深夜の太平洋で何があったのか――。
海上自衛隊の哨戒ヘリコプター「SH60K」2機が墜落した事故は、潜水艦を探知する高度な戦術訓練中に衝突したとの見方が強まっている。機体の主要部は水深5500メートルの海底に沈んでいるとみられる。事故から1週間となった27日、現場には深海を探査できる海自の海洋観測艦が到着し、捜索を始めた。
「月が雲に隠れていたら、水平線すら見えない。空も海も真っ黒で、区別できない」。海自の航空機部隊で夜間飛行を経験した隊員は「本当に怖い」と口をそろえる。
2機は20日深夜、伊豆諸島(東京都)・鳥島の約280キロ東方で墜落した。訓練は、護衛艦隊司令官が部隊の練度を評価する「査閲」の一環で、艦艇8隻、ヘリ6機が連携して敵役の海自潜水艦を追っていた。
査閲は、部隊が実際の任務を遂行できる能力があるか検証するもので、高度な戦術判断や複雑な部隊運用の力が求められる。敵から攻撃を受ける事態を想定し、どう対処するかという点も評価される。
2機に分乗した8人は、暗闇の中で、安全確認と潜水艦の追尾に神経をすり減らしていたとみられる。
複数の隊員によると、夜間訓練は昼間と比べて危険が増す。
窓の外の暗闇に目を慣らすため、機内にともすのは赤色灯のわずかな明かりだけだ。方位や高度、速度、機体の姿勢を示す計器類を頼りに、少しの変化も逃すまいと闇夜に目をこらす。
最も神経を使う瞬間は、水中音波探知機(ソナー)をつり下げて海中に沈める時だという。ホバリングしながら高度を約20メートルまで下げる。夜間は海面までの距離を目で確認できず、計器の数字を信じるしかない。
潜水艦も移動するため、判断が遅れると、捜索範囲はどんどん広がる。「広大な海で一度逃すと、再び見つけられる確率は一気に下がる」。機内は常に緊張感に包まれているという。
事故では1人の死亡が確認され、7人の行方がわからなくなっている。海自は現場に海洋観測艦「しょうなん」など艦艇約10隻を派遣して捜索を続けている。同艦は海底5500メートルの捜索も可能だが、深くなるほど観測の精度は落ちるため、難航も予想される。
防衛省内では人的な要因で墜落したとの見方が出ている。回収した2機のフライトデータレコーダー(FDR)の初期分析では、機体の異常を示すデータが確認されなかったからだ。海自関係者によると、事故当時の気象条件にも問題はなかった。
海自トップの酒井良・海上幕僚長は23日の記者会見で「実際に活動していた戦術状況、与えられたミッション、(ヘリが)誰の指揮下で動いていたかなど様々なものが複雑に絡み合っている」と述べ、事故調査委員会で客観的に検証されるとの見通しを示した。
海自は事故を受けて、同型機の訓練飛行を全て停止している。潜水艦は魚雷や対艦ミサイルを備え、有事の際に日本の海上交通路(シーレーン)を脅かす存在で、近年は中国の潜水艦の動きが活発化している。海自幹部は「原因の究明を急ぐしかない」と語る。