警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は埼玉県三郷市の路上で車を走らせていたときに、暴力団組長が罵声を浴びせられた体験について。
【写真】運転トラブルと車種のイメージ
* * *「先日、怖い目にあった」とちょっと強面の暴力団の組長が真面目な顔で話し始めた。この道何十年の組長が”怖い”というのだ。上部団体で何かヤバイ話でもあったのか、対立組織と抗争でも起きたのか、それとも…と瞬時に、最近起きた事件を思い返してみたが、当てはまるようなものは何もない。
「三郷をなめちゃいけないね」。組長が怖い目にあったのは埼玉県三郷市だ。愛車のプリウスで三郷市に出かけた日にそれは起きた。暴力団ではアルファードやヴェルファイアなどのワンボックスが人気だそうだが、プライベートでプリウスに乗っているヤクザは多いという。そのプリウスを子分に運転させ、組長は所用で三郷市まで出かけたのだ。
つくばエクスプレスの開通で発展した三郷市は、数年前には埼玉県の住み心地が良い街ランキングにも入っている街だ。コストコやメガドンキ、イケアなど大型スーパーや量販店が揃っており生活に便利な街だが、少し走れば広々とした田舎の風景が広がっている地域でもあるという。
その三郷の、交通量もほとんどない片側2車線の田舎の道を走っていた時のことだ。すぐ目の前の交差点で右折しなければならないことに気が付いた組長は、子分に「そこを右折」と指示した。その指示に従い、子分はウィンカーを出さずに右折レーンへ進入した。ウィンカーを出さないのは法律違反だが、組長の車の前に車はおらず、対向車線にも車はない。かなり後ろに黒い軽自動車が1台走ってくるのが見えたぐらいで、組長も黒い軽自動車もスピードは出ていなかった。
交差点の信号は青。右折するために右折レーンで止まった組長の車の横に、後ろを走っていた軽自動車がスッと停止した。「なぜか真横にピタリとつけて止まった」(組長)。信号は青なのに、軽自動車は進まなければならないはずの走行レーンの真ん中で停止した。
不審に思ってそちらを見ると運転席の窓が開いた。顔を出したのは、マスクをかけた20代くらいの女性。「ハンドルにしがみつくように運転してたんだろう。ハンドルと体の距離がとても近かったから、たぶん小柄な女だね」と話す組長に、女性の髪の色を聞くと「あまりに驚いて覚えていない」という。
女性はおもむろに組長の方を向くと、していたマスクを左手で顔からはぐように取ったのだ。組長を鋭く睨むと、「ウィンカーぐらい出せ、このヤロー」。組長めがけて怒鳴り声をあげたのだ。唖然とする組長と子分を尻目に、女性はそのまま車を発進させ走り去っていった。
「いったい何が起きたのか。なぜ怒鳴られるのかわからなかった。それもヤンキーみたいな女の子が、こんな風にマスクをはぎ取って」、組長と子分はしばし呆気に取られて、結局、右折するのを忘れたという。ここ数年の中で一番驚いた出来事だったそうだ。
「こっちの顔を見て、このヤローまで言ったんだぜ。よっぽどムシの居所が悪かったんだろうな。こっちは走っていて、他の車もいないから右折レーンに入っただけだ。後ろに軽自動車はいたが車間距離もあったし、その後ろに車がいなかった。軽自動車の進路を妨害したとか、煽ったとか追い越したとか、迷惑行為は一切ない。田舎道を子分と話をしながら、のんびり走っていただけだ。それをわざわざ青信号の交差点で車を止めて、していたマスクを取ってまで怒鳴られた」と、法律のことは無視して自分たちの言い分をいって、「怒鳴られたじゃないな、罵声を浴びせられた、だ」と言い直す。
真横に車をつけたというなら、ヤンキーみたいな女の子は組長の顔も子分の顔も見たはずだ。一目でその筋とわかるような彼らを見ても、その女の子はひるむどころか強烈な罵声を浴びせたのだ。「ここ数年で一番驚いたね。言われたのがこのヤローでよかったよ。バカヤローと怒鳴られたら、子分がキレてたかもな」。組長と子分はその後の数時間、この話で盛り上がったという。
「でも、相手が俺たちでよかったよ。俺たちはヤクザだから、何か言われても『あっ、すみません』って素直に謝る。これが半グレか輩みたいにイキがっているヤツらだったら、下手したら命がないぜ。ヤンキーの女も危ないな。女同士、絶対にそこでケンカになる」という組長は、「あの子に教えてやればよかったよ。罵声を浴びせるにも相手に注意しろって」という。
“いや、どれも危ないですよ”とは言い返せなかった。