2024年3月7日、警察庁はSNSを通じて投資を勧める「SNS型投資詐欺」と、恋愛感情を利用し金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害状況を初めて発表したと朝日新聞が報じた。その記事によると、2023年の被害件数は合わせて3846件、被害額は455億2000万円。振り込め詐欺など特殊詐欺の被害額(約441億2000万円)を上回っていたという。
露木康浩長官は7日の定例記者会見で「1日当たりに換算すると、毎日1億2000万円以上の金銭がだまし取られている極めて憂慮すべき状況。新たな警戒の空白とならないように各種対策を強力に進めたい」と語っていた。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「コロナ禍以降、交際相手にお金をせびる詐欺的な恋愛が増えました。“おかしい”と思ったところで調査依頼に来る人が増えています。それは圧倒的に女性が多いです」と語る。彼女は浮気調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の代表だ。
山村さんに依頼がくる相談の多くは「時代」を反映している。同じような悩みを抱える方々への問題解決のヒントも多くあるはずだ。個人が特定されないように配慮をしながら、家族の問題を浮き上がらせる連載「探偵が見た家族の肖像」、105回の山村さんのところに相談に来たのは、40歳の美桜さん。「彼と結婚するために離婚までしたのに」と語る彼女に一体何があったのだろうか……。
山村佳子
私立探偵、夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。
リッツ横浜探偵社:https://ritztantei.com/
今回の依頼者は美桜さん(40歳・IT関連会社勤務)です。彼女は私の友人から「本当のことを調べてもらいなさい」と言われ、一緒にカウンセリングルームに来ました。いかにもキャリア女性といった雰囲気で、黒のパンツスーツを着こなしていました。偏差値68の名門大学の理工学部を卒業してから、ゼネコンに入社。25歳の時に上司だった夫(50歳)と結婚してから転職し、今の会社へ。管理職として活躍しているとのこと。
私の友人は「美桜は恋愛に免疫がないんです。だから、コロナの時に国際ロマンス詐欺に引っかかって、100万円も詐欺られて、去年はホストにハマって、旦那さんと別れて結婚しちゃったんですよ」と美桜さんのバックグラウンドを紹介。
ホストクラブも社会問題になっています。「売掛金」(ツケ)を回収する目的で女性客に売春を強要したり、借金をさせるという報道をよく聞きます。3月8日には、新宿歌舞伎町のホストが、女性客のマイナンバーカードなどを取り上げ、売春を強要した疑いで逮捕されたことも報道されました。
美桜さんは「私が好きになったのは、歌舞伎町ではなく、地元の繁華街のホストです」と小さな声で言います。美桜さん自身のこれまでの恋愛について伺いました。
「恋愛は全然ダメです。私、ずっと勉強ばかりしてきたんです。恋愛に憧れはあり、少女マンガをめっちゃ読んでいたのですが、親に“けがらわしい”と破り捨てられたから、こんなことになっちゃったんでしょうか」
人を愛することは幸福なことです。それをタブー視したり、不純なものであるように扱うことは暴力ではないかと時々考えます。
「親は、勉強やスポーツに一生懸命なら、恋愛をする暇がないというんです。まったくその通りだと思っていました。周りの人も、恋愛とかにうつつを抜かし、色気づいてダメになる人が多い。今これ、ホストと結婚して、バカを見ている私の置かれている状態です」
今の夫と結婚するために、美桜さんは1年前に約15年連れ添った夫と離婚したことを告白。
「かつての夫は10歳年上の上司です。私、社会人としてはダメダメで、ポカミスも多いしコミュニケーション能力もない。色々とやらかして部署のお荷物みたいになっていたときに、当時の上司だった夫が助けてくれたんです。それから恋愛関係になり、25歳のときに結婚。一応、夫婦でしたが夜の生活は15年の結婚生活で2~3回。元夫は周囲が結婚しろとうるさいから、私を利用したみたいなんですよ」
最初は良かったのですが、コロナ禍のときに連日、死についての報道がされており、死を強く意識。どうせ死ぬなら誰かに思いきり愛されたいと、マッチングアプリを始めます。
「そこで出会ったのが米国パイロットのジェイク。あなたの可愛い顔に一目惚れした。結婚して欲しいと言われたんです。“愛している、すぐに日本に会いに行きたいけれどコロナの出入国制限がある、僕はパイロットだから特別なルートで日本に行ける”と言われて、20万円ずつ5回、海外に送金してしまったんです」
