関西圏のある市立小学校のPTAで、PTA役員を辞退したいという保護者について、その保護者が「知的障害者」であることを理由に辞退を申し出たことを他のPTA役員たちに文書で周知していたことがわかった。PTA役員の辞退をめぐっては、「免除の儀式」と呼ばれる行為が全国的に行われていることも問題になっているが、極めて高度なプライバシーである病気に関する情報に言及して全校のPTA役員らに送る行為は物議を醸しそうだ。
【写真】小学校PTA役員決めで「知的障害を理由に辞退した」と周知させた文書
当該の小学校のPTAで、役員らに配られた内容は以下のようなものだった。
〈◯◯さんについては、知的障害者であることや精神科に通院していることから、多くの人の前でうまく話せないため、PTAの役員ができないというお話しが本人からPTA本部にありました〉(特定を防ぐため、文章は主旨を変えない範囲で一部編集しています)
関係者によると、この申し出について、病気のことも含めてPTA役員に共有することの承諾を本人から得たうえで文書が作られ、周知されたという。
全国のPTAでは、役員決めをする際に「免除の儀式」と呼ばれる光景が繰り広げられているケースが少なくない。
新年度の役員を決めるのは、保護者会の後やクラスのPTAの会議などのタイミングだ。そこでくじ引きで決める際に、くじを引く前に他の保護者たちが居並ぶ前で「私はこういう理由でPTA役員ができません。だから免除してください」と説明し、他の保護者が免除してもよいと思ったら手を挙げる──といったものだ。
「うちは離婚して、シングルマザーで育てている。平日も土曜日も深夜まで働かなければ生活がなりたたないから役員ができません」
「親を介護しなければならず、自分も病気がちで……」
中には、涙を見せながら“免除してほしい理由”を語る人もいる。「シングルマザー」については、他にも同じ事情の人が少なくないということで「多数決で免除は却下」となった事例もある。首都圏に住む母親が語る。
「最近離婚して、話したくも知られたくもない事情を告白したうえでもなお、くじ引きの対象とさせられました。あれは“地獄の時間”でした。そのあとすぐ、私が離婚したという噂が学年中に出回っているのを知りました……」
2022年、東海テレビが放送エリア内の500あまりのPTAを対象に行ったアンケートによれば、〈選出の場で事情を説明し、他の保護者が了解すれば辞退可能というPTA〉が19.3%にのぼったという。実に2割の学校で「免除の儀式」が行われているというのだ。
今回判明したような、知的障害者であることを他のPTA役員たちに文書で周知するケースも「免除の儀式」と同様、他の保護者が納得できるような辞退の理由が必要だということなのかもしれない。
PTA問題に詳しいライターの大塚玲子氏は、「PTAというものに対する発想を変えなければいけません」と語る。
「近年は、PTAが希望者だけで行う形に変わってきている印象です。やりたい人がやるのであれば、免除の儀式は起きようがありません。『各学年/各クラスから◯人の委員を出さなければいけない』というルールになっているから、“できない理由をみんなに伝える”という状況に繋がるんです。
希望者が集まって、その人数でやれることをやる。人が足りないのであれば諦める。このような頭の切り替えが必要ですし、実際そのような柔軟なスタイルで行うPTAが増えてきています。コロナ禍ではPTAの活動が制限されましたが、“意外となんとかなる”と感じた保護者が多かったようです。その経験もあって、PTAというものに対する発想の転換が進んだのでしょう」
免除の儀式という歪みを解消するためには、PTAというものの在り方自体を考え直す必要がありそうだ。