東京都知事選で現職の小池百合子氏と蓮舫、石丸伸二、田母神俊雄各氏による候補者討論会が6月24日夜行われた。小池氏は2期8年の都政を自賛し、はじめは余裕の表情で批判をかわしていたが、蓮舫氏に次いで石丸、田母神氏までから痛いところを突かれると、皮肉やイヤミで応戦した。現状、優勢が伝えられる女帝・百合子は果たして、逃げ切ることができるか―。
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知事選には56人が立候補している。全員が参加すれば討論にならないとみられ、主催した日本青年会議所が、これまでに首長や国会議員を経験したか過去の選挙で供託金を没収されなかった人に参加を絞ると4人になった。

討論の序盤、蓮舫氏が「東京は夢をかなえられる場所だと思っています。でも残念ながら、確かに手取りは47都道府県のうち3位なんですけど、そこから光熱費や家賃などを引いたら実は(残りは)ワースト1。ここをもう少し増やして差し上げる」と、東京の暮らしにくさを指摘。
それに対し、直後に順番が回った小池氏は「東京の魅力、それは、日本人は逆によく理解していない部分だと思います。こんなに安全で安心な街はありません」と完全スルー。すると蓮舫氏は「予算が適正に使われているのか情報が公開されておらずわからない」と2発目のジャブを繰り出すが、これにも小池氏は「(都政を)今度バージョンアップさせて『東京大改革3.0』で進めていきたいと考えております。よろしくお願いします」と涼しい顔で受け流した。
この空気を変えたのが石丸氏だ。神宮外苑の再開発に反対する蓮舫氏が小池氏に「まさか再開発の事業者から都知事はパーティーのチケットの購入とか受けてませんよね?」と切り込んだ時、小池氏は「パーティーの開催につきましてはそれぞれ法律に則った形で公表をさせていただいているところでございます」と、言質を取らせない“政治家話法”で応答。蓮舫氏はこの小池氏の返答で引き下がり、話題は次へ移るかと思われた。ところがここで石丸氏が挙手し「今の蓮舫さんの質問にはイエスかノーかで答えられる。もう一度お願いします」と、隣の小池氏に直球を投げ込んだ。
虚をつかれた小池氏は「はい、あのー」と言い出しに時間をかけながらも「私はこれまで政治のパーティーという形で開かせていただいております。その中にはさまざまな方々からご意見をうかがうと同時にご協力もいただいている、そしてそれは法に則って進めているということでございます」となんとか返答。再開発事業者がパー券を買っていることを認めないが否定もしない、との態度が鮮明になる。そこを司会者がさらに「どっちかというと、それはイエスってことですか?」と詰め、イエスともノーとも決して言わない小池氏は「さまざまな方にご協力いただいております」と、同じことをさらに短く言って不快感を隠さなくなった。
石丸氏は自分と同じ新人候補を相手にするより絶対王者、小池氏との対比を見せつけた方がいいと計算した模様で、さらに小池氏に迫る。築地市場の豊洲への移転を挙げ、「小池さんは『築地は守る。豊洲は生かす』というお話があったかと思いますが、この4年間で、築地に対してどのような思いをはせてらっしゃったのか。純然たる興味で聞いております」とボールを投げる。
「築地については食文化、必ず生かしてまいります。何も変わっておりません」と応じた小池氏に石丸氏が「築地は『生かす』の方に変わったんですか?」とさらに聞き、「生かすことは当然のことでございます」と禅問答のような応酬に。ここで、横で聞いていた田母神氏が論争に分け入ってくる。
「築地に私、今事務所構えてるんですけども、実は小池知事を恨んでいる人、結構多いですね。実は…」
小池氏が第1次安倍晋三内閣で防衛相を務めた際、航空幕僚長として支えた経緯がある田母神氏は討論の冒頭で当時の小池氏を「素晴らしい大臣でした」と持ち上げていた。政治思想的にも近い小池氏の直接批判はそれまでなりを潜めていただけに、突然の発言に会場の関心は田母神氏が何を言い出すのかに集中した。
「(なんで恨んでいるかというと)最初の移転の問題じゃないですか。1年遅れたということね。それでいろいろ困ってね。一番遅れたのはネズミがすごく増えたらしいの。それで、事務所を私、築地に構えたら、小池知事の悪口を言う人が多いんです」石丸氏の問題提起とは方向が違う意見のようでもあり真意はよく分からないが、とにかく地元で小池氏を恨んでいる人が多いとの証言に、小池氏は穏やかではいられない。
司会者に「小池さん、どうですか?」と振られた小池氏は、キツーい皮肉を言わずにいられなくなったようで「ちょっとお友達選んだ方がいいと思います。ホホホ、はい」と強烈な返しをし、会場は緊張に包まれた。
石丸、田母神両氏の“頑張り”によって相対的に存在感が低下したかに見えた蓮舫氏も終盤、小池氏からの挑発に応えて猛攻に出る。東京都民の低い可処分所得をどうするのかという、小池氏にとってはアタマの痛い話題での場面だ。小池氏が「私はやはり、ここは国策だと思います。一つの自治体だけではございません」と国の仕事だと強調し、返す刀で「都民の命、そして暮らしを守るためにも、もっと、野党が頑張ってくれればよかったんじゃないでしょうか」と野党に矛先を向けた。
これに蓮舫氏は即座に反撃。「野党は頑張っているけど与党が聞かないんですよね。なぜならば(自民党は)裏金に集中してますから」(蓮舫氏)と、裏金問題を持ち出して、自民党の姿勢を批判すると、小池氏がさらに反撃し、バチバチと火花が飛び散る展開になった。
「その点を、もっと国会で。もう蓮舫さんは国会の花ですよ。がんばってほしかったですね」(小池氏)「今度は東京都の花になりたいんですが。ちなみに(小池氏が国会議員時代)清和会(旧安倍派)に所属していた時って、還元(パーティー券収入を還元した裏金)もらってました?」(蓮舫氏)「ないですね。はい。パーティー券を、売らないと戻してくれないわけでしょ」(小池氏)「そのシステムは入っている方の方が詳しい。私はパーティーやったことがないので分かりません」(蓮舫氏)
遂に起きた正面衝突が終わると、討論は最後の発言に。蓮舫氏は「小池さんの話が聞けたのは、私はすごく勉強になって、私ならもっとやれると思いました」と述べ、東京都政を担う能力が自分にはあると強調してみせた。小池氏の対抗馬は蓮舫氏ではなく自分だとアピールした石丸氏は「お互いに質問して答弁をする際に、きちっと答えないっていうのは、これはまず、視聴者、国民、有権者に対してものすごい失礼だと思いました。政治家というものは己の身を守っている場合じゃないんです」と、ここでも言外に小池氏の態度を厳しく指摘した。
このころには余裕の表情に戻った小池氏は、他の3人との記念撮影を終えると会場を後にした。めちゃくちゃな内容のポスター掲示など、不祥事が目につく今回の東京都知事選。選挙期間中唯一の機会になるかもしれない今回の候補者討論会は、数少ないまともな?政策論争の場となり、大いに盛り上がった。
取材・文・撮影/集英社オンライン編集部ニュース班