運営法人の会長のパワハラで、今年3月末に保育士が“一斉退職”するという大阪府内の認定こども園。「残る」か「転園」か…預けている子どもの対応をめぐり、保護者は選択を迫られています。

堺市西区に住む畑大介さん(44)は4人家族で、長男の新之介くん(9)は小学3年、4歳の次男・虎之介くん(4)は近くの認定こども園に通っています。畑さん夫婦は共働き。家族の1か月の予定を共有し、どちらが虎之介くんの送り迎えを担当するかなど、1日の予定を細かく管理しています。

(妻・敦子さん)「朝にもうほぼ8割は夕飯の準備。あとご飯炊いて、おみそ汁のみそをといてぐらいまではやっている状態ですね。なので私は朝は余裕が全然ない」

午前7時45分。この日の送りは敦子さんが担当。
(虎之介くん)「行ってきます」 (敦子さん)「じゃあ、お迎えお願いね」 (大介さん)「はい」
家から歩いて3分ほどの子ども園に虎之介くんを送り届けます。
(敦子さん)「誰と遊ぶん?」 (虎之介くん)「わからん」 (敦子さん)「またブロックで遊ぶんやろ?なに作るん?」 (虎之介くん)「それは秘密」

しかし、3月11日、こうした生活が一変する知らせが届きます。

(大介さん)「お迎えに行ったときに『保護者説明会開催についてのお知らせ』といういうものをいただきまして」

そこに書かれていたのは、『多数の保育士が本年3月末で退職予定』『4月以降の新入園児の受け入れをお断りし、在園児の継続受け入れも大幅に制限しなくてはならない事態となっています』という文言でした。

(大介さん)「全然納得してないですね。3月4月というのは本当に忙しいので、ちょっとこれは…この時期は本当にタイミングとしては最悪」
保育士が“一斉に退職”するという異例の事態はなぜ起こったのか。

虎之介くんが通う『あいあい浜寺中央こども園』は 翌日から2日間にわたり、保護者説明会を開催。その場で次のように説明しました。

(理事長※説明会の音声)「原因はですね、当法人の設立者である現会長からのパワハラ的な言動等が根底にあると考えております」
運営する社会福祉法人の会長による保育士への度重なる「パワハラ」が原因だったのです。3月末で、12人いる保育士のうち10人が退職するといいます。一体どんなパワハラだったのか、保護者説明会で保育士はこう話しました。
(保育士※説明会の音声)「会長先生のパワハラ、暴言。われわれのことを『コマ』とおっしゃるんです。『コマがない』『コマが揃わないから仕方がない』。われわれはコマではありません、感情を持った人です、保育士です」
ほかにも会長は『お前は黙っとけ』『辞めるんやったら辞めたらええ』などという言葉もかけていたほか、人手不足を訴えても一向に改善しなかったといいます。

説明会に出席した保護者は…
「正直すごくびっくりしてて。普段から先生たちはすごく良くしてくれてて、今後もずっと通わせたいなと思っていたんですが」 「転園を考えているんですけど、自転車で通えるところとかいろいろ考えたら、ここともう1つの園ぐらいしかなくて、ちょっと今、かなり困ってる状況です」
パワハラをしていた会長は解任。会長の息子である理事長は今の状況をどう考えているのか。話を聞くと…「お答えできません。ホームページに公表しています」と、詳しい話は聞けませんでした。

3月19日の夜、畑さんの家では何やら話し合いが行われていました。
(大介さん)「今までのお友達がほとんど残るって言うんやったら、うちもそりゃ残りたいけど、『ほとんど出ます』やったらもうそんなん…」 (敦子さん)「感覚、感触的にはもう出ますよね、みんな。出ますっていうので動いてるのかなって」
転園手続きの締め切りが迫る中、虎之介くんを園に残すのか、転園させるのかを話し合っていたのです。
(大介さん)「新しい先生、新しい友達、新しい環境っていうことに、『慣らし保育』なしでぶっつけで行くっていうことに関してはすごく不安ですね」

約2時間、悩みに悩んだ末、「転園」手続きを進めることを決めました。
(大介さん)「(Q申請を終えていかがですか?)どうなるのかなっていう不安しかないですね。希望というよりは、不安が大きいか小さいかという話です」

堺市によりますと、転園希望者は143人中105人もいるということで、なかには転園がかなわず、今の園に残る人も出てくるといいます。
(堺市・幼保推進課 小須田教一課長)「とりあえず希望を確認して、その方々が4月以降困らないような形で、転所されるのであればそういうところをどうフォローしていくのかっていうようなところもわれわれとしては考えていかなあかん」

3月27日、畑さんのもとを訪ねると、市から通知が届いていました。果たして結果は…
(大介さん)「第一希望の園に入れることになったということですね。一応転園にはなるんですけど、家から比較的近い園に転園することができました」
そして、虎之介くんにはじめて、4月からのことを伝えます。

(大介さん)「4月からな、『あいあいこども園』じゃなくてな、新しい幼稚園に行くことになったんやんか。『あいあい』ではなくなるんやんか」 (虎之介くん)「いやだ。『あいあい』のままがいい」 (大介さん)「あのな、『あいあい』のお友達もな、ほかの園に行っちゃうんだって」 (虎之介くん)「いやだーいやだ」

転園の希望がかなったものの、嫌がる虎之介くんを見ると複雑な気持ちになります。

それでもなんとか虎之介くんを連れ出し、転園手続きに向かいます。 そして、約1時間後…
(大介さん)「副園長先生がすごくお優しそうな方で、保育士の方たちも皆優しく接していただいて、子どももたくさん木があるところとか、植物、お花が咲いてたりというところはすごく気に入っているような様子でした」 (敦子さん)「さっき告げたときよりかは納得して今行こうとしてくれるのかなって感じですね」
大人の都合で、突如ばらばらになってしまう子どもたち。4月から新たな環境に馴染めるのか。保護者の不安はまだ続きます。