昭和時代、コタツを囲み、テレビを観ながら温州ミカンを食べるのが冬の風物詩だった。
最も多かった1975年と比べると、2021年現在で出荷量は8割減少した。しかし、近年の研究で、温州ミカンに特徴的に多いβ(ベータ)クリプトキサンチンなどの機能性が明らかになり、温州ミカンの健康効果が見直されつつある。
温州ミカンは、400年以上前に鹿児島で生まれたと考えられており、海外ではサツマオレンジと呼ばれる。受粉しなくても結実するため、ほぼ種が入らず、また手で簡単に皮がむける。テレビを観ながらでも食べられるので、欧米ではTVオレンジとも呼ばれる。
栽培方法は、露地栽培とハウス栽培がある。また、収穫後に1カ月以上貯蔵して熟成させた蔵出しミカンもあり、1年を通じて温州ミカンが販売されている。
栽培品種は多く、農水省の2020年度の統計に記載された栽培品種だけでも、温州ミカンは115品種ある。
栽培面積のトップ3は、宮川早生、興津早生(おきつわせ)、青島温州。ただし、温州ミカンはリンゴなどのように品種名で売られることは少なく、たいていは地域ブランド名で販売される。
温州ミカンの品種は熟期により、極早生(ごくわせ)・早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて)の4系統(晩生を、さらに普通・晩生の2つに分けることもある)に分けられる。
ただし、地域によっても差が出るので、同じ時期に、異なる系統の温州ミカンが店頭に並ぶことがある。
極早生温州は、主に9~10月頃に収穫される。果皮が青くて甘酸っぱく、さわやかな香りの品種が多い。昭和時代には運動会シーズンに食べられたので、運動会ミカンとも呼ばれた。
かつては甘みが少なく酸味が強かったが、近年は栽培技術の進歩と新品種開発により、年々品質が向上している。主な品種は、日南(にちなん)1号・上野早生・ゆら早生・肥のあかり・YN26など。
早生温州は、主に10月下旬~12月頃に収穫される。甘み・酸味ともにしっかりしている品種が多い。内皮が薄くて食べやすい。
主な品種は、宮川早生・興津早生・田口早生・小原紅早生(おばらべにわせ)など。
中生温州は、11月半ば~12月頃に収穫される、お歳暮ミカンの主流。早生温州に比べると内皮が厚いが、酸味と甘みのバランスの取れた品種が多い。主な品種は、南柑20号・向山(むかいやま)温州・石地温州・させぼ温州などがある。
普通・晩生温州は、主に12月に収穫される。外果皮・内皮ともに厚いため、日持ちがよい。酸味が少なく、甘みとコクがあるのが特徴。1カ月以上、貯蔵室などで熟成させた蔵出しミカンとして出荷することも多い。
主な品種は、青島温州・林温州・大津4号・寿太郎温州など。
露地ミカンはたいてい年内に収穫が終わるが、蔵出しミカンは3月頃まで出荷される。ねっとりしたゼリーのような食感が特長で、大きいサイズのミカンのほうが、より食感を楽しめる。
‐玉の温州ミカン貯蔵ミカンを除き、小さいミカンのほうが味が濃い確率が高い。
▲悒燭涼羆の軸(果梗跡)が細いもの温州ミカンは樹齢が高いほど果梗が細く、また味の濃い実ができる傾向にある。
H蕕領魁垢小さくて多いもの表面の粒々(油胞)にはリモネンなどの精油成分が詰まっている。油胞が小さくて多いほど香りが高い。
こ芦免蕕謀度なキズがあるもの温州ミカンには、陽のよく当たる、木の外側に成って、糖度も高い傾向にある[外成りミカン]と、陽があまり当たらない、木の内側に成る[内成りミカン]がある。枝や葉が風に揺られて、外果皮についたスリキズは外成りミカンに多い。
コ芦免蕕濃いもの店頭で、同じ産地のミカンを選ぶ場合は、より色が濃いほうがオススメ。ただし赤いネットに入っている場合は、実際の色より赤く見えるので注意。
ι發皮でないもの浮き皮とは、実と果皮の間に隙間があるものをいい、味が薄い傾向がある。ただし、外皮はとてもむきやすい。
等級が高いもの産地や出荷団体が同じなら、等級が高いと糖度も高いことが多い。産地や出荷団体が違えば、基準は異なるが、ミカンの空箱を見つけたら、等級(秀・優・可など)を確認しておき、より高い等級のものを選ぶのもオススメ。
∥淒磴い両豺帰宅後すぐに、袋から取り出し、傷みがないか確認する。
箱買いの場合受け取り後すぐに、箱からすべてのミカンを取り出し、底に新聞紙を敷いたワイドバスケットに、皮が厚いヘタ側を下にして入れ替える。その際、傷んだミカンは取り除いておく。そして、暖房などが当たらない、暗くて涼しいところに保存する。
※SSサイズなどの超小玉ミカンは、外果皮が薄く日持ちが悪いので、早く食べるのが望ましい。毎日の傷みチェックは欠かさずに。
冬に温州ミカンを食べて冷えるなら、食前や入浴前に食べるのがオススメ。
酸が強い場合は、酸を早く抜くために、ヘタ側を上にして何日か冷暗所で保存する。すぐに酸味を減らしたいときは、お湯に数分浸けるか、揉むなどすると酸が抜けて甘くなる。
普通サイズの温州ミカン1個の可食部の重さは、Sサイズで60g前後、Mサイズで80g前後、Lサイズで100g前後。
早生温州の薄皮つきの果肉は、水分が87%で、糖質は9%しかないので、一般的なお菓子に比べると、糖質やカロリーは少ない。例えば、メロンパン1個の糖質量は、Mサイズの温州ミカン8個分に相当し、ショートケーキ1Pのカロリーは、Mサイズの温州ミカン10個分に相当する。
