3組に1組が離婚していると言われている現代を反映してか、近年、婚姻カップルの4分の1が、男女とも、もしくはどちらかがが再婚である(厚労省統計2017年以降)。それに伴って増えているのが「ステップファミリー」と呼ばれる家族形態で、簡単に言えば連れ子がいる家庭のことである。
過去を乗り越え、我が子とともに新しい人生を歩もうとするからには、再婚の選択には相応の覚悟や決意があると推察されるが、それでも現実は甘くない。
「ステップファミリーは『生さぬ仲』とも言われ、血縁のない親子関係の構築がとても難しい。子供の年齢にもよりますが、他人行儀なままだと打ち解けられないし、だからといっていきなり親密になろうとしても歪みが生じます」
こう話すのは長年自治体で家庭支援の仕事に携わっている、子ども家庭支援課の女性職員だ。
「夫の連れ子や再婚後に生まれた『セメントベビー』と呼ばれる実子との関わり方についても、必要以上に気負ってしまうことが多いようです」
痛ましい事件も度々起きている。
埼玉県さいたま市で起きた『小4男児殺害事件』(20年9月)では、殺人容疑などで逮捕された継父が「『本当の父親じゃないのに』と言われ立腹した」と、動機を語ったとされる。また同県草加市では、夫の連れ子だった長男(当時4歳)の背中を突き飛ばし、意識不明の重体にしたとして継母が暴行と傷害の罪で逮捕された(17年9月)。これらは表面化したほんの一例に過ぎない。
また、お互いの家族や親族との付き合いが出てくることにも考慮が必要であろう。新しい生活の中で自身の連れ子を、再婚であるがゆえに起きる偏見の目や無遠慮な言葉から守ることは容易ではない。
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太田和香さん(仮名・38歳)は、「一度結婚しているだけに、結婚は当人だけの問題ではないことも重々わかっていたはずなのに…」と後悔を口にした。
彼女は8年前に前夫と死別し、息子の光くん(仮名・当時4歳)を連れて今の夫・幸也さん(仮名・33歳)と再婚した。再婚後は夫の実家に入ることになったが、当初から義母の風当たりは強かったという。夫が初婚だったことや結婚のきっかけが和香さんの妊娠だったことが主な原因だ。
「姑は光のことを『どこの馬の骨だかわからないガキ』と罵倒し、『あの女は幸也と結婚したくてわざと妊娠したに違いない。幸也はハメられたんだ』みたいなことをご近所に吹聴して回っていました。お腹の子供についても疑いの目を向けていて、『生まれたらDNA鑑定をする』とまで言われていました」
そのため近隣の住民たちからも不審な目で見られていたというが、幸いにして和香さんと夫の幸也さんの仲は睦まじく、幸也さんと光くんの関係も良好。義父が和香さんと光くんの味方になってくれたのも「救いになった」という。
「舅は寡黙な人でしたが、姑が私に嫌味をいいだすと『いい加減にしなさい』とたしなめてくれましたし、光の遊び相手にもなってくれました。何より『ふたりめの孫が生まれるのを楽しみにしてるよ』と言ってくれたのが、すごくうれしかった」
そんな夫や義父に支えられながら、和香さんは無事に出産する。幸也さんによく似た女の子だった。
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「おかげさまで姑はDNA鑑定のことなんかきれいさっぱり忘れたように、『幸也の赤ん坊の頃にそっくり!』と大喜びでした」
赤ん坊は「幸奈(仮名)」と名付けられた。名前については家長が命名するのが地域の習わしだということで、舅が決めたという。
「廊下で産声を聞いた途端、涙が溢れてきた」と話す幸也さん。妹が生まれたと聞いてはしゃぎ回る光くん。そこに義父と義母が加わり、生まれたばかりの赤ん坊を、笑顔で家族が取り囲む――。
「夢みたいに幸せな景色でした」と和香さんは当時を振り返るが、その幸せな景色に暗雲が垂れ込んだのは数日後のことだった。
「退院日、私が幸奈を抱いて自宅に戻ると、近隣住民が集まっていて、この地域の風習だというお祝いのための宴会がはじまりました」
身体を休める間もなく、和香さんは宴会の席に着いた。義母は幸奈ちゃんを抱きかかえてお客の間を行ったり来たり。上座にすわる義父と夫は近隣住民から「おめでとう」という言葉とともに注がれる酒を飲み続けている。そんな中、光くんだけは、身の置き所を失くしてしまっていたという。
「光はひとりで黙々と料理を食べていました。誰も光に話しかけないし、見向きもしなかった。光自身も誰とも目を合わせようとしていませんでした」
和香さんは、まるで存在しないかのような扱いを受けている光くんにたまらずに駆け寄ったという。そして誰もそんなふたりを気にかけないまま、祝いの宴は残酷に進んで行った――。
引き続き「「ここはイヤだ。ママ、一緒に出て行こう」…再婚相手家族に殴り蹴られる大切な息子が、布団をかぶって嗚咽…その姿を見て母親が取った「覚悟の行動」」では、和香さん母子の決断と、専門家が指摘するステップファミリーの最大の課題をリポートする。