学生やサラリーマンで賑(にぎ)わう東京・高田馬場(新宿区)の一角が、騒然とした。
5月21日、駅から徒歩10分もかからない仏教寺院で、20人近くの捜査員が警備にあたっていた。覆面パトカーが配備されるなど物々しい雰囲気の中、午後1時を回るころに1台の黒塗りの高級車が敷地内に入ってきた。捜査員が緊張の面持ちで見つめるなか、車内からヌッと姿を現したのは、住吉会の小川修司会長だ。大きな体躯を揺らしながら寺へと入っていく。さらにその1時間半後には、稲川会の内堀和也会長(71)も姿を現した。
六代目山口組とともに日本の暴力団の頂点に立つヤクザ界のトップ二人が、真っ昼間の高田馬場に降り立った目的はなんなのか――。
「この日は住吉会系二次団体・小林会三代目会長の通夜が行われていました。小林会は銀座に拠点を持ち、住吉会の中でも有力団体として知られています。その会長の葬儀とあって、大物たちが弔問に訪れたのです。
実際に全国に25団体ある指定暴力団のうち、稲川会と住吉会を含め、5団体のトップが参列しました。六代目山口組からも、中核組織である弘道会の幹部が足を運んだ。近年、都内でこんな規模は見たことがありません」(暴力団事情に詳しいジャーナリスト)
一時は斎場の外まで送迎車が連なり、捜査員が交通整理を行うほどだったが、夕方4時までには多くの弔問客が帰路に就いた。『山口組分裂の真相』などの著書があるノンフィクション作家の尾島正洋氏は、「都会のど真ん中で葬儀が行われるケースは珍しい」と語る。
「ヤクザは葬式であっても寺や葬儀施設の利用を断られることが通例となっています。しかし、今回は案内状に組の名前を入れず、あくまで小林家の”家族葬”とすることで認められたようです。あまり前例がない方法で、暴力団幹部が都心で一堂に会することになるため、警察も厳戒態勢を敷き、注視していたようです」
捜査当局が過敏に反応する裏には、今年8月で10年目に突入する六代目山口組と神戸山口組の「分裂抗争」がある。
「ヤクザ界隈は年明けから騒がしい。1月には愛媛県のスターバックスで銃殺事件が発生していますし、4月には岡山県で”反六代目”陣営の幹部宅に手榴弾が投げ込まれる事件も起きました。節目を前に、緊張感が高まりつつあります」(前出・ジャーナリスト)
渡世は大きな乱世に向けて動き出しているのかもしれない。
『FRIDAY』2024年6月7・14日号より