「僕が家出をしたのは母を殺しそびれたからです」
“被害者”の石井純太さん（仮名・17歳）は私（筆者）に向かって淡々と、とくに感情を出すこともなく話しはじめた。彼は現在、建設会社で働いており、取材当日も華奢な体躯に作業服で身を包み、同僚と現場で汗を流していたが、半年ほど前まで家出少年だった。
「14歳になるまで幸せな家庭で育った」という彼は、16歳のときに母親に刃を向けたあと、家を飛び出している。
警察庁が公開した「令和4年における行方不明者の状況」によれば、全国の警察署が受理した10歳代の行方不明者は1万4959人だったという。10代の行方不明は自分の意思で失踪（家出）したパターンが多いようだが、未成年がアテもなく彷徨えば、悪い大人に狙われるのは火を見るより明らかだ。気が付けば犯罪の片棒を担がされていた…なんて例は腐るほどある。純太さんもそのパターンで過ちを犯している。
多くの方が、少年犯罪の背景に「ろくでなしの親」が潜んでいることに気づいているだろう。少年犯罪のニュースを読んで、「もし別の親のもとに生まれていたら彼（彼女）は、罪を犯しただろうか」と思ったことは一度や二度ではないはずだ。
その「ろくでなしの親」は、子供が逮捕される一方で、誰からも罪を問われることなくやりすごしてしまうことも多い。
少年犯罪の背景には何があるのか――。純太さんの証言や、犯罪グループの被害者らの証言を元に振り返ってみたいと思う。
純太さんは生後すぐに特別養子縁組で石井家に迎えられた。
特別養子縁組とは、養子となる子供と実の親との法的な親子関係を解消し、養父母との間に実の親子関係を成立させるもので、戸籍上も実子とされる制度のことである。純太さんは、
「父はサラリーマン、母は専業主婦。両親は運動会や授業参観をみにきてくれていたし、お盆や正月には旅行に連れて行って貰ったこともあったので、どこにでもある普通の家庭だったと思う」というが、彼が14歳のときに父が交通事故で他界してから状況が一変した。母親が、夫を失くした寂しさからなのか、純太さんに「異常な執着」を見せるようになったからだ。
「『目を離すのが心配だから』といって、僕と一緒に毎日、中学校まで登下校をするようになりました。親と一緒に学校にくる生徒なんていないから、周りからはヘンな目で見られます。だから何とかやめてもらったのですが、今度は『いつでも連絡がとれるように』とスマホを持たされました」
以来、どこに出かけても母親から＜どこにいるの？＞＜早く帰って来て＞といったラインがひっきりなしに届くようになり、無視をすれば、生存確認の電話がかかってくるありさまだったという。
純太さんは「それが鬱陶しくて、次第に出かけなくなった」というが、すると母親は、学校に行く以外はほぼ家にいる彼に亡き夫の姿を重ねて、妙な要求をするようになったという。
「食事をするときは父が座っていた椅子に座り、寝る際は父のベッドで眠るように言われました。母は映画が好きで、よく父と映画館に出かけていたのですが、それも父のかわりに僕が付き合わされるようになりました」
そして父の一周忌の夜。母親は法を犯した。亡き夫のベッドで眠る純太さんの布団の中に裸で潜り込み、15歳になった彼の体を執拗に触り始めたのだ。
「おぞましい気持ちになって、『母さんは何を考えているの！？ 親子なのにおかしいよ！』と渾身の力で抵抗したのですが、『私とアナタは本当の親子じゃないのよ』と言われ、そのときはじめて自分が養子だったことを知りました」
純太さんは混乱するあまり、抵抗する気力を失くしてしまい「されるがままになってしまった」という。その日から、幾度となく母親から性虐待を受けるようになったという。
「血が繋がっていないことは理解しましたが、生まれてから15年間、“母親”だった人間とそういう関係になったことは僕にとっておぞましさしかありません。自分がすごく汚らわしかった」
親による性的虐待は「隠れた最悪の虐待」とも形容されるとおり、誰にも気づかれず被害を受け続けやすいのが特徴のひとつだ。長年にわたる虐待の影響で、成人後にも長期的な精神疾患で苦しんだり、社会生活を送れなくなるケースも目立つ。
純太さんもまた心を病んでしまい、ろくに勉強もできず、高校受験に失敗した。「人生は完全に詰んだ」と感じ、一時はひきこもり生活を送っていたというが、母親の勧めで入学した通信制の高校で亜子さん（仮名）と出会い、付き合うようになる。
「彼女は生まれて初めてできた彼女でした。亜子と付き合うようになって、暗黒の人生に光がさしたと思ったのですが…」
亜子さんの存在に救われた純太さんに待っていたのは、蟻地獄のような母の呪縛と、亜子さんの「裏切り」。そして犯罪グループの誘いだった。
「母親から性虐待を受けた少年が証言…！「犯罪グループ」とわいせつな行為を続けた「母」のその後」につづきます。
母親から性虐待を受けた少年が証言…！「犯罪グループ」とわいせつな行為を続けた「母」のその後