国際ロマンス詐欺です。これはSNSやマッチングアプリで出会った海外の相手を、恋人や結婚相手になったかのように振る舞い、言葉巧みに金銭を送金させる特殊詐欺の一種。この被害も連日のように報道されています。
「騙されたと知って、悲しくて夫のところに行ったら、“ウザいよ”と遠のけられました。その時に心が壊れて、大学の同級生やマッチングアプリで知り合った人とゆきずりの恋をするようになったんです」
そこで美桜さんが感じたのは、残酷な現実。容姿や体型に対するあからさまな侮辱を受けたそうです。
「“ババアのくせに乙女なんだね”とか“一生懸命すぎてキモい”と言われたり。一番辛かったのは、“僕、美桜さんみたいな人、タイプなんです”と言う20代の男の子とホテルに行ったとき。シャワーを浴びている間に財布から3万円を抜かれ、“ちょっとおばさんは無理なんです”と拒否されたこと。10人くらいの男性と会いましたが、どの人もワンナイトで終わりました」
夫は、美桜さんの様子を全く気付かず、趣味の戦闘機研究に夢中だったとか。そんなあるとき、地元のホストクラブに入ります。
「ホストってアイドルみたいに綺麗な男の子しかいないと思っていたら、普通の男の人もいて安心しました。私に付いてくれたのが、今の夫です。“美人ですね”とか“優しくて知的な人のことを僕は求めていた”と言ってくれたんです」
恋愛関係になったのは、彼の誕生日の夜。美桜さんは10万円のシャンパンを開けます。
「地元のホストクラブでしたけど、彼にも100万円くらい使っていましたからね。それで店に通い、アフターでホテルにいくうちにプロポーズされたんです。彼は私の体を初めて満足させてくれ、何度も愛してくれた。そこで夫と離婚し、結婚することにしたんです」
夫はあっさり離婚を受け入れたそうですが、世間体を重んじるために、お互いの実家には伏せておくことに。
「彼の家に行ったら、“マジで離婚したの”と驚いていましたが、私を優しく抱きしめてくれました。あれほど愛に満たされた夜はありません。婚姻届をもらってきていたので、早速提出しようと思ったら、“俺、ちょっと色々あって、入籍できない。半年待って”と言うから、一緒に住みながら待つことに。新居は私が契約しました」
一緒に暮らして分かったことは、彼のお金へのだらしなさ。かつてのマンションは家賃を2ヵ月滞納しており、退去時に12万円立て替えたそうです。
「さらに、かつて結婚しており、前の妻との間に3人の子供がいることもわかりました。その養育費があるからお金がないと。昼間は介護関係の施設で働いており、夜はホストをしていることもわかったのです」
生活費と家賃の全額を美桜さんが負担。これは「私に子供がいないから、3人子供がいる彼は少子化に貢献しているので、助けたいと思ったんです」という理由から。
「彼はホストといっても、そんなに稼いでいるわけではないので、“やめてほしい”と言ったんです。すると“店長が俺の親友だから”とか“俺なりに客もいるから”などと交わされてしまうんです」
そして、彼はお金がないと悲しい顔をする。彼の喜ぶ顔が見たくて、美桜さんは彼の財布を夜中に見て、お金がないとそこに足していたそうです。
「彼が欲しいというジュエリーや服も買い、同棲して1年で500万円くらい使っています。そのことを彼女(友人)に相談すると、“おかしいから!”とここに連れてこられたのです」
現在の婚姻状況を聞くと、同棲して1年経つのに入籍はしていない。美桜さんは元夫と離婚したまま、再婚できずにいるそうです。
「不安定な事実婚関係ではなく、きちんと入籍して結婚したいんです。それに、最近は家に帰ってこないことが増えました。彼……いや、“夫”の性格を考えると、このままお金も返してもらえないままフェードアウトされる気がしなくもありません。何というか、夫には逃げ癖があるような気がするんです。それに私は夫のバックグラウンドを何も知らない。どこの介護施設に勤務しているのかなど、本人の口からしか聞いたことがないんです」
そこで、美桜さんの事実上の夫は、何者なのか。また浮気はしていないのかを探るために、調査に入ることにしました。
◇結婚しようといいながら入籍をせず、お金を使い込む……どう考えてもそれはロマンス詐欺にしか見えないが、当事者はなかなか現実を見ることができない。それは「ふたりの時」の「愛してる」を信じたいからではあるだろう。友人の協力で、山村さんのところに相談にきた美桜さん。果たして現実を見ることができるだろうか。
調査結果の詳細は後編「結婚15年の夫と離婚、地元のホストと再婚のはずが…40歳管理職女性が知ったむごい現実」にてお伝えする。
結婚15年の夫と離婚、地元のホストと再婚のはずが…40歳管理職女性が知ったむごい現実