※本稿は、茂木健一郎『一生お金に困らない脳の使い方』(リベラル社)の一部を再編集したものです。
貧乏脳を持っている人は「自分はなぜお金に縁がないのか」、あるいは「どうしたらお金持ちになれるのか」と考えてしまうようですが、貧乏脳を金持ち脳に転換しない限り、仮に運良く投資や宝くじで大金を手にしたとしても、すぐにまた貧乏に逆戻りしてしまいます。
しかし、金持ち脳を持っていれば、仮に事業に失敗したりして一時的に貧乏になってしまっても、すぐにお金持ちに戻ることができるのです。
つまり、一度でも金持ち脳を持ってしまえば、それは永久不滅にあなたの救世主となって、幸せな人生を送るための心強い武器になり得るということです。
それはなぜかといえば、お金持ちにはお金持ちならではの脳の使い方があるからです。それが「お金持ち思考法」というものです。
このお金持ち思考法とは、金持ち脳特有の「ビジネスで成功するための脳」であり、未来の自分のために勉強、行動することができる脳なのです。貧乏脳な人ほど、すぐに結果を求めて利益を得ようとしたり、目先のお金が欲しいと思いがちですが、大切なのは、目先の50万円をもらうよりも10年後に1億円稼げることに目を向けられているかどうかなのです。
そのためには今が大変でも、自分にしっかりと投資をして目標を明確にし、それに向かって走り続けることが重要です。今の苦しみからすぐに逃げ出す方法を考えるのではなく、「10年後をしっかりと見据えて、いかに自分の価値を高めていくことができるか」これが金持ち脳の思考法です。
ビジネスにおいてもそうですが、安定していて今すぐ儲かるような仕事ばかり追いかけていれば、その視野や思考がどんどんと狭くなり、将来のビジョンが見えなくなってきてしまいます。
そこで、金持ち脳をつくる最初のトレーニングとして、まずは10年後にどのような自分になっていたいか、どのくらいのお金を稼ぎたいかを考えてみてください。
このときに重要なポイントは、「できるか」「できないか」という基準で考えないようにすることです。「どのような10年後だったら自分は幸せか」、あるいは「いくら稼いでいれば自分としては成功か」ということをワクワクした気持ちで考えてみることです。
人間の脳というのは快感や幸せをもたらすことで行動を強化する性質があります。このメカニズムをうまく駆使することで、あなたは金持ち脳をつくる上で必要な行動を積極的に追求していけるようになります。
ですので、絶対にかなえられるということを前提で考えていきましょう。
お金持ちになる人の発想は、貧乏な人の発想とはまったく異なっているといえます。もちろん、お金持ちと貧乏な人の思考回路が同じであれば、すべての人がお金持ちになっているはずです。
つまり、みんなと違う発想やアイデアの源泉を持っているからこそ、それを成し遂げたときの報酬が多額になり、お金持ちになっているわけですが、他の人と違う発想を持つということは、リスクを取らなければならないこともまた事実です。
そこで、お金持ちの発想力を身につけるためには、いかに考え方を柔軟にできるかがカギとなってきます。
多くのビジネスパーソンは、何らかのかたちで会社などの組織に入って働くことになります。そして、ほとんどの人は数年で、社会人になりたての頃の野心的な意識を徐々に忘れ去ってしまい、従順なサラリーマンに変貌していってしまいます。
貧乏脳は、何よりも先に自己欲求を満たすことで満足してしまう脳です。
「自分はこれで満足だ」、あるいは「普通が一番」などといった発想でお金が欲しいと思っていても、これではいつまでたっても貧乏脳のままでお金持ちにはなれません。
それを打ち破るために必要な思考や発想を持てるか、行動に結びつけられるかということが、今後の自分の幸せを大きく左右するといっても過言ではありません。
ここで自分の殻を破る勇気を持てれば、理想の自分と現実にギャップがあることを認識することができます。
サラリーマン生活が徐々に心地よくなるという「麻酔」のような感覚に眠ってしまうのか、それとも、これまでの経験と価値観を持って、新たなチャレンジを考えることができるかが、お金持ちになるための最初のターニングポイントであるといえます。
それには出世レースに参加する、あるいは起業するなどが考えられますが、もちろんこのようなチャレンジにはリスクが伴います。
