※本稿は、牧田善二『疲れない体をつくる最高の食事術』(小学館)の一部を再編集したものです。
糖質が多い食生活を送っていれば、日常的に血糖値の乱高下が起き、慢性疲労が引き起こされます。
加えて、余ったブドウ糖があちこちのタンパク質とくっついてAGEをつくり、あらゆる生活習慣病の原因となることも本書で説明してきた通りです。
つまり、疲れない体をつくるために、みなさんが第一に取り組まなければならないのが糖質を減らすこと、すなわち「糖質制限」です。
とはいえ、難しい計算などは必要ありません。
これまでよりも、米飯などの炭水化物や甘い物を減らし、その分、肉や魚、豆類、大豆食品、野菜、海藻、キノコ類などを食べればいいだけです。
ただ、一口に野菜と言っても、ジャガイモやカボチャなどは、糖質含有量が多いので避けたほうがいい、というようなコツがあります。
また、糖質が含まれていることがわかりにくい加工食品もたくさん出回っているため、それを見抜く目は不可欠です。
要するに、自分で調べたり確認したりというリテラシーが求められるのです。
たとえば、健康にいいイメージのあるヨーグルトは、加糖タイプと無糖タイプがありますから、当然、無糖タイプを選ぶべきです。
さもないと、「よかれ」と思って食べるはずが、糖質の過剰摂取になってしまいます。
また、乳製品には本書の193ページで述べるような欠点もありますから、むやみに摂りすぎるのは厳禁です。
さらには、缶コーヒーなどで「微糖」と表示されている飲料には、案外、多くの糖質が含まれていることが多々あります。
舌が「甘さ控えめ」と感じるのと、本当に糖質が少ないのは別物ですから、みなさん自身の目と舌を働かせて、しっかり確かめていくことが大事です。
電車内などで観察していると、せた人より太っている人のほうが、空席に座りたがる傾向があるように感じます。実際に、重い体を支えていれば足も疲れるはずですから、太っている人が座りたがるのは当然のことなのでしょう。
また、太っている人は、少し運動をしただけでもすぐに息が上がります。そのため、運動から遠ざかり、余計に太るという悪循環を招いています。
もっとも、太っている人の疲れやすさは、こうして外から確認できるレベルに留まりません。
彼らは、糖質過多の生活を送っているから太っているわけで、体の中では血糖値の乱高下をたびたび起こしているはずです。その結果、ひどい慢性疲労に悩み、腎臓もくたくたになっている可能性が高いのです。
一般的に重度の肥満者は、寿命が10年短くなると言われており、日本人を対象にした国立がん研究センターの研究でも、肥満の場合、死亡率が1.4倍に上がるという報告がなされています。
ですから、疲労予防はもちろんのこと、健康で長生きするためにも、太っている人はダイエットが必要です。
ダイエットと聞くと、「空腹を我慢しなければならないのだろう」とか「カロリー制限しなければ」と考えるかもしれませんが、それは大きな間違いです。
本書の1章でも説明したように、私たちを、疲れさせ、太らせ、老化させ、病気にしている原因は「糖質」です。つまり、糖質を制限する食事によって、疲労除去、肥満脱却、老化防止、病気予防のすべてが同時にかなうのです。
そして、糖質を制限する食事には、空腹を我慢することもカロリーを計算する必要もありません。
大事なのは「知識」です。
一口に糖質と言っても、血糖値への影響や太りやすさはさまざまです。
また、同じ食材であっても、調理法や口にする時間帯や順番など「食べ方」によっても体への影響が違ってきます。
疲れ知らずで健康な体を保ちたいと考えたときに、絶対に摂るべきではない食材の代表が「液体の糖質」です。
具体的には、液体に大量の糖質が溶け込んでいる清涼飲料水、缶コーヒー(無糖タイプを除く)、エナジードリンクなどです。
「○種類の野菜が摂れる」という売り文句の野菜ジュースや、果汁100%の果物ジュースも同様で、非常に多くの糖質を含んでいます。
私自身、こうしたものは一切、口にしません。私の水分補給は、もっぱらミネラルウォーターで行っています。
ではなぜ、そこまで液体の糖質を避けるのか。
同じ糖質でも、米飯やパンのような固形物なら、んで、胃で消化して……という時間がかかるため、血糖値の上昇も比較的緩やかです。ところが、液体だと消化の手間がいらないため、すぐにドカンと血糖値を上げてしまいます。
この急激な血糖値上昇現象を、専門的には「血糖値スパイク」と表現します。
血糖値スパイクが起きると、上がりすぎた血糖値を下げるために、膵臓からたくさんのインスリンが分泌されます。そして、そのインスリンの作用で、今度は血糖値が下がりすぎ、疲労感や吐き気などの症状を引き起こすわけです。
血糖値スパイクを頻繁に起こしていると、そのたびにインスリンを大量に分泌する必要があり、次第に膵臓が疲弊していきます。やがて、疲れきった膵臓の働きが悪くなって、インスリンを出すタイミングが遅れます。すると、血糖値を下げることが難しくなり、糖尿病を発症します。
つまり、液体の糖質は、慢性疲労の原因になるだけでなく、糖尿病に罹りやすい危険な食材なのです。糖尿病に罹れば、その合併症で腎臓がやられ、さらに疲れやすい体になることは本書の2章で説明した通りです。
気をつけてほしいのは、健康に良さそうな野菜ジュースやスポーツドリンクにも糖質がたくさん含まれていることです。
実際に、学校の部活動でスポーツドリンクを多飲していた中学生が、いきなり高血糖で昏倒(こんとう)し、救急車で搬送された事例も報告されています。
こうしたケースを「ペットボトル症候群」と呼びますが、若くして重症の糖尿病を発症しているわけで、実に深刻な問題です。
たとえば、コカ・コーラはペットボトル500mLの場合、56.5グラムの糖質を含んでいます。これは、角砂糖14個分に相当します。
とくに炭酸が入っている飲み物は、清涼感にごまかされ甘さに気づきにくくなります。しかし、ためしに蓋を開けたまま放置し、炭酸が抜けた状態で飲んでみると、砂糖水のような甘さに驚くはずです。
つまり、清涼飲料水は、自分が想像しているよりも遙(はる)かに多くの砂糖を摂ってしまう飲み物なのです。
缶コーヒーも、ほどよい苦みがあるがゆえに、甘すぎることがわからなくなります。こうしたものを日常的に口にしていると、簡単に糖質中毒に陥ります。
仕事を途中で抜け出し、限られた喫煙所で一心不乱にタバコを吸っている人たちは、ニコチン中毒(依存症)に陥っています。同様に、あるタイミングで缶コーヒーなどを飲むのが決まりになっている人もまた、糖質中毒である可能性が高いのです。
まずは、液体の糖質を「厳禁」とし、ペットボトルの飲料でも、ミネラルウォーターや糖質の入っていないお茶類を選ぶ癖をつけてください。
なお、清涼飲料水のシュワシュワした刺激が好きな人は、ハイボールなどをつくるときに使う「炭酸水」を飲んでもいいでしょう。なんの味付けもしていない炭酸水なら、余計な糖質を摂ってしまう懸念はありません。
水は飲めば飲むほど腎臓に良いということが研究で分かっています。できれば一日2リットル以上の水分を摂るように心掛けましょう。
———-牧田 善二(まきた・ぜんじ)AGE牧田クリニック院長1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。———-
(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)