札幌市の繁華街ススキノのホテルで2023年7月、男性会社員(62=当時)が殺害され、頭部を切断されたとする事件で起訴された親子3人のうち、死体遺棄ほう助と死体損壊ほう助の罪に問われた母親の無職・田村浩子被告(61)の初公判が6月4日に札幌地裁(渡辺史朗裁判長)で開かれた。
親子3人に対しては逮捕後の昨年8月から半年間、刑事責任能力を調べるため鑑定留置が実施され、地検は責任能力を問えると判断。娘の田村瑠奈被告(30)は殺人と死体損壊罪で、父親の精神科医・田村修被告(60)は殺人ほう助罪などで起訴された。ふたりは裁判員裁判対象事件となっており、公判開始時期は現時点で未定であるが、裁判員裁判ではない浩子被告の公判が先んじて行われる形となった。
【写真28枚】肩まであるロングヘアにメイクした姿でマイクを持つ田村修容疑者。他、赤い海賊帽にボブヘアのウィッグで歌う修容疑者、全体ピンクのホテルの部屋、田村浩子容疑者の描いたアマビエイラスト
「法廷に現れた浩子被告は、薄いキャメルのカーディガンにロングスカート、髪をひとつ結びにした地味な装いでしたが、不思議と年齢を感じさせない佇まいでした。ゆっくりとしたお辞儀など、ひとつひとつの所作に品が漂っていました。眼鏡をかけていても、瑠奈被告と同じく華やかな容姿をしていることが伝わってきました」(裁判を傍聴したジャーナリストの高橋ユキ氏)
起訴状によると、瑠奈被告が殺害後に持ち帰った男性の頭部の撮影を求めてきたことについて、浩子被告は夫の修被告に伝えて依頼。修被告が撮影を行うなか、瑠奈被告は男性の頭部から右眼球を摘出したという。浩子被告は、死体遺棄ほう助と死体損壊ほう助の罪に問われている。
これまでの取り調べで、浩子被告は事件への関与を否定。初公判では、「あまりに異常な状況で、娘に何も言うことができず、頭部を隠したいと言われたこともなく、頭部を持っているとも思わなかった。娘からビデオの撮影を頼まれたが、具体的な内容は言われてなかった」などと述べており、“気づいたら自宅に男性の切断された頭部があった”と主張した。
弁護人も「浩子さんが、娘が男性の頭部を浴室に置き続けていたことを認識して生活していたことに間違いはないが、隠匿しているとは思っておらず、隠匿を容認もしていない。咎めたり通報してはいないが、容認する発言もしていない」と起訴内容を否認して、無罪を主張した。
検察側の冒頭陳述では、田村家の歪な様子が明らかになっていった。中学時代から不登校となり、仕事もせず実家で暮らし続ける娘を“お嬢さん”と呼び、その“お嬢さん”こそが一家の最優先事項だったという。
「浩子被告と修被告は、幼少期から瑠奈被告を溺愛し、成人後も彼女の要望を最優先し、望むものを買い与えてきたそうです。瑠奈被告の所有物があふれるようになったが、片付けようとしても『触るな』と言われてしまうため、家の中は足の踏み場のない状況となったことが明らかにされました。そのため浩子被告は2階のリビングのわずかなスペースで暮らし、修被告はネットカフェで寝泊まりしていたといいます。
浩子被告と修被告だけのLINEでも、ふたりは瑠奈被告を『お嬢さん』と呼び、敬語を使っていたそうです。両親は常に瑠奈被告の機嫌を伺い、毎日のように娘に食べたいものを聞いては、浩子被告から修被告に連絡し、買って帰る生活でした」(同前)
瑠奈被告は、両親を奴隷扱いしていた。
冒頭陳述によると、瑠奈被告は“置いた物の向きが違っていた”など、些細なことで両親を責めたという。浩子被告は、「熟女系風俗にでも売り飛ばせばいい。とっとと売れや」など怒鳴られたり、「お嬢さんの時間を無駄にするな。奴隷の立場を弁えて、無駄なものに金を使うな」という誓約書を書く羽目になった、それでも娘を叱らなかったという。 また、修被告のことを瑠奈被告は「ドライバーさん」と呼び、クラブや怪談バーへの送迎に徹夜で付き合わせていた。運転中の修被告の首を絞めて叱責するなどしていましたが、やはり怒らず謝っていたという。
田村家において、瑠奈被告は圧倒的な立場だった。家に瑠奈被告の所有物があふれかえり、奴隷扱いされても、「瑠奈ファースト」の親子関係が形成されたと指摘された。“お嬢さん”がトップに君臨する、壊れた家庭。その歪みこそが、残虐な事件を巻き起こした──。