先日の東京15区の選挙で一部の党が大音量で他の候補者の演説をさえぎるなどの行動が連日ありました。こうした行為は「妨害」なのか、「言論の自由」として許されるのか。みなさんの考えは?
【写真を見る】「選挙妨害か?」「言論の自由か?」大音量のヤジで演説中止も 東京15区補選「つばさの党」の行為に波紋「大人として恥ずかしくないのかよ」通りがかりの子供も…【news23】
東京小池百合子都知事「選挙戦そのものが、想定できないような大音声や妨害などで、とても残念でございました」
4月30日、小池都知事が“想定できない妨害”と語ったのは、東京15区に出馬した乙武氏の街頭演説での一幕です。
「何が変わったんだ!答えろ!きれいごと言ってんじゃねーぞ」
電話ボックスに上り、マイクを握り叫んでいるのは、つばさの党の黒川敦彦代表。つばさの党は選挙期間中、妨害ともとれる行為を繰り返し行っていました。
別の日、他の候補者に対しても…
つばさの党黒川敦彦代表「へいへいへいへ~い。なんでおまえ論戦で答えないんだよ」
大音量でヤジを飛ばし、街頭演説が中止に追い込まれました。
さらに、つばさの党候補者の横にいた別陣営の男性が突然転倒します。候補者に暴言を浴びせながら追いかけ回す様子も。
つばさの党根本良輔氏「金澤もよ、答えてみろよ、くそ女」
やり取りを聞いていた子どもからは…
「大人として恥ずかしくないのかよ」「子どもが正しいよ、本当に」
他の陣営は、つばさの党を避けるため、街頭演説の日時や場所を事前に告知できないなど、選挙戦に影響が出たといいます。
無所属乙武洋匡候補「各立候補者の主張、それを有権者の皆様がしっかりとお聞きになる権利、自由が奪われてしまった」
警視庁は選挙期間中の4月18日、公職選挙法違反の自由妨害の疑いがあるとして、黒川敦彦代表や根本良輔氏ら3人に対して警告を出していました。
なぜこのような行為を繰り返すのでしょうか。代表に尋ねると…
23ジャーナリスト宮本晴代記者「他の陣営の方が、選挙の演説を聞きたかったんだけれども聞けないっていうようなことも実際起きているかと思うんですよね」
つばさの党黒川敦彦代表「一回ちゃんと私たちの質問に対して、『なるほど』と思うその返答ができれば、逆にいった僕らの方が圧倒的悪者になります」
23ジャーナリスト宮本晴代記者「あくまでも選挙妨害をしているという意識はない?」
つばさの党黒川敦彦代表「選挙妨害では、我々は絶対ないと思っています。これこそが言論の自由なので」
つばさの党根本良輔氏「はたから見たら妨害しているように見えるかも知れんけど、法律的に問題ないし、別に今後、これを反省する気とか全くなく、バンバンやっていくつもりでございます」
小川彩佳キャスター:彼らは批判も織り込み済みで、目立つことを是としているようにも見えますね。
23ジャーナリスト宮本晴代記者:彼らは「選挙妨害ではないか」と言われていることもわかっています。現行犯逮捕されないような、ギリギリのところを言ってやっているわけです。
「これはあくまで選挙の演説である」、「僕らの言論、表現の自由なんだ」という主張を、彼らはしているわけです。
藤森祥平キャスター:いろいろお考えがあると思いますが、警察は取り締まりなど、動けないのかという声もあります。
「つばさの党」の行動について、私達は警察関係者に取材をしました。
警察関係者Aは「公選法はこういう候補者の出現を予想していない。摘発は簡単ではない」、警察関係者Bは「選挙は些細な間違いも許されず、よっぽどのことがない限り、選挙期間中に動くのは難しい」と話していました。
宮本記者:ただ一点指摘しておきたいのは、警察が全然動くつもりがないということはまだわかりません。一連の行為を捜査して、今後、取り締まる可能性はあるということは押さえておきたいと思います。
そもそも、公職選挙法というのは古く、想定していないことがたくさん起きているわけです。
街頭演説のルールはどうなっているのかというと、実は“暗黙のマナー”なんです。
例えば、A党が東京駅の前で街頭演説をしますとなった場合、B党という違う党は同じ場所でやっても仕方がないので、場所を変える。あるいは時間をずらすというように、“暗黙のマナー”でやってきたわけです。
ある自民党関係者に話を聞いてきたのですが、「これまで紳士協定でやってきたが、見直さないといけなくなるかも」と話していました。
小川キャスター:お互い節度を守って、この公職選挙法を何とか守ってきたわけですよね。
宮本記者:性善説に立ってたわけですよね。でもそれがある意味ガラッと変わってしまったということだと思います。
小川キャスター:それも残念なことですが、彼らは「言論の自由だ」というふうに主張しているわけですが、藻谷さんはどう見ましたか?
