〈「風俗の仕事に抵抗はなかった」海外売春で年収4000万円稼いだ“ホス狂い風俗嬢”(28)が、出稼ぎを決意した経緯〉から続く
不況が長引くなかで、「海外のほうが稼げる」と海を渡る人が相次いでいる。それは、性風俗業界も例外ではない。しかし性風俗業の海外出稼ぎは、不法就労・国外退去などのリスクを伴う。それなのになぜ、海外で“風俗嬢”として働く日本人が増えているのだろうか?
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ここでは、“出稼ぎ日本人風俗嬢”の実態に迫ったフリーランス記者・松岡かすみ氏の著書『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新書)より一部を抜粋。海外出稼ぎで年収4千万円を稼ぐホスト狂い・キョウコさん(28歳、仮名)の実体験を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
写真はイメージ AFLO
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これまで10カ国以上に飛び、経験した店舗は15店舗ほど。期間は1回につき2週間~約50日が多いが、合わないと数日で帰ることもある。
「ここでは稼ぎが伸びないと思ったら、国や店を変えます。同じ国で、1週間とかで店を変えることもありますね。基本的に、店では女の子がどんどん入れ替わるので、“ニューガール”でいられる10日間ぐらいは同じ店にいて、その後は別の国か店に移ることが多いです」
稼ぐ額は、オーストラリアを例に挙げると、少なくて700豪ドル(約6万7千円)、
高くて3500豪ドル(約33万3千円)で、1日平均2千豪ドル(約19万円)程度。働くのは中国人がオーナーの店ということもあり、客の大半が中国人だという。「最近は海外でも摘発が入ることが増えて、稼ぎ自体は以前より落ちてます。それでも、もう日本で働こうとは思ってません。海外のほうが、自分がやりたくないことに対してノーと言えるし、女の子に優しいから。日本で働いている時は、いくらお金のためでもやりたくないことが多かった。海外で働くほうが、自分のニーズと収入とのバランスがいいと思っています」
「稼ぎたい」というのが出稼ぎに行き始めた最大の理由だが、振り返れば「日本人を接客したくない」というのも理由の1つだったらしい。
「今、日本の風俗店では、イチャイチャする恋人プレイを売りにするところが多いけど、私はそれが嫌で嫌で。日本では“自分のテクニックを試しに来た”みたいな、面倒な客も多かったですね。海外では圧倒的に中国人の客が多いですが、日本に比べると、恋人プレイとか求めてくる客があまりいないし、ただ性処理に来ているって感じでベタベタしない。だから全然やりやすいんです。私もそうですが、海外に飛んだら、もう日本の風俗で働けないっていう子は結構多いと思います」
出稼ぎ中、接客で怖い目に遭った経験は今のところない。親の教育方針で小学校の頃から英会話教室に通い、大学は英文科だったというキョウコさんは、もともと英語も話せるため、海外で会話に困ることもそこまでない。ただ、どこの国に行っても客は中国人が多いことから、今は中国語も話せるように勉強しているという。
出稼ぎ中は、「お金以外で潤うことはあまりない」としながらも、海外の生活を楽しむ余裕もある。観光も楽しむが、特にカジノに行って遊ぶのが好きだという。現地で知り合った子と友達になることもあれば、その友達と一緒に他の国に出稼ぎに行くこともある。
「日本でできない経験ができるというのも、海外出稼ぎの魅力だと思います」

いろいろな国を転々とするなかで、最近、日本人女性の出稼ぎがぐっと増えたと感じている。例えば1年前にキョウコさんが働いたオーストラリアの店では、当時は日本人が4~5人だったのが、最近は13人など倍以上に増えているらしい。
「“海外出稼ぎが儲かる”というツイートが、エージェントやスカウトからたくさん出回っているから、それを見て出稼ぎに行く女の子が増えてるんだと思います。エージェントは今、大して可愛くない子でも、どんどん(海外に)飛ばしてますよ。そのうち日本人の女の子が溢れかえって稼げなくなるのが目に見えていて、本当に迷惑だし困る。すでに“日本人ブランド”が崩れてきているし、いろんな意味で質が落ちてきていると思います」
