東京都内でもよく見かけるようになった電動キックボード。
2023年7月1日の道路交通法改正で、一定の条件を満たす電動キックボードの場合、16歳以上であれば無免許でも運転が可能になった。
気軽にレンタルできる新たな移動手段として人気を集める中、交通違反や事故も増え続けている。SNSでは「危険だ」「なぜ規制緩和したのか」など否定的な声もいまだ根強い。
規制緩和されたことで、電動キックボードの扱いは具体的にどう変わったのだろうか。
「これまで電動キックボードはすべて『原動機付自転車(原付)扱い』でしたが、規制緩和後、基準を満たした電動キックボードは『特定小型原動機付自動車扱い』となりました。この改正で運転免許不要、ヘルメット着用は努力義務に。これまで車道のみだったのが、自転車走行帯や路側帯も走行可能になり、時速6キロに速度制限を切り替えれば歩道を走れるようになりました」(全国紙社会部記者)
「特定小型原動機付自動車」とは、以下の基準をすべて満たすものを指す。
・車体の大きさは、長さ190cm以下、幅60cm以下であること
・原動機として、定格出力が0.60キロワット以下の電動機を用いること
・時速20キロメートルを超える速度を出すことができないこと
・走行中に最高速度の設定を変更することができないこと
・オートマチック・トランスミッション(AT)機構がとられていること
・最高速度表示灯が備えられていること
「原動機付自転車」(原付)は運転免許やヘルメット着用が必須かつ時速30キロまでの速度制限があるため、「特定小型原動機付自動車」扱いの電動キックボードは、圧倒的に利用しやすくなった。
日本に先駆けて、海外では2017年ごろから電動キックボードのシェアリングサービスが始まり、急速に普及した。経産省のデータによると、2021年9月時点で、米国129都市、ドイツ87都市、ポーランド44都市、英国35都市、イタリア28都市で導入されている。
日本では、2024年5月現在、電動キックボードのシェアリングサービスの最大手「Luup」が10都市(東京、大阪、横浜、京都、仙台、宇都宮、名古屋、神戸、広島、福岡)に展開している。
欧米で電動キックボードが普及している背景について、東海大学の鈴木美緒准教授(交通工学)が解説する。
「欧米人は日本人に比べて自転車に乗り慣れない人が多く、自転車の値段も日本より高い。なので、欧米では自転車は一般的な乗り物ではありません。ということで、自転車よりもっと気軽に乗れる電動キックボードが人気なのです」(鈴木氏、以下同)
しかし、普及するにつれて欧米でも事故の増加や無謀運転、違法駐車などの苦情が殺到。フランスのパリでは2023年4月、電動キックボードのレンタルサービスの是非を問う住民投票が実施され、約90%が禁止を支持。そして、同年9月から電動キックボードのレンタルサービスが禁止となった。
「パリでは人通りが多いエリアは時速10キロまでしか出ない速度規制などの対策をしても、目に見えた効果が表れず、禁止になりました。英国などでもシェアリングサービスのみ許可されている段階で、まだまだ社会実験的な位置付けの国もあり、欧米でも国によってルールは様々です」
日本でも電動キックボードの事故や交通違反が増えている理由として、「交通ルールの周知が徹底されていない点が大きい」と鈴木氏が指摘する。
「たとえば、Luupの電動キックボードの場合、時速20キロの速度モードに設定し車道や自転車走行帯、路側帯を走るのが原則。歩道では、時速6キロの速度モードで走行しないといけないのですが、学生に聞いてもこのルールを知らない人も多く、ほとんど守られていません。自転車が車道を走るルールさえもいまだに徹底できていない状況で、電動キックボードが、歩道を走る状況はとても危険です」
電動キックボードの悪質運転で何度も危険な目に遭っているという東京・新宿区在住の30代女性も、実体験を語ってくれた。
「歩道でもお構いなしに電動キックボードが縦横無尽に走っているので、事故寸前になったことは何度もあります。新大久保や歌舞伎町周辺では、外国人や若者の利用者が多く、交通ルールを完全無視。『歩行者が避けろ』みたいな空気も出してくるので、正気の沙汰と思えません」
損保ジャパンが2024年1月に公表した調査結果(人口上位10都道府県に在住かつ事前のアンケートで「電動キックボードを知っている」と回答した16歳以上の男女1076人を対象)によると、「電動キックボードの利用者を見て危険だと感じたことがある」と回答した人は78.8%。
その理由として「速い速度で歩道を走行し、子どもと接触しそうになっていた」「慣れていないのか、フラつきながら走っていた」などの意見があった。
電動キックボードは気軽に乗ることができる点が強調されるが、必ずしもそうでもないという。
「タイヤが小さく、重心が高いのでバランスを取るのが意外と難しい。『転倒しそうになったら、足を地面につけば大丈夫』といいますが、反射神経が必要です。安全に乗ろうと思えば、ヒールは避けるべきだし、荷物が少しでも多いと傾きやすく、自転車以上に服装も限られます」
電動キックボード以外にも、ペダル付き原動機付き自転車(通称「モペッド」)の事故や交通違反も増えてきている。
「モペッドとはペダルをこがずに運転できる電動自転車で、『フル電動自転車』として販売されています。見た目はほぼ自転車なのですが、道路交通法上は「原動機付自転車」(原付)に分類され、当然運転には免許が必要ですし、自賠責保険の加入も必須。電動アシスト自転車と同じ感覚で、ヘルメットを着用せず運転している人も増えてきており、電動キックボードと同様、警察は検挙に力を入れ始めています」(前出の全国紙社会部記者)
3月5日に閣議決定された道交法改正案では、モペッドについて、モーターを止めた状態で走行しても、原付バイクの運転に該当することを明確化した。改正案が成立した場合、公布から6ヵ月以内に施行される。
警察庁によると、モペッドの交違違反の摘発は2023年に345件にのぼり、前年から約3.6倍。人身事故も同2倍超の57件と急増している。
警視庁交通執行課は4月10日、東京都渋谷区でモペッドの交通違反の取り締まりを午後3時~4時半ごろに実施した。同課によると、1時間半ほどで5人が無免許運転やナンバープレートを付けていないなど6件の道交法違反で取り締まりを受けたという。
モペッドの危険性について、鈴木氏が解説する。
「モペッドは車種によって、車体が重く、時速30キロも出るので電動キックボードよりも衝突時の衝撃が大きい。原付扱いなので当然歩道の走行は禁止なのですが、自転車と同じ感覚で歩道を走るケースも増えています。電動キックボードと同様に対策が必須です」
後編『「電動キックボードはたった3ヵ月で廃車になることも」…未来が一向に見えない「日本の道路事情」』では、電動マイクロモビリティの将来などを解説する。
「電動キックボードはたった3ヵ月で廃車になることも」…未来が一向に見えない「日本の道路事情」