実はここでも金持ち脳と貧乏脳の違いが出るものです。
しっかりとビジネスの仕組みを理解し、世間的な評価や動向などを客観的に考えることができるのはもちろん、自分に降りかかってくるリスクをしっかりと回避しながら、どのような活動をしていけば収益が見込めるのかということについて、自分なりに答えが出せるという、金持ち脳を持った人がビジネスの世界で成功していくのです。
もちろん、ビジネスを始めても借金などをつくってしまう人がいますが、これは金持ち脳が鍛えられていないからなのです。
借金を返すことができなくなり、破産してしまう人生というのは、リスクを取りすぎてしまった人生の末路であり、これもまた貧乏脳の特徴の一つでしょう。
よく日本人は「もっとリスクを取らないといけない」とされます。もちろん際限なくリスクを取れということではなく、日本人は比較的他の国の人に比べると安全確実なことを求める人が多いので、それであればもうちょっとリスクを取るほうに行きましょうね、という意味です。
そして、そこに必要なのは確実性と不確実性のバランスをとることなのです。ビジネスにおいてもそうですが、例えば新商品の開発をしているときに、一発ホームラン狙いの勝負に出るか、それとも地道にヒットやバントを重ねていくかという選択肢があります。
ここで重要なポイントは、場外ホームランを打つ人は空振りもたくさんしているということです。そのような不確実性に対する選択は、私たちの日常でも常に起こっていることです。
例えば、会議で発言する人としない人というのも、実は見方を変えれば確実性と不確実性を考えたリスクテイクです。
発言するというのは評価されるケースもありますが、場合によっては「何馬鹿なことをいっているんだ」と思われてしまう可能性もあるわけです。ですので、リスクテイクできない人というのは、発言をあまりしない人が多いと感じます。
講演会で質問するということもリスクテイクであり、そういうところでリスクに対する感覚が鍛えられていくのです。
さらにいえば、営業マンの飛び込み営業も当然リスクテイクになります。また、確率論で考えると、試行数が増えないとデータが十分には取れないので、リスクが取りづらくなります。
ですから、1回しか投資をしたことがない投資家というのは、明らかに経験不足です。投資回数が100回とか1000回になっていくと、データが蓄積されていくので自分の中でリスクの取り方がわかってくるのです。
そういう意味においては、大やけどしない程度に借金も投資も考えていくというのは大事なことです。
このようなリスクテイクというのは、実は誰もが子どものときから学んでいるものです。例えばババ抜きやポーカー、大富豪やUNOなどのゲームです。このようなゲームをやる中で、自分の中の確実性と不確実性のバランスのとり方を学んでいくのです。
私の研究によると、リスクテイクのスケール感というのは、その人の経験によって大きく異なってきます。大きな決断を迫られることが多い経営者やリーダーなどは、特にこのスケール感が問われる立場にいるといえます。そして、まさに、ここがお金持ちと貧乏人の間にある、決定的な脳の使い方の違いのポイントとなるのです。
お金持ちになった人というのは、数多くの修羅場やリスクを経験しつつ、ピンチをチャンスに変えてきた人たちです。すなわち、リスクテイクに優れているということです。
その一方で、貧乏な人というのは、うまくリスクテイクができず、修羅場を潜り抜けられず借金をしてしまったり、投資に失敗してしまうことになってしまいます。
人生におけるチャンスというのは、万人に平等に与えられていると私は考えています。
それをものにできる人とできない人、お金持ちになれる人と貧乏な人の差とは、日々努力をし、そこから生まれる経験やスキルを積み重ね、最後の最後、それこそ99%まで成功に近づいたときに、最後の1%で脳の感情システムをフル回転させ、確実性と不確実性を計算しながらリスクテイクをしっかりと考えることができるかどうかというところにあるのだと思います。
———-茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。———-
(脳科学者 茂木 健一郎)