【現地ルポ 列島インバウンドバブル】#4
ラーメンが世界的人気でも店の倒産は大幅増…しかもインバウンドの行列はありがた迷惑?
沖縄・那覇
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今月中旬、中華圏の旧正月「春節」の折。東アジア屈指の観光地、沖縄県那覇市には、大型連休を利用した大勢のインバウンド客が押し寄せた。さながら“リトルチャイナ”の様相だ。
沖縄観光コンベンションビューローによると、10日からの春節期間中、沖縄への直行便を運航している台湾、韓国、香港、中国の各航空会社15社の予約が先月末時点で3万1000席に上った。コロナ禍前比では約6割にとどまるものの、緩やかに回復しているという。
中華圏のインバウンド客に人気のスポットは、那覇市運営の「第一牧志公設市場」。春節期間の平日、メインストリートの国際通りに近い市場に記者が突撃した。
地上3階建ての施設の1階には鮮魚や精肉、野菜類の販売店が密集。客は各店舗を回り、買った食材を2階の飲食店で調理してもらい、食事を楽しむのが定番だ。
鮮魚店が集まるエリアに足を運ぶと、観光客が中国語で「大きいカニをちょうだい」「この赤い魚はおいしいの?」と品定めしていた。一体、何を買っているのか。
「親戚8人で旅行に来ました」と言う香港人女性は、マグロとウニ、イクラ、体長約40センチのアカマチという鯛の仲間、巨大なサザエのような「夜光貝」を購入。計3万円だそうだ。「高いと感じますか?」と聞くと、「いやいや、全然。香港の半分くらいの値段だから、安いもんです。没問題(問題ない)ね」と気にもしない様子。さらに、旅行全体の予算額を尋ねると“ドヤ顔”でこう話した。
「予算ですって? そんなものないですよ。使いたい放題ですから。沖縄は食べ物以外も安いので全く気にしていません」
予算が青天井とは驚愕だ。6人連れの台湾人観光客は、小ぶりな二枚貝やサーモン、マグロ、カニ計約2万円分をお買い上げ。「台湾では新鮮な魚介はなかなか食べられない。値段もお手頃だよね」と余裕の笑みである。
昼時を過ぎても客足は絶えず、店側はホクホクのようだ。城間鮮魚店の男性店主はこう言う。
「昨年3月の市場のリニューアルに合わせ、鮮魚の販売を始めたのですが、集客はコロナ禍の時期に比べ10倍増。客単価は3万円程度で、この調子だと売り上げは右肩上がりですかね」
インバウンド客に人気のメニューは何か。店先に色鮮やかな魚やエビを陳列している西銘鮮魚店の女性店主によると、アカマチに加え、ハタの仲間のアカミーバイ、ベラ科のマクブという魚と、夜光貝がよく売れるそうだ。1つ2000~5000円だという。
アカマチの半身を刺し身に、もう半身を煮付けにしてもらうとどちらもサッパリした味わい。夜光貝は半分を刺し身、残りはバター焼きに。コリコリとした食感がウマい。香ばしいバター焼きはビールが進む。
値段は調理代込みで5000円ナリ。懐寂しい記者に“爆買い”はとても無理。インバウンド客に「安いニッポン」を痛感させられっぱなしだった。=おわり
(取材・文=小幡元太/日刊ゲンダイ)