〈「よく覚えておけ。これほど効率のいい手法はないぞ」なんて見事な“スライディング土下座”…デキる電通マンほど「土下座」しまくる理由〉から続く
「金を払ってるクライアント企業(広告主)が最強でしょう」と思ったら大間違い……。ここでは元電通マンの筆者が「電通のコネ入社のリアル」を解説。
【写真を見る】電通にコネ入社した「ふざけた顔の男」
同社の営業畑で約30年、身を粉にして働いた福永耕太郎氏による初の著書『電通マンぼろぼろ日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。なお、登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/前編を読む)
どうすれば電通に「コネ入社」できるのか――。写真はイメージ getty
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コネ入社のトライアングルは、電通、クライアント企業、マスコミの3者の三角形で成り立っている。このうち、一番強いコネは何か?
「そりゃ、金を払ってるクライアント企業(広告主)が最強でしょう」と答える人が多いだろう。じつはこの筋はそれほど強くない。お金の流れが、クライアント企業から広告代理店への一方通行のうえ、広告担当部署の人員の異動も多い。役員でも部長でも所詮サラリーマン。いつまでもその地位にとどまっているという保証はない。
大手飲料メーカー・C社を担当していたときのことだ。
C社のマーケティング部長・古屋氏が、長男を電通に入れたいと、営業局に申し入れをしてきた。古屋氏は流暢な英語を駆使し、スマートかつスタイリッシュな仕事を旨とするエリートサラリーマンだ。仕事ぶりと同様、その依頼もスマーかつスタイリッシュに秘密裏に行なわれた。営業局はその意向を人事局に伝えて、段取りをつけた。
しかし、古屋氏の長男は、電通からの内定をもらえなかった。古屋氏はエリート然としたふだんの態度をかなぐり捨てて、電通の営業局の部長に怒鳴り込んだ。
営業部長がトコロテン式に営業局長に伝え、営業局長が人事局に確認に行ったところ、じつは担当常務が申請書をあげ忘れていたことが判明した。
営業局長は、古屋氏に平謝りし、彼の長男を電通の関連会社にねじ込み、さらにお詫びのしるしに翌年、彼の次男を電通へ入社させることで決着と相成った。
だが、話は一件落着で終わらない。翌年、無事コネ入社した古屋氏の次男は、入社して1年もしないうちに退職してしまった。なんのためのコネ入社だったのかと営業局長は嘆いたが、原因は、次男坊の配属先にあった。
次男が配属されたのは、新聞局地方部だった。
新聞局地方部というのは、地方紙の生殺与奪権を握っていて、2011年以前までは独占的に歴代の社長を輩出していた名門部署である。その代わり、地獄のようなしごきで社員を鍛え上げる伝統で知られる「泣く子も黙る」部署でもあった。次男坊の配属は、営業局のゴリ押しに対する、人事局による無言の抵抗だったのであろう。
C社担当の私は、当の次男坊君を知っており、電通入社後の彼と何度か昼食をともにしたことがある。彼はこう愚痴った。
「福永さん、売れないものを毎日売るってたいへんな作業ですよ」
「売れないもの」とは地方紙の広告枠を指す。地方新聞の広告枠には当時でもそれほどの需要がない。
「地方部の社内営業力は絶大だって聞くぜ」
「ハハハ、皮肉ですか」
次男坊は力なく笑った。
広告枠が埋められない新聞局地方部の若手社員が行なうのが「拝み倒し作戦」だ。直接、社長に通じている新聞局地方部を、各局の営業部長は無下にできない。
この関係性を利用して広告を取る。つまり、広告枠をクライアントに売るのではなく、社内の営業局などに買ってもらう。だから、新聞局地方部の若手社員は毎日、電通社内の営業部を駆けずりまわる。「クライアントじゃなくて社内で広告を取る」などと揶揄されながら。
「そういう目で見られながら、忙しそうにしている営業の方々のそばで、広告もらえるまで何時間も頭を下げ続けているんですよ。僕はもう耐えられそうもないんです」
苦労することもなくコネで入社した次男坊は、そういった毎日に耐えられず、1年もたずに退社したのだ。それと時を同じくして、C社のマーケティング部長・古屋氏は別部署に異動になった。こうなれば、もう蚊帳の外。電通にクレームをつけることもできない。クライアント筋が最強のコネなら、こんなことは起こらない。では、最強のコネはなんだろうか。
マスコミである。広告代理店とマスコミ各社は、お互いに取引する広告を介した依存関係にある。株式の持ち合いも含め、その関係性はもたれあいといっていい。

近年では、クライアントの宣伝部長クラスでは子息を電通にコネ入社させるのは難しくなった。それにくらべて、マスコミ関係のコネ入社はまだまだゆるい。私が思うに、それはもはや金銭的なつながりを超えて、「いびつな絆」としか表現できないものである。実際に、電通社内には、地方新聞や地方テレビ局の役員の子息がひしめき合っているし、マスメディア側にも電通幹部の子息が多く入社していく。
電通とマスコミ各社は互いに相手の有力者の子息を囲うことで結束を高める。まるで戦国時代の政略結婚のようでもある
(福永 耕太郎/Webオリジナル(外部転載))