東京都千代田区の靖国神社の入り口にある石柱に放尿するしぐさをし、赤いスプレーで落書きした中国人の男が6月3日、すでに上海の空港へ帰国したと宣言する動画を公開した。中国版“迷惑系ユーチューバー”とみられる男は、東京電力福島第一原発からの処理水放出を非難もしているが、反日感情を刺激し閲覧数を増やすのが目的らしい。さらに靖国神社では、中指を立てて神社を侮辱する写真を撮る別の男も目撃された。
<衝撃写真>靖国神社に向かって中指を立て“挑発ポーズ”で写真を撮る男
事件は1日午前6時20分ごろ、神社入り口の「靖国神社」と記された石柱に赤いスプレーで英語で「トイレ」と落書きされているのを通行人が見つけ発覚した。「器物損壊の疑いで警視庁麹町署が捜査を始めると、そばの狛犬の周辺で『世界人民は団結しよう』『ただしお前らは含まない』と中国語で書かれた2枚の張り紙も見つかりました」(社会部記者)
さらに同日、中国の動画投稿アプリ「小紅書(レッド)」に、この犯行を撮影したとみられる動画がアップされた。動画では、闇の中を若い男が石柱に登って柱に放尿するような動作をした後、取り出した赤色のスプレーを、石柱正面の「神」と「社」の文字の間に吹き付けている。動画は自撮りではないため別の撮影者がいたとみられる。「男は『鉄頭』と名乗る、中国では一部で知られた投稿者のようです。この映像は中国の動画配信サイト『哩哩(ビリビリ)』にもアップされ拡散されました」と大手紙外報部記者は話す。
1869年に明治天皇の勅命で招魂社として創建された靖国神社には幕末、明治維新以降の日本の内戦や戦争で朝廷・政府側で戦没した軍人らが祀られている。それだけにネットでは保守界隈を中心に怒りの声が噴出。高須クリニックの高須克弥院長は、自身のXに「日本人の誇りを辱しめられたのであります。魂が汚辱されたのです」と書き込み、男を捕まえてくれたら500万円を出すと懸賞金の支払いを宣言。金額はその後1000万円に引き上げられた。
「これに呼応してか、ネット上では情報が次々寄せられ、真偽は不明ですが、鉄頭は中国浙江省の外国語大を卒業し、上海市に住む36歳の男で、撮影した共犯者は中国人女性だという情報がXで飛び交っています。3日には『鉄頭はまだ日本にいる』との情報が拡散され、出国を許すなという声があがっていました」(社会部記者)
しかし3日夕方、鉄頭が哩哩に“帰国宣言”ともいえる動画を上げていたことがわかった。室内の椅子に座った鉄頭は、6月1日付の中国紙、杭州日報を示して撮影が同日以降に行われていることを見せつけながら「みなさん、こんにちは。無事帰国しました。私は北京時間5月31日20時50分(日本時間同21時50分)に(犯行を)やりました。北京時間6月1日5時20分、私は上海浦東空港に着きました。多くの人が私に連絡したことはわかっています。そのため通信機器の電源を切っていました」と表明。
さらに「なぜこんなことをするのでしょう。さまざまな解釈がありますが、自分勝手な解釈はやめましょう。脳がダメージを受けます」と、人を食ったような話を続けた。
さらに鉄頭は「次にやること。東京電力を訴える」と言って、蹴りをくらわすポーズを一発キメている。そこに東京電力福島第一原発の写真が付いた記事の画面が現れ、「なぜ訴えるのか。法律によれば、世界中の影響を受けたすべての人々は訴えてもいい。私は(黄海に面した)浙江省舟山市が故郷です。私の人生で起きたすごいインパクト」と続けると、「私は魚介類を食べるのが大好きです」とのテロップが。福島第一原発からの処理水の海洋放出によって海が汚染され、大好きな魚が食べられなくなった、と言いたいらしい。
中国のSNSでは「好好好(いいぞ)」「英雄」などと称賛する書き込みがある一方、日本に滞在する中国人への悪影響を心配する声も上がっている。ただし、日本と中国の間には犯罪人引渡条約が締結されていないため、当面、中国当局が鉄頭を拘束し身柄を日本へ送ることはないとみられる。
ただ、日本政府と政治的な緊張関係にある中国政府も、日本の世論の反発を受けそうな鉄頭の不適切行為には困惑している模様だ。
「中国外務省の3日の定例記者会見ではこの問題をめぐって『中国人は海外でどうふるまうべきか』との質問が出ました。これに対し毛寧報道官が『靖国神社は日本軍国主義が発動した対外侵略戦争の精神的道具とシンボルだ』と従来と同様の見解を述べながらも、『外国にいる中国国民が現地の法律や法規を遵守し、理性的に要求を表現するよう改めて注意する』と発言しました。鉄頭が国家のイメージに泥を塗ったと中国政府が判断していることは確実です。鉄頭は今後、中国内で別件で逮捕されたり、そうでなくとも公安の監視下に置かれ、普通の社会生活が送れなくなる可能性があります」(大手紙外報部記者)
毛報道官の発言にもあるように、靖国神社をめぐっては、これまで中国や韓国、北朝鮮は日本の当局者による参拝などを非難してきた。またこうした経緯をもとに中韓の国民による事件もたびたび起きてきた。その一つが2011年12月に靖国神社で起きた放火事件だ。翌2012年1月にソウルの在韓日本大使館に火炎瓶を投げ込んで逮捕された中国人の男が、前年に靖国神社にも火をつけていたことわかった。日本は犯罪人引渡条約を結んでいる韓国に、男が10か月間の刑期を終えた後、引き渡すよう求めたが、引き渡しの是非を検討したソウル高裁は、男が裁判中に祖母が朝鮮半島出身で旧日本軍の慰安婦だったと説明したことなどを根拠に、送還の対象外となる「政治犯」と認定。男は日本に引き渡されず、中国へ送還された。
また、2015年11月には靖国神社の公衆トイレで爆発物が爆発し、12月に韓国人の男が逮捕された。これらの犯行は歴史問題が背景となる、日本政府や靖国神社への反感が生んだとみられた。だが今回の事件は、行動が迷惑系ユーチューバーと変わらず、過去の事件とは毛色が違うようにも思われる。
鉄頭の帰国の報がネット上に流れた3日午後、記者が現場を見ようと靖国神社の石柱を訪れると、マスクをかけた男性が石柱に向けて右手の中指を立てながら、左手に持ったスマホで撮影している場面に出くわした。男性の後ろをついて行くと、今度は拝殿や本殿に向けても同じことをしている。話を聞こうと声をかけたが「OK、OK、OK」とだけ言って足早に去って行った。
この男性の国籍などは判別がつかなかったが、中国のSNSで「靖国神社」と検索すると中指を立てた記念写真の投稿が数多くみられた。インバウンドの増加に観光業界は大喜びだが、なかにはこうした迷惑系も多く含まれているのも現実である。
※「集英社オンライン」では、今回の事件について情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected](Twitter)@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班