キョウコさんが“日本人ブランド”と表現する背景には、こんな光景がある。海外の店で、店の女性たちが客の前にずらっと並んで品定めされる、“ショータイム”と呼ばれる時間。女性たちとひと時を共にする金額は、容姿にも左右されるものの、女性の国籍によって大きく異なってくることを目の当たりにした。
「アジア系だと、日本が上位で、その次に韓国、中国。最安値がインドネシアとかベトナム。整形しているかどうかも金額に関わってきますが、それ以上に国籍が物を言うんだと知りました。海外の客から見ると、日本人はサービスが良いとか、AVみたいなプレイができるみたいな幻想もあって、人気が高いみたいです。でも最近は、日本人でも質の低い女の子が増えてきて、ちょっと変わってきてるんです」
キョウコさんの言う“質の低い女の子”とは、自分を“安売り”してしまったり、客から支払われた報酬を店に渡す前に持ち逃げしたりする女性たちのことだ。本来はオプションとして別料金をもらうはずのサービスを、格安でOKにしたり、なかには無料で良しとしたりする女性が出てきているらしい。これが続くと、たちまち日本人女性の料金の相場が崩れ、安売りせざるを得ない流れになってもおかしくないと、キョウコさんは懸念している。
出稼ぎに行く女性が増えるなか、客から支払われた報酬を持ち逃げする例も増えているという。店で働く場合、客から支払われた金額は全てが女性の取り分になるわけではなく、店にもお金を渡さなくてはならない。それをわかっていながら全額を持ち逃げする女性が、日本人でも増えていると話す。
「つい先日も、お金を持ち逃げした日本人の女の子の写真が出回っていました。こういう例が続くと、日本人ブランドが崩れてしまうし、頑張っても稼ぎにくくなる。考えなしにそういう行動をしてしまう、頭の悪い子の渡航が増えているのが困るんです」
1年のほとんどを海外で過ごし、日本で過ごす期間は3カ月ほどという、出稼ぎが中心の現在の生活。だがこの生活は、半年以内で辞めるつもりだと口にする。お金をつぎ込んできたホストが、「半年以内にホストクラブを辞める」と話しているためだ。
「だから私もホスト狂いを卒業しようかなと。まあ、彼はホストを辞めるって言ってるけど、そんな簡単に辞められるわけないとも思ってる」
実は、日本では、そのホストと一緒に暮らしているらしい。「好き同士だけど、彼氏彼女じゃないし、男女の関係じゃない」と話す口ぶりには、言葉では説明しづらい複雑な感情や関係性があるようだ。キョウコさんが海外に出稼ぎに行くことについて、ホストは心配もしていたという。あえてその関係性を問うと、“共依存”という言葉が返ってきた。
「私は“これだけお金をつぎ込んできたんだから”という気持ちがあるし、向こうは“これだけ自分にお金をつぎ込んだ女なんだから”という気持ちがある。私も向こう(彼)に依存してるし、向こう(彼)もお金を使う私に依存してる。だから、恋愛関係とかじゃなくても、ちょっとやそっとじゃ離れられない感じになっちゃってる」
キョウコさんは、「悪徳エージェントやスカウトに騙される女性が減ってほしい」「考えなしに出稼ぎに行く女性が増えることで、(出稼ぎマーケットにおける)日本人女性の質を落としたくない」という理由で、海外出稼ぎ中に取材に応じてくれた。
「これは書けない話ですが、理解を深めていただくためにお話しすることは可能です」と線引きをしながらも、自分が体験したことについて言葉を紡いでくれた。自身も出稼ぎマーケットにおける当事者の1人でありながら、広い視点でマーケットの動きを捉えている印象だ。
「経験もしてないのに決めつけるのは嫌」という姿勢は、出稼ぎに限らず、これまで自身が徹底してきたことなのだろう。自分が実際に経験したことから分析し、自分なりのルールを設けて実践し、反省点を次回に生かす。いわばPDCAサイクルが機能しているようにも見えた。
淡々と落ち着いて話す口ぶりは、到底“ホスト狂い”とは結びつかない印象だが、そこには複雑に絡み合ったものがありそうだ。
(松岡 かすみ/Webオリジナル(外部転載))