山林 文藝春秋
全国紙社会部記者の解説。
「若山は、遺体を東京から那須まで運搬して火をつけた実行犯の1人とみられる。同じく実行犯とみられる姜光紀容疑者(20)や、2人に指示を出した平山綾拳(りょうけん)容疑者(25)とは飲み友達だった」

事件ではすでに4人が逮捕され、全容解明に向け捜査はさらに進むとみられるが、中でも若山の逮捕は大きな話題になった。
「元子役俳優だったからです。2012年、9歳でドラマ『悪夢ちゃん』に出演してデビュー。2014年にはNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で岡田准一が演じた主人公の幼少期・万吉役で出演。その後、同一作で主人公の息子役としてもう一度出演する離れ業も演じ、共演者たちからは絶賛されていました」(芸能ライター)
嘱望された子役の衝撃的な末路に、かつてPR大使を務めた地元・岐阜県美濃加茂市が「事件の全容が明らかでないことから、コメントは差し控える」とする市長コメントを発表する事態にまで発展している。
小学3年で芸能事務所に所属した若山。美濃加茂市で若山家の近くに住んでいた男性はこう振り返る。
「当時から目鼻がくっきりしていたイケメンでした。サッカーが好きでよく近所でリフティングとかしていましたよ。小学生ながら子役として活躍していたのに、それを鼻にかけることもなく、人当たりもよくてすれ違えば元気に挨拶してくれた。

元気で格好良くて、スポーツもできて……っていう、青春ラブコメの主役みたいな子でした。実際、小学校でも中学校でもモテたみたいです」
芸能活動にも前向きで、生活拠点は岐阜に置きながら撮影のたびに母親に付き添われて東京に行っていた。「週刊女性」2014年1月21日号では、〈東京は夜でも明るいところが好きです。めっちゃ楽しいです〉と答えている。
小学校の卒業文集にはこう記した。
〈僕は将来、プロのサッカー選手になって、ブラジルのネイマール選手のようなドリブルをみがき、世界一の選手になるのが夢です〉

〈あきらめなければ夢は叶う〉と熱く綴ったままに、中学でもサッカー部に所属。厳しい練習にも食らいついて汗を流していたが、東京での芸能活動のために練習や試合を休むことも増えていった。

「『あまり日焼けしないように言われている』として試合出場を断念したこともあったようです。結局中2から、芸能活動に本腰を入れるべく東京に引っ越し。転校前には『東京に行って頑張ってきます』と胸を張って宣言していたのを覚えています」(地元の友人)
東京で通信制の高校に進学すると、髪を銀色に染め、ピアスを開けた。しばらくするとSNSに黒髪の清楚系美少女の写真が頻繁に登場し、頬を寄せ合ったツーショットなどで恋人との交際を大いに楽しんでいる様子を投稿するようになった。
この頃の変化について、芸能関係者はこう証言する。
「高校入学後に芸能の世界に興味がなくなり、徐々にフェードアウトしていった。最後は『サッカーに専念したい』と言って芸能界を引退したそうです。

確かにクラブチームには所属していましたが、決してプロ級にうまいというわけではなかったはずですが……。結局、事務所を辞めてからどんどんグレていったと聞きます」
若山が18歳のころから、SNSの投稿にも変化が生じた。恋人との写真は減り、20歳未満ながら夜のクラブで酒やタバコを楽しむ様子を投稿するようになった。そして今年1月、前出の地元の友人は驚きの光景を目にする。
「地元の成人式に、耀人が1人でフラっとやってきたんです。てっきり、卒業した中学がある東京の成人式に行くものだと思っていました」

近況を尋ねると散々はぐらかした挙句、ポツリとこう漏らしたという。
「……なんもしてない」
友人は言う。
「成人式の後には中学3年の時のクラスごとに飲み会をするのが慣例ですが、中学1年で引っ越した耀人は参加できるグループがなく、所在なく時間を持て余していました。気付いたらいつの間にか姿を消していた。……こんなことになるなら、成人式で会った時、もっといろいろ話しておけばよかったな」

そんな若山の家族が地元に残した痕跡もまた、やや不可解だ。父と母はパチンコ機器販売などの会社を経営していたが、会社登記に記載される代表取締役の住所は美濃加茂市内のまま。近隣住民らは「ずいぶん前に引っ越した」と証言しており、変更登記を怠る会社法違反状態となっている。父は、親族と共に同社の元請けにあたる会社の役員も務めていたが、昨年9月、親族と共に解任。元請け会社の社長は困惑しながらこう話す。
「引っ越した時にも何の連絡もなかった。一昨年の12月にいきなり『辞めたい』という趣旨のことを言ってきて、一応取締役会を経て解任に至ったんです。親族の方に至っては連絡も取れないし郵送物は返ってきてしまう状態。耀人君のことは覚えていますが、家族親族ともども、よく分からなくて私たちの頭はハテナでいっぱいですよ。お金の問題の有無については……答えられません」
今年3月、若山は渋谷の街頭で、姜と共にある動画配信者のインタビューに答えている。好きな言葉を尋ねられ、「お金。結局世の中はお金かな」と答えた。

20歳の若者らしく斜に構えただけか、あるいは夢破れた青年の偽らざる本心だったか。この翌月、若山は報酬金と引き換えに二度とヒーローの道には戻れない大罪を犯したのである。
(「週刊文春」編集部/週刊文春Webオリジナル)