体内で貯留され、必要に応じてビタミンAに変換されるβクリプトキサンチンの同じ重さあたりの含有量が、食品成分表記載の生フルーツの中で最も多い。ビタミンAの1日推奨量について、Mサイズの温州ミカン1個で、30~64歳の、男性で8%、女性で10%を摂取できる。
ビタミンCについて、同じ重さあたりで、Mサイズの温州ミカン1個は、レモン1.4個分に相当し、1個で12歳以上の1日推奨量の28%を摂取できる。
ヘスペリジンはポリフェノールの一種で、ヒトでの比較実験では、血中の中性脂肪低下、血中尿酸値の低下、高血圧患者の血圧低下、指先の温度低下抑制などの効果が認められている。温州ミカンでは同じ重さあたりで、外果皮の内側の白い部位(アルベド)、次いで外果皮と薄皮に多いので、白いスジや薄皮もできるだけ食したい。
カロテノイドの1つのβクリプトキサンチンは、温州ミカンに特徴的に多い。また冬に温州ミカンを多く食べる人は、食べない人と比べて、年中、血中のβクリプトキサンチン濃度が高いことがわかっている。
2012~16年にかけて、静岡県浜松市旧三ヶ日(みっかび)町の住民1000人以上を対象とした、血中のカロテノイド濃度と生活習慣病の発症リスクに関する追跡調査の結果が複数発表された。
10年間の追跡調査では、血中のβクリプトキサンチン濃度が高い人は少ない人に比べて、脂質代謝異常症のリスクが34%、肝機能低下(血清ALT上昇)のリスクが49%、2型糖尿病の発症リスクが57%低かった。
4年間の追跡調査では、血中のβクリプトキサンチン濃度の高い閉経後の女性について、骨粗鬆症(こつそしょうしよう)のリスクが92%も低かった。
2017年、温州ミカンの果皮と花粉症に関する、ヒトでの比較実験の結果が発表された。
実験ではまずスギ花粉症の日本人31名(平均32歳)に、花粉を点眼し結膜炎を起こさせた。その後3週間、毎日150gのヨーグルトまたは温州ミカンの果皮入りヨーグルトのいずれかを食べ続けてもらった。さらに次の3週間は、それぞれもう一方のヨーグルトを食べ続けてもらった。
すると、ヨーグルトだけよりもミカンの果皮入りヨーグルトのほうを食べた方が、目の赤み・結膜浮腫(けつまくふしゅ)・かゆみが有意に改善された。有効成分は、一部の柑橘類の果皮に多く含まれるポリフェノールの一種、ノビレチンと考えられている。
ノビレチンは、同じ重さあたりでは柑橘に多く、中でもポンカン、柑子(こうじ)、シークワーサー、紀州ミカン(小ミカン)などの果皮に多い。
カロテノイドの含有量が多い、ミカン、カボチャ、トマト、ニンジンなどを長期間多く摂ると、手のひらや足の裏などが黄色くなる。これは、カロテノイドが表皮や皮下脂肪などに貯留して起きる「柑皮症(かんぴしょう)」(カロテン症)。
顔まで黄色くなると、しばしば「黄疸(おうだん)」(成人黄疸)と間違われるが、単にカロテノイドの摂りすぎによるものであれば健康上は問題がない。
ただし、柑皮症は甲状腺機能低下症・糖尿病・肝疾患・腎疾患などによる、カロテノイドの代謝不良でも起こる可能性がある。
黄疸とは、肝疾患や胆管閉塞(たんかんへいそく)や溶血などにより、血液由来のビリルビンが血中に増え、全身の皮膚が黄色くなる状態のこと。黄疸では白眼も黄色くなるが、柑皮症では白眼は黄色くならないので、両者を区別できるとされる。
‐討ミカン皮ごとオーブントースターなどで焼く。味が濃くなるのでオススメ。
⇔篥爛潺ン皮をむいて実だけラップに包み、冷凍用保存袋に入れて冷凍保存する。風呂上りや暑い日に食べるとおいしい。
6餾カレーなどの濃い味つけ料理の具材として利用する。
ぅ潺ン鍋ミカン鍋は山口県周防大島(すおうおおしま)町の名物料理で、栄養価の高い外皮ごと食べられる
〈引用参考文献〉・日本食品標準成分表2020/文部科学省・日本人の食事摂取基準2020年版/第一出版・国民健康・栄養調査報告2019/厚生労働省Webサイト・Osteoporos Int 2008 Feb;19(2):211-9.・J Biomed Sci. 2012; 19(1): 36.・PLoS One.2012;7(12):e52643.・IOVS Vol.58, 2922-2929 (2017)・SAGE Journal Vol.20 (1),1981・Cutis. 1988 Feb;41(2):100-2. 柑皮症・日本内科学会 50巻5号 414-419, 1961・西日本皮膚科 Vol.79(1)38-40, 2017
———-中野 瑞樹(なかの・みずき)フルーツ研究家、毎日フルーツ200g推進協会代表1976年和歌山県生まれ。京都大学卒(農学修士)。元東京大学教員(工学部)。元アメリカ国立海洋大気局 客員研究員。学生時代は沙漠緑化の研究に従事。2003年にフルーツのもつ魅力に目覚め、消費啓発活動を始める。「甘いから食べ過ぎに注意!」と言われるフルーツの体への影響を調べるため、2009年9月から実験的に、水もお茶も摂らない「フルーツ中心にほぼ果実だけの食生活」を続ける。「マツコの知らない世界」など、テレビ出演多数。著書に『中野瑞樹のフルーツおいしい手帳』(河出書房新社)。———-
(フルーツ研究家、毎日フルーツ200g推進協会代表 中野 瑞樹)