〈「カメラが捉えたのは、キスをしながら試合を観戦する2人の日本人」サッカーW杯中継で“ヨーロッパ不倫旅行”がバレた「エリート電通マン&派遣社員」の末路〉から続く
「ねえねえ、君たち、僕と一緒に来ない? これから行くホテルの部屋に女の子たちを呼んであるんだよ~ん」
【写真多数】「ヨーロッパの娼婦」のような女性たち(写真多数)
今から30年前――電通の内定者パーティーに参加した筆者だが、ほかの内定者に誘われて、ホテルのスイートルームに行くことに。彼がソコで見た「衝撃的な光景」とは……? 同社の営業畑で約30年、身を粉にして働いた福永耕太郎氏による初の著書『電通マンぼろぼろ日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。なお、登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/前編を読む)
電通に内定した当時の筆者が見た「衝撃の光景」とは――。写真はイメージ getty
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10月1日、内定式が行なわれた。式は某ホテルで挙行され、参加した内定者たちはそのまま宴会場の内定者パーティーへと流れた。電通から内定をもらった学生たちは、私を筆頭にみなある種の高揚感の中にあった。同期入社の学生たちは丸いテーブルを囲んで座り、初めて顔を合わせるわれわれはまずは簡単な自己紹介を始めた。
「清宮と申します。東大の経済学部出身です」
「鴨志田です。アタシはお茶の水女子大学で、学生時代はイベントコンパニオンをやってました」
「下柳と言います。僕は慶応です」
その場の雰囲気に気押された私は、出身大学を言うことさえ憚られた。
だが、同年代の学生たちは数分もするうちに、だんだんと打ち解け始めた。
「アタシ、本当はアナウンサーになりたかったんだけど、キー局はみんな落ちちゃって。それで仕方なく電通に来ました」
「僕は幼稚舎からずっと慶応だけど、慶応なんて行くもんじゃないよ」
テーブルは和気あいあいとした雰囲気に盛りあがった。
「でも、俺さ、本当になんのコネもなかったんだぜ。それでも内定もらったんだ」
私がそう言うと、一瞬にして、その場の雰囲気が凍りついた。
そのテーブル席についていた学生たちの、私以外のほとんどが何かしらのコネを持って内定を得ていたと知ったのは、入社してからだった。
コンピュータメーカー会長の甥っ子、有名百貨店の広告担当役員の息子、新聞社の役員の息子、テレビ局の有名プロデューサーの息子、大手出版社の有名雑誌編集長の息子、衆議院議員の息子……じつに多彩なコネだった。
「ねえねえ、君たち、僕と一緒に来ない? これから行くホテルの部屋に女の子たちを呼んであるんだよ~ん」
内定者パーティーが終わったタイミングで、長身の本関君がその場にいた数名の内定者に声をかけた。酔っぱらってふざけた口調だった。
彼は大手電機メーカー・N社のドンの息子で、そのことは私を含めその場にいる全員が認識していた。彼もまた“強力なコネ”で電通に入社したに違いない。
本関君が指定したのは都内の高級ホテルのスイートルームだった。内定者同士で顔を見合わせ、うなずき合った。20代前半の好奇心は抑えることができず、われわれは本関君のあとにしたがい、そのままホテルのスイートルームに向かった。
部屋に入り30分ほどすると、ドアがノックされた。酔って興味半分で待っていた私たちの前に姿を現したのは、濃い化粧をして、派手なボディコンシャスのミニのワンピースに身を包んだ3人の女性だった。本関君が手慣れた様子で彼女たちをエスコートし、笑顔で部屋に迎え入れた。きつい香水の匂いがした。
「すまん、ちょっと用事を思い出した。悪いけど、俺はもう帰る」
そう言って、部屋を出て、逃げるように帰宅した。本関君は女性たちとの会話に夢中で、私が部屋を出たことにも気づかなかったかもしれない。
じつは私はそのときまだ童貞だった。このあと部屋で何が展開されるかはわからなかったが、万一にもこのような場で自分の操を喪うことが怖かった。女性たちは、映画で見た「ヨーロッパの娼婦」のような佇まいだったのだ。

残ったほかの内定者たちと彼女らが、その後どうなったのか、私は聞かずじまいになった。これが電通なのか。私は、大人の世界に一歩足を踏み入れた気がした。
(福永 耕太郎/Webオリジナル(外部転載))