近年、大学入試の方式の中で「総合型選抜入試」を選んで、受験する人の数が増えている。以前はAO入試と呼ばれていたこの方式では、ペーパーテストの点数ではなく、受験生の人物像を多面的に評価してもらえるというメリットがある。
しかし単純に点数で合否が決まるわけではないため対策が難しく、総合型選抜の専門塾に通ったとしても、成果を見極めにくい。場合によっては、数百万円もの費用を使ったにもかかわらず、大きな後悔に繋がることもある。
筆者は「Studyコーデ」という大学受験専門のオンライン個別指導塾を経営しつつ、同時に講師も務めており、一般入試に加えて総合型選抜の指導もしている。前編記事『18歳女子高生が大後悔…大学の「一般入試」を回避して起きた「残念すぎる悲劇」』に引き続き、そこに浪人生として訪れた山下美鈴さん(仮名、当時18歳)と、その母・貴子さん(仮名、47歳)の現役時代のエピソードを紹介しよう。
高3へと学年が上がる頃、美鈴さんはなかなか目標が見つからない中、塾側からの要請もあり、半ば無理やり志望校を決めることになった。
総合型選抜では、受験する大学に応じて準備する内容も大きく変わる。試験にプレゼンがあればその練習が求められるし、小論文があればそれに向けたトレーニングが必要になるからだ。早めに受験校を確定させなければ、対策が間に合わなくなるリスクがある。
高3になった美鈴さんが受ける塾の授業でも、志望理由書などの書類作成と小論文の練習が本格化していった。加えて、出願条件になっていた英検を取得するためのコースを履修し、英語の勉強もしなければならなかった。
「受験が近づくにつれて、あれこれじっくり考えている時間はなくなっていって、日々があっという間に過ぎました。途上国の貧困問題を大学で取り組みたいテーマとして設定し、自分なりに調査などはやっていたのですが、やっぱり本気で向き合えないというか、それに興味があると自分に思いこませているような感覚があって……。
正直、安易に総合型選抜を選んだことを後悔しました。でも、もう一般入試の対策はしていなかったので、総合型でやり切るしかありませんでした」(美鈴さん)
結果、美鈴さんは併願で出願した最もレベルの低い大学にしか合格できなかった。恐らく一般入試の対策をしていれば、難なく合格できたレベルの大学である。実際、追い込まれてダメもとで挑戦した一般入試でも、その大学と同レベルの大学から合格をもらうことができた。
美鈴さんは高3の受験生活に後悔を覚え、合格を蹴って浪人することを決めた。母の貴子さんはこう語る。
「あまり総合型選抜の実態を知らないまま、なんとなく可能性を感じて安易に始めてしまったことが、ダメだったんだと思います。
塾代は、1年間と少し通って150万円に届かないくらいでした。当初は2桁で収まると思っていたのですが甘かったです。基本の授業料に加えて追加講座や季節講習なども合わせると、想定をはるかに超えました……。高い勉強代と納得するしかありません。高1から通っているお子さんは、一体いくらぐらいかかるんでしょうね」
貴子さんによれば、「後悔している部分もある」という。
「娘にとってお友達とディスカッションしたり、テーマをもって探究したりするなどの経験を積んだことは、決して悪くなかったと思いますけど、もっとレベルの高い大学に合格するためには、志や覚悟が足りなかったのかもしれません。
もしくは娘の場合、もう少し早くから始めていたら好きなことが見つかったのかもしれませんが、それもタラレバの話ですよね……」
美鈴さんのような動機で総合型選抜を選ぶ受験生は、決して少なくない。もちろん運よく合格できる子もいるため、一概に良し悪しは言えないが、安易に飛びつくと痛い目をみる可能性は高い。
では、どのような点に注意すればよいのか。
1. 一般入試からの「逃げ」で総合型を選ばない
「勉強が苦手、あるいは嫌だから総合型にする」という高校生は多いが、それではますます苦労する可能性が高い。
総合型では高度な論理的思考力や言語力に加え、探究を進める熱量やレジリエンスも必要だが、それがあれば本質的には一般入試でも高いパフォーマンスを発揮できるはずだ。一般入試を乗り越える能力も熱量もない受験生が、それを回避するために総合型を選んでも、行先は見えている。
ただし、高校生活の大半を何らかの活動に費やし、一般入試のための勉強をする時間がない、といった事情がある受験生はこの限りではない。
2. 指導者を選ぶ基準は「プロ」「コミュニケーション頻度」を優先
試験内容が高度であること、受験生の研究テーマに助言できることなどが求められる以上、指導者にも相当なスキルと見識がなければ、うまく受験生を導くことはできない。大学生講師よりもプロ講師が適していることは自明である。
また、面接や小論文などは反復練習、細かい修正、適宜の理解を促す指導が必要であり、指導者とのコミュニケーションが少ない環境ではそれが難しい。そのような点を考慮して指導者や塾を選ぶことを勧める。なかなか見つからなかった美鈴さんの目標についても、プロと高頻度に会話をしていれば、多少なりとも見出せるものがあったはずである。
3. 一般入試の対策と両立させる
総合型選抜の試験は高3の12月までに終わり、そこから一般入試が始まるまでには少し時間の猶予がある。その期間の頑張りで成績を伸ばすことは可能であり、総合型では不合格だった志望校に一般入試で合格するケースもある。その分かれ道は、日々積み上げてきたものがあるかないかだ。
細々とでもいいので、総合型と一般の対策を同時並行で頑張っていた人は、最後に成績を伸ばしやすい傾向にある。しかし、総合型に特化した対策を積んでいた受験生が、直前の対策だけで一般入試を突破するのは、極めて難しいだろう。両立は簡単なことではないが、万一のときのために行動できる人は、最終的に良い結果を掴む可能性が高い。
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総合型選抜は、大学側も時間と労力をかけて受験生を選ぶ本気の試験である。そこに挑む受験生にもまた、時間と労力をかける覚悟が必要であり、何より自分事として将来的なテーマを探究する本質的な姿勢が求められる。
そのことを肝に銘じて、ふさわしい環境を整え、対策を開始してほしい。
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