これを生きにくさととるか、それとも生きやすさと取るかは、人それぞれだ――。
ASD(自閉スペクトラム症)にADHS(注意欠如・多動性障害)などなど、今、発達障害というものへの理解が世に浸透しつつある。
もっとも、この発達障害への理解が広まるにつれ、世間では、これを持つ人に向けて、ともすれば、「生きづらさを抱えている人」という見方を崩さない。
たしかに、人と人とのコミュニケーションがうまくいかない、過度のこだわり、収集癖……などなど、発達障害には「生きにくさ」が伴う。
だが、これはもしかすると発達障害を持たない、定型発達の人からみた視点も含まれているのではないか。
この障害ゆえの「生きにくさ」は、当の発達障害を持つ人にとっては、実は、「いきやすさ」として捉えていることもあるようだ。
「数年に一度あります。わたしのなかではデトックスと呼んでいます――」
こう語るのはアイコさん(43)だ。関西の中堅私大を卒業したが、時は超がつく就職氷河期。就職先に恵まれず、アルバイトと派遣社員をしながら20代を過ごし、28歳で結婚。ずっと専業主婦として過ごし、今日に至っている。子宝にも恵まれた。ひとりの女の子のママでもある。ごく普通に暮らす40代女性だ。
そのアイコさんは、数年前、「精神障害保健福祉手帳3級」を取得した。切っ掛けは夫からのひと言だ。
「まさかとは思うけれど、最近よく発達障害という言葉を聞く。君の行動と当てはまるところがあるから、念のため、検査してもらったら――」
自営業の夫は、自宅で仕事をしていることが多い。四六時中顔をつき合わせている。夫によると、「正直、妻の発達障害かもという疑いのある行動によって困ることはない」と言うが、たしかに話を聞けば、すこし発達障害について調べたことのある人なら、「もしかして……」と、その可能性を考える行動が多い。
たとえば、アイコさんが趣味のひとつである“コレクション”だ。結婚当初の頃は、マンホールの写真を撮影、これを収集。その後、「趣味の王様」と呼ばれる切手収集も行った。それから、偶然、参加の機会のあった自衛隊イベントに触発されて戦車のプラモデル。これが戦闘機へと変わり、やがてとあるキャラクターのぬいぐるみに。今現在は、趣味のバイオリンに因み、「身の回りにあるもので、どこかにバイオリンのイラスト、ロゴがあるもの」で固めるようにしている。
熱心に集めたかと思うと、ある日、突然、飽きる、もしくは嫌にやる。こうなるとそれまで集めたものすべて廃棄処分となる。
同じくファッションも、あるブランドが気に入ると、すべてをそれで揃えなければ気が済まない。結婚当初から今日までの15年間で、「5回の宗旨替え」を行ったという。肌着や下着の類を含めればこれだけでは済まない。もちろんアイコさんの言う、この宗旨替えとなれば、先でも触れたほかのコレクションと同じく、すべてゴミ箱へ直行だ。たとえ前日に購入した高額商品であっても例外ではないそうだ。
この収集癖と衝動性――、これこそが夫が、「もしかしたら妻は発達障害があるのでは?」と疑った所以である。
「たとえばキッチン用品にしても、すべて同じメーカーで揃えたい、何らかの事情でひとつでも欠けると、ちょっとイライラしている、機嫌が悪いなというところもあり……。とはいえ、そういうことって誰しもあるのかなとも思うのです。夫としては、気になれば気になるが、気にしなければ気にならない。そんな感じです」
こう話す夫をよそにアイコさんは、「わたしはまったく気にしたこともなければ、生きづらさなど抱えたことなど一切ない」と言う。
そうした夫の心配もあり、夫婦で発達障害についての検査を受けにいったのが今から3年前のことである。結果は夫は特に診断がつかず。いわゆる定型発達だった。アイコさんは、予想通りというか自閉スペクトラム症に注意欠如・多動障害、うつ病だった。
よく、こうして発達障害の診断が下りた人たちは、「ああ、やっぱりそうだったか」「これで生きづらさの原因がわかってホッとした」と話す人が多い。
だが、アイコさんは、そうした気持ちにはなることなかったという。診断を聞いた際、真っ先に頭に浮かんだのは、次の言葉だった。「えっ、そうなの!?――」。
「だって、わたし、別に何にも困ってもいないし、生きにくくもないの。毎日、すごく楽しいし――」
とはいえ診断がついたことで自身が納得いくところもあったそう。子どもの頃から今に至るまで、およそ「生きづらさ」などというものを感じたことがない。常にポジティブに物事を考えられる。
アイコさん本人が語る「発達障害の生きやすさ」については、続きとなる<「努力」ができない発達障害の「43歳専業主婦」が持っている「ヤバすぎる癖」>にて紹介する。
「努力」ができない発達障害の「43歳専業主婦」が持っている「ヤバすぎる癖」