睡眠時間が足りていない子どもが半数以上――。
東京大と理化学研究所の大規模調査で、子どもの睡眠が不足している実態が明らかになった。塾や習い事による多忙化や夜間のスマートフォン利用などが背景にあるとみられる。特に成長期の睡眠不足は心身の発達に悪影響を与え、生活リズムの乱れから不登校につながるケースもある。学校現場では、昼寝によるリフレッシュ効果を狙った取り組みが広がっている。(江原桂都)
■東大などが大規模調査
埼玉県内に住む中学3年の男子生徒(15)は、2年の秋から夜更かしするようになった。きっかけは、手に入れたばかりのスマホだった。
午後10時の就寝時間を過ぎても、ついついスマホに手が伸び、眠気は訪れない。「早く寝ないと」と焦る気持ちを紛らわせようとゲームをしてしまう。明け方になってようやく眠りにつく。生活が昼夜逆転し、3学期から不登校になった。
3年の春に小児睡眠障害外来を受診。体内時計と24時間サイクルが合わなくなる「概日リズム睡眠障害」と診断され、2週間入院した。朝6時に起き、専用の機器が放つ強い光を浴びる。朝ご飯を食べ、スマホの利用やゲームを制限し、消灯時間を守る生活を送った。
現在は夜に7時間眠れるようになり、今年に入ってから通学を再開した。男子生徒は「眠れず、学校に行けず、ストレスや倦怠(けんたい)感が増して気力がなくなった。自分の力だけでは生活を立て直せなかった」と振り返る。
■小児睡眠外来の患者増
東京大と理化学研究所の研究チームは2022年9月から小中高生計約5万人を対象に、子どもの睡眠の実態を解明する大規模調査を実施している。研究チームは今月18日、中間結果を発表した。
研究チームによると、今年1月までに約7700人の子どもの睡眠状況を専用の機器を使って調べたところ、平均睡眠時間は小学6年生7・90時間、中学3年生7・09時間、高校3年生6・45時間で、全体の半数以上が厚生労働省が推奨する睡眠時間を満たしていなかった。
研究チームの南陽一・東京大特任准教授は「子ども本人だけでなく、保護者にも問題の重要性を認識してもらいたい」と話す。調査は25年度まで継続して行い、結果を公表する予定だ。
「十分な睡眠の確保は全国民の重要な課題」として、厚労省は今年2月、健康づくりを目的とした「睡眠ガイド」を9年ぶりに改訂した。年代ごとに推奨する睡眠時間を紹介し、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間と示した。子どもの睡眠不足のリスクとして、肥満や抑うつ傾向、学業成績の低下などを挙げた。
東京都立多摩北部医療センター(東村山市)の小児睡眠外来では、患者数が近年増加傾向にある。22年度は年間155人だったが、23年度は2月末までで207人に上っている。
小保内俊雅・小児科部長によると、睡眠障害の子どもには〈1〉塾や部活、習い事でスケジュールが過密〈2〉スマホやパソコンなど電子機器の使用が多い――といった傾向がみられるという。
効果的な治療法は、早起きや朝食の摂取、日光浴だといい、小保内さんは「就寝時間や睡眠時間にこだわるよりも、まずは起きる時間を一定にすることが大切だ」とアドバイスする。
■10分間の「シエスタ」タイム
「準備が出来た人からシエスタ(昼寝)を始めてください」
2月中旬、岐阜県大垣市立北中学校で校内放送が流れると、生徒が全員机に顔を伏せて10分間目を閉じた。
同校では2017年から、塾や習い事などで睡眠時間が短い生徒に配慮し、昼食後に短時間の仮眠を導入。効率良く睡眠を取り、午後からの授業の集中力を高めることが狙いだ。3年生の永田悠月さん(15)は「受験勉強や部活で睡眠時間が減った。10分でも眠れると午後からの授業にも集中できる」と話す。福岡県や熊本県内の高校でも10分間の昼寝が取り入れられているという。
愛知県では昨年11月、「睡眠教育サポートブック」を作成し、県内の全小中学校に配布した。睡眠を記録する1週間のチェックシートやスマホなどの使用状況を尋ねるアンケート例などが盛り込まれている。
日本睡眠学会理事長で久留米大学長の内村直尚さんは「学校で居眠りが続く子どもがいれば家庭と情報共有するなど、子どもの睡眠が足りているかを把握してほしい」と呼びかけている。