地域エコノミスト藻谷浩介さん:これが言論の自由だとすると、セクハラもパワハラも言論の自由ということになってしまいますよね。
常識で考えてもおかしいのですが、そもそも法律上、判例はありまして、スピーカーなどを使って相手の声が聞こえないぐらいまで大きい音で妨害をするのは、選挙の妨害であって、この公職選挙法に違反するという判例が出ています。
それに対して、昔、札幌でマイクを使わずにヤジを飛ばした人が捕まりましたが、これは行き過ぎだということになりました。なぜならマイクを使っていないから。
今回はもう見た通りで、ましてや引っ張って倒すなんて、これは暴行罪になります。本人が「罪じゃない」と言っていますが、これは警察はちゃんと動くべきです。
もし例えば、政権与党がこういうことをした場合、弾圧になりますよね。当然、与党はこんなことやりませんが。同じように野党だってやってはいけない。
言論の世界を、大声でやるという暴力で乱してはいけません。
小川キャスター:法律違反ではないと主張しているわけですが、ただ、今回の選挙でつばさの党は1100票あまり票を得たということもまた事実です。
街の皆さんに、この結果をどう見たのか率直に伺いました。
20代「迷惑極まりない」
80代「良くないよ。民主主義だからね」
ーーなんで(つばさの党が)賛同を得たと思いますか?
30代「良いも悪いも何かやってくれそうみたいな。そうしたら今の日本が変わると思ったりするんじゃないですか」
30代「革命っぽい雰囲気であったり、体制を揺るがしたりする者に対して、今の体制に不満を持っている人などがそういった活動を支持するのもあるんですかね」
20代「今の政治、若者の声とか少数派の大事な声が届きづらい今の現状に声をあげた人たちに期待した人たちが入れた票かな」
50代「どんな方法であれ、新しいことをやりたいと仰っている方に対して賛同する、興味をもつことはあり得ると思う」
50代「不満があるからじゃない。よろしくはないかもしれないが、政党に対して若者が不満爆発させているって、その爆発がそういうこと(過激な活動)にいってるんじゃないかなと思うので、私は一定の評価をしたい」
10代「伝えていることが正しくても、やっていることが間違っているというか…」
10代「選挙に関心があるのは良いけど、そこまでするのは、どうかなあ」
小川キャスター:一定の賛同を得たことに理解を示す声が多く聞かれましたね。
宮本記者:私個人的には、彼らのやり方に対して決して擁護しませんし、許されるものではないと思います。子どもに見られて、モラルも本当にどうなんだ、というところだと思います。
ですが、残念ながら一つ指摘しなきゃいけないのは、「既存政党への不信」というところです。
「政治家が綺麗事ばっかりじゃないか」とか、「嘘ついてるじゃないか」ということがあります。この間は、政治家の“裏金問題”もあったわけです。
そうしたことが一定程度、彼らの主張が浸透しやすいような土壌を生んでいるということは考えなきゃいけないと思います。
もう一つ申し上げておきたいのが、1番の被害者は「有権者」なんです。「本当は他の陣営の演説も聞きたかった、でも聞けなかった」かもしれないということ。
そもそも今回の補選は、自民党の議員が選挙買収事件で辞職した結果、起きている補選なんです。本当に無駄なお金が使われましたし、エネルギーも使われました。
政権与党である自民党は、そこに候補者を出さなかったんです。つまり、そこで選択肢の提供すらできなかった。
政治に対しての不信感に拍車をかけたことは猛省してもらいたいと思います。
藻谷さん:ただ、政府に対する不満を言うのであれば、選挙を悪用するのはやめてほしいですね。むしろ普通の場でデモなどやったらいいんじゃないですかね。
実際このやり方では支持は集まらないし、選挙でそういうアピールをするというのは、まず場が違っている。正々堂々と国会の前でやったらどうでしょうか。
小川キャスター:つばさの党は私達の取材に対し、「このやり方は今後も続けていく」と話していましたから、これにどう対応していくのか、知恵を絞っていく必要があります。
そして、この背景には既存政党が受け皿になり得ていないという現実があるということを、今の政治家の皆さんには深刻に受け止めていただきたいなというふうに改めて感じます。
==========<プロフィール>藻谷浩介 さん株式会社日本総合研究所 主席研究員著書「デフレの正体」NYコロンビア大学ビジネススクール卒業宮本晴代23ジャーナリスト政治部で与党や外務省を担当NY支局時代は国連を取材北朝鮮渡航は10回超「ゼレンスキー氏来日へ」をスクープ