遅刻は許されないのに、残業が許されるのはおかしい――。そんな不平不満を訴える投稿が、しばしばSNSで注目を集める。同じ理屈で、会議の延長に疑問を抱く声も。
日本企業の風潮として、開始時間には厳しいのに、終了時間には甘い文化があるのはなぜか。
「残業続きなら遅刻も許してほしい」。取材にこう話すのは、東京都に住む女性Aさん。遅い時間まで残業が続いて寝不足だったが、翌日も遅刻せずに仕事しなくてはならなかったときに疑問を感じた。単純な遅刻に弁解する気はないが、残業が続くなら遅刻も仕方ないのではないかと考える。
神奈川県在住の女性Bさんは、会議続きで次の会議に遅れてしまったときに厳しい叱責を受けるという。しかし会議の時間は伸びるため、不快感を抱いていると話す。残業続きなのに翌朝出社しなければならないのも「しんどい」と、心中を明かした。
SNSでも同様の意見がしばしばみられる。こうした風潮について、企業向けのマナー研修などを実施するトークナビ代表取締役の樋田かおり氏は、取材にこう説明する。
樋田氏によれば、「遅刻」は、ルールを破る行為だと見なされる。同僚のスケジュールや業務に影響を与えて調和を乱していると判断されるからだ。
だが「残業」は、集団に対する献身や努力の象徴と評価される。チームやプロジェクトといった集団の仕事のために個人が犠牲を払う行為として、肯定的に捉えられる。
近年は働き方改革が進んでいるが、管理職世代は集団重視の考えが根強く、残業は怒られない風潮が続いているという。
樋田氏の考えはこうだ。「残業も遅刻も会議の延長もなしで、決められた時間内で成果を出すことが望ましい」。残業や時間延長が減ることで、ワークライフバランスの向上と遅刻の減少が見込めると指摘する。
そのためには、緊急時を除いては残業が発生しないようにする。従業員が時間内に業務を遂行できる割り振りを、上長が日ごろから行う。また、会議の時間が伸びないように、事前に必要な情報収集や検討を行い、決められた時間内に意思決定を下すことが求められる。
一方、遅刻が許されることも望ましくないと樋田氏。遅刻で、組織全体のスケジュールやプロジェクトの進行が不安定になる可能性がある。また、公平性を重んじるメンバーが異議を唱えるなど、チームワークに支障をきたす恐れもあると話した。