名門病院の救急部門に、去年やってきた中堅医師。着任からまもなく、現場は大混乱に陥った。その正体が、医療界を激震させている、あの「脳外科医」だったとは。恐怖の内部告発スクープ。
ここに、50枚以上に及ぶ文書がある。すべて、同じひとりの医師の行状に関する「報告書」だ。
「私は長年この病院に勤めていますが、こんなにひどい医者は初めてです。
彼の力量不足とデタラメな処置で、治るはずの患者さんが、命の危機にさらされることが度重なっています。今すぐ医者を辞めてほしい。多くのスタッフが、心の底からそう思っています」
決意を固め取材に応じたのは、大阪府吹田市、万博記念公園近くにある「吹田徳洲会病院」救急部門のスタッフである。
医療界を揺るがしている『脳外科医 竹田くん』。兵庫県の赤穂市民病院で起きた連続医療ミスと、それに関与した医師がモデルの「ほぼ実話」のマンガだ。本誌は3月9日号で、当事者のA医師と被害者に取材した。
A医師は2021年に赤穂市民病院を退職、大阪市の医誠会病院(現・医誠会国際総合病院)救急科に移る。ところが、そこでも患者を処置ミスで死なせたとして、今年2月に遺族が病院を訴えた。
A医師がさらに移った先が、吹田徳洲会病院。そこでA医師は、またしても患者を危険にさらしているというのだ。
前出のスタッフは「最初はみんなA先生を喜んで迎えた」と回想する。
「彼がうちに来たのは、去年の6月初め。当時は救急担当の常勤医が足りなかったので、若くてやる気のあるA先生に誰もが期待していました」
しかし、期待はすぐさま裏切られる。着任からいくらも経たないうちに、おかしな診断を連発し始めたのである。
「6月12日、転んで顎や手を打った女性が運ばれてきました。A先生はCT検査で『異常なし』と判断し、傷を縫って帰宅させた。ですが、その後画像を確認した放射線技師が『顎の骨が折れている』と気づいたのです。
また同16日には、緊急搬送された患者に、A先生はアドレナリン静脈注射を指示しました。ですが、アドレナリン注射は心停止の場合しか行ってはならないのが常識。スタッフが反対して事なきをえましたが、指示通りにしていれば、患者が亡くなったおそれもあります」
ありえないミスは、7月に入っても続く。なんと、口の中を切った患者の傷を縫合する際、補助スタッフの指を針で何度も突き刺したのだ。そのスタッフ自身が報告書にこう記している(以下〈〉は内部資料からの引用、表記は原文ママ)。
〈A医師により縫合処置中、縫合針が(口を)保持していた右手第2指(人差し指)に刺さった。私が「痛っ」というと、医師は「ごめん」といい縫合処置を続けた。すると1分もたたないうちに次は右手第4指(薬指)に針が刺さった。「先生、また手に針が刺さっています。痛いです」と言うと医師より「ごめん、わざとじゃないねん」と発言あり〉
実は、この患者はC型肝炎ウイルス感染者だった。スタッフにうつれば、肝炎、肝硬変、肝がんなどを発症する危険がハネ上がる。だがA医師が、それを気に留めていた様子はない。
「A先生は、注射針やカテーテルの針、縫い針といった尖った器具の扱いがぞんざいで、一度使った針を平気でベッドの上に放置するなど、衛生意識のカケラもない。この『針刺し事件』の数日後に新型コロナ感染者が搬送されてきた際にも、その患者に使ったカテーテルを作業スペースに置きっ放しにしていました。
そもそもカテーテルの挿入自体、補助するスタッフが『一度で成功したのを見たことがない』と評するほどヘタでした」(前出と別のスタッフ)
A医師は救急部門の中核を担い、多くの看護師・救急救命士に検査や治療の指示を出す立場にあるが、その指示もデタラメだった。7月には、こうした報告が上がり始める。
〈患者診察をせず様々な検査オーダーを入力しており、なぜその検査が必要なのか分からないことが多々ある〉〈間違えて(検査を)オーダーしていることがわかった。担当の(別の)救急医に不要と確認しキャンセル〉
まともな診察をしないまま、患者を入院させることも頻繁にあった。
〈患者様到着後(A医師は)8分で診察を終了された。この間一度も患者に近づくことなく触診どころか問診もなし。(中略)患者の顔も見ない、話をしない、触診もしない、検査データも見ない、レントゲン画像も見ないで入院となることがある〉
あげく7月末には、患者をさばききれず、症状・病状のデータを取り違えるミスまで起こした。
困り果てたスタッフが他の医師を頼ると、A医師は露骨に不機嫌になる。昨年11月に、スタッフがある患者を循環器内科の医師に診てもらうよう提案したときには、
〈「僕が診ている患者なのにコンサル(相談)依頼するなんて失礼だ」(中略)「そんなの僕は知らない。それなら僕は診ない」と、まったく聞き入れてくれず。患者を放置し自室へ戻りその後は一度も患者を診ようとしなかった〉
と、院内で行方をくらましてしまった。さらに別のスタッフが憤る。
「私がいちばん許せなかったのは、昨年12月、発熱で運ばれてきた高齢の患者さんに、カリウム製剤を大量投与するよう指示したことです。カリウム製剤は命にかかわる副作用を起こすことがあるため、慎重に投与するのが当たり前です。
現場スタッフは『先生、それはできません』とはっきり意見しましたが、A先生は聞き入れない。『それでもやると言うなら、ご自分でお願いします』と言うと、先生は休憩室へ引っ込んでしまった。愕然としました」
この頃には、A医師の行状、さらに彼が『脳外科医 竹田くん』のモデルとなった医師であることは院内に知れ渡っていた。しかし、病院の上層部は見て見ぬふりをし続けた。
後編記事【「人として最低限のルールさえ…」なぜ『脳外科医 竹田くん』モデルは医師を続けられるのか? 吹田徳洲会病院の院長が語った「驚愕の言い分」】では、吹田徳洲会病院の院長、さらにA医師の採用にかかわったとされる「ある著名な医師」を直撃取材し、事件のさらなる深層に迫る。
「週刊現代」2024年5月11日号より
「人として最低限のルールさえ…」なぜ『脳外科医 竹田くん』モデルは医師を続けられるのか? 吹田徳洲会病院の院長が語った「驚愕の言い分」