能登半島地震の発災から2ヵ月以上が経過した今。
多くの家は今も倒壊したまま発災当時と変わらぬ光景が広がっているというが、その上空を「被災者を元気づける1つの方法」(木原稔防衛大臣)という理由で航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」が飛行することが計画されている。
その一方で、自主避難所への物資配送を石川県輪島市が2月末で打ち切ることが2月下旬、各メディアで報じられた。政府が、石川県がいったい何をしたいのかを今、多くの被災者に、日本中の一般市民に向けて納得できる形で説明できる人はもはや日本中に1人もいないのではないかと思う惨状が続いている。
そんな中、X(旧Twitter)で話題になったのが、以下の投稿だ。
「今日は能登で卓出しやりました。こころはあったまたのは嬉しい ハッピーケバブとして明日は能登市役所の前でボランティアやります。(本文ママ)」
これは2月24日に埼玉県のケバブ専門店「ハッピーケバブ」のトルコ出身オーナー・タシ ティフィキさんがつぶやいたもの。
この投稿には4000超のいいねと、「素晴らしいです」「感謝します」「ありがとうございます」「頭が下がります」といった感謝のコメントが多数ついていた。しかも、ティフィキさんは1月初旬にも能登に炊き出しに行っており、2度目のボランティアでの能登訪問である。
いち早く被災地に足を運び、ボランティアに励んでいた国会議員を、何もしない国会議員や一般市民がXでたたくことや、被災者が「食べ物が足りない」「人手が足りない」と被災地から発信しても「行くな」と何もしない権力者たちが叫ぶことが、今の震災時対応の“常識”と化している。
なぜ外国人のティフィキさんらケバブ専門店が炊き出しに能登まで行ったのか。
ティフィキさんに取材依頼をしたところ、「わざわざ話すようなことじゃない」「記事を書いてもらうようなことはしていない」と断られたが、その思いを聞かせてほしいとお願いし、電話取材に応じていただいた。
「能登に行った理由は別にないですよ。地震はどこにでもあることで、どこでも誰でも困ったときには助け合うのが当たり前ですよね。
うちの国でも昨年地震があったとき、助けてもらいました。
自分にできることがあればするというのは、人間にとって一番大事なことだと思いますから。別に書いてもらうようなことじゃないんですよ」
1月初旬に行ったときの状況を改めて聞くと……。
「最初は道路もすごく危なかった。だから不安もあったけど、困ってる人はいるから。
どんな良い国でも、お金を持っていても、順番順番で(支援が)まわってくるから、すぐにつながることは難しいですよね。
いろんな国から食べものも来るだろうけど、冬だし、寒いし、凍っている物やカップラーメンばかりじゃ辛いと思い、できたてのあったかいものを困った人たちに食べてもらおうということで、みんな(従業員)で『行くしかない』となりました」
1度目はハッピーケバブの従業員たちと4人で、2度目はクルド協会と「アラスケバブ」と一緒に7~8人で能登まで炊き出しに行ったという。
炊き出しは、現地で焼いて熱々で提供する鶏肉をメインに、レンズ豆のスープ、バターやオリーブオイルで炒めたトルコのライス、ザクロやチェリーの小さなサイズのジュースなどだったという。
「レストランでいつも出しているメニューですが、普段よりもっとおいしくなるよう気を遣って作りました。
『わざわざ川口から来てくれてありがとう』と言ってくれる人もいたし、何も言わなくともみんなスマイルをくれるから、喜んでくれているのがわかって、こっちも心がすごく温かくなりました」
しかし、実際に被災地に行ってみて、人手も食べ物も全然足りていない状況を目の当たりにしたことで、2月に再び炊き出しに行くことを決意した。
「僕たちが行ったときは、小さなスーパーが(午後)3時までしかやっていないとか、コンビニも(午後)7時までしかやっていないとかで、棚もスカスカな感じでした。
歩けないおばあちゃんとかもいるし、みんな本当に困っている、苦しんでいるのがよくわかりました」
被災地では多くの人が温かい炊き出しを喜んでくれていたにもかかわらず、ティフィキさんのXには誹謗中傷のコメントも寄せられた。
「『行くな』という声もありましたが、実際に困っている人たちがたくさんいるのに、なぜそんなことを言うのかと思いました。
文句を言うよりも他にできることがあると思うんですよ。
税金払ってるのかとかいうコメントまでありましたが、僕にも家族がいるんだし、税金が心配なら税務署に行けば良いでしょう。だんだんムカついてきましたよ」
それでも「良い人も悪い人もどこにでもいるから」とティフィキさんは折れず諦めず、2回目の炊き出しに行った。
「お金のことなんて本当は言いたくないですが、2回の炊き出しで何百万円も持って行きましたよ。でも、お金は良いんです。お金は人間が健康であれば、いつでも入ってくるものだから。
寝るときに自分には家もある、家族もいる、食べ物もある、それが急にみんななくなったらと考えたら、すごく怖くなりました。
日本人はこの国がどれだけ良い国か、自分たちがどれだけいろんなことをできるのか、わかっていないと思います。
僕たちがやったことなんて、誰でもできることで、1つの点にしか見えないと思う。でも、文句を言うんじゃなく、周りの人もやってみれば、この国はすぐに治るよ。
それに、こんな記事を書いてくれるより、実際に(被災地に)行ってスマイルあげたほうが、スマイル返してもらえますよ。いろいろ文句を言う人はいるけど、僕は諦めないで続けていきます。だって、僕は良いことをやっているんだから」
耳が痛いが、まさしくその通りだ。
自分自身は1月初旬にたまたま金沢に行った際、金沢の観光業の人たちが困っていると聞き、できるだけ現地でお金を使い、金沢の様子をSNSで拡散し、能登の商品を買い、少額ながら寄付もした。
それで非当事者としての後ろめたさが、少しばかり軽減した気もしていた。
しかし、寄付やボランティアで大切なのは、継続して行うことだ。なぜなら2ヵ月経った今も、被災地の暮らしは全く立て直せておらず、今も苦しみが続いているからだ。
取材・文:田幸和歌子