今、空き家が急速に増え続けている。核家族化と高齢化の行き着く先として、10年後の2033年には3軒に1軒が空き家になるという。
空き家はさまざまな弊害を生み出す。空き家問題に対応すべく、国は2023年6月14日に空家特措法の一部を改正する法律を公布し、同年12月13日に施行された。国は空き家問題に危機感を抱いているのだ。
実際に、実家が空き家となっている読者もいることだろう。生まれ育った実家だから、できればそのまま残したい。でも、何から手を付けていいのかわからず、結果的に放置してしまっている……そんな人も多いのではないだろうか。
そこで、実家をそのままの形で売買した例を見てみよう。売主と買主はどう出会い、どのように家を整理していったのだろうか。
『今すぐ、実家を売りなさい』の著者であり、空き家問題に長年取り組んでいる「空き家アドバイザー」の和田貴充氏に、実際のケースを紹介してもらいつつ話を聞いた。
――両親が亡くなった空き家といえば、築30年前後の古い家でしょう。それほど築年数がたっている家が、都合よく売れるものでしょうか? 都市部など、そもそも不動産価値が高いエリアに限ったことではありませんか?
和田貴充(以下、和田):いえ、都市部に限ったことではありません。今は、地方や築古(ちくふる)の物件にも追い風が吹いています。大きな可能性があるんですよ。
――そうなのですね。親が大事に住んでいた実家ですから。心残りのある売り方はしたくないですよね。売る人にとっても、買う人にとっても満足できる道があるのでしょうか。
和田:では、売買が成立したケースから「売主と買主のリアル」を見ていきましょう。これは2022年3月に売買が成立した、山口県Y市の家です。買主は仙台の方でした。現地は、駅から車に乗って山奥へ。まさに隠れ里です。山には温泉が湧き、澄み切った美しい川が流れるとってもすてきな場所でした。
実家である母屋は古き良き昭和の雰囲気で、ログハウス風の離れに山仕事のための作業場と軽トラック1台、さらに裏山が2カ所つくという豪華な物件でした。実家のご両親が亡くなり、ログハウスに住む娘の一家が売主でした。
外観は古民家感覚の趣(写真:和田貴充著『今すぐ、実家を売りなさい』より)
離れのアイランドキッチン(写真:和田貴充著『今すぐ、実家を売りなさい』より)
――売りに出した理由はなんだったのでしょう。
和田:理由は大きく三つありました。一つ目は、娘夫婦が亡くなったら、一人娘(孫)に家を残されても困るだろうということ。
二つ目は、息子(娘の夫)の実家の母親が一人住まいで認知症が進み始めたこと。三つ目は、娘夫婦の老後を考えたとき、山奥にずっと住み続けるのは不安だった、ということでした。一人娘(孫)が東京の大学に進んだこともあり、娘夫婦は都会に引っ越したのです。
――売りに出した方法は?
和田:まずY市の空き家バンクに登録して数カ月間様子を見たけれど反応がない。そこで、地元の不動産業者から民間の買い取り業者まで10社くらいに電話などで連絡をとったそうです。その中の一つが、私ども空き家活用株式会社でした。
――不動産業者の反応はいかがでしたか。
和田:地元の不動産業者のほとんどから、「買取対象外地域」と言われたそうです。「値段がつかないから」と言うんです。
――エリア的に売れないということですか。
和田:そうです。ここが重要なんですが、不動産業者は基本的にエリアビジネスで、買主をエリア外で探すことが得意ではないんです。遠方で「そこに住みたい」というお客さんは拾えない。その意識からすると、近くの住人で「あの空き家に住みたい」という人が現れる確率が非常に少ないので、「ムリです」という答えになるのでしょう。
――どのように買主を探したのですか。
和田:問題は情報発信の方法にあると思いました。エリアの中でしか公開されずに情報が広く発信されないと、結局その中で止まってしまう。
そこで、「ユーチューブに物件情報をアップして、広く情報発信してみませんか」とご提案しました。僕たちが運営する「ええやん! 空き家やんちゃんねる」で、動画で情報発信をするのです。
youtube「ええやん!空き家やんちゃんねる」
ドローンで母屋とログハウス風離れ、倉庫や山などを俯瞰で撮影したところ、インパクトのある映像ができました。その動画を、2021年の正月明けに公開したのです。
――反応はいかがでしたか。
和田:大反響でしたね。新潟を皮切りに全国から問い合わせがあり、海外からはアメリカ在住の日本人からもアクセスがありました。こんなに見てくれているんだ、と驚きました。問い合わせしてくれたうちの一人が、のちに買主になる方だったのです。
――買主はどこに興味を持たれたのでしょう。
和田:「ええやん!空き家やんちゃんねる」の動画を見ていたら、母屋があって離れがある。山もある。僕が「すごい! 面白い!」と感激する声が入っている。
これは面白そうだ、現地に見に行ってみよう、と思われたそうです。今、写真を公開している売家は結構あるのですが、写真だけだと感動が伝わらない。感動が動画では表現できるんです。
さっそく2月に買主が現地に来てくれました。そのとき、売主が「僕が案内しますよ」と、本人自ら内覧の説明をしてくれたのです。ここも大事なところで、普通は不動産の取引には不動産業者が入って、売主と買主は最後まで会わないことが多いのです。
購入は早い者勝ちで、「この人に売りたい」といった売主の思い入れなどを入れずにスムーズに取引をしていく、というのが、不動産業者の仕事だからです。
――和田さんは違う考えをお持ちなのですか。
和田:はい。僕たち空き家活用株式会社では、「誰に買ってもらうか」というのがとても重要だと思っていて、できるだけ売主と買主に会ってもらうようにしているのです。この場合も、売主には「こんな人に買ってもらいたい」というご希望がありました。
――どんな人に買ってもらいたかったのですか。
和田:現地は、今はお年寄りばかりですが、昔は商店街もすごく栄えていた。だから、普通のご家庭に買ってもらうよりは、地域を盛り上げてくれるような人に買ってもらいたい」というご希望だったのです。
――買主はどのような考えだったのでしょう。
和田:買主は仙台でイベント会社を経営されている方でした。現地を実際に見て、山と川がきれいだというのが印象に残ったそうです。売主の希望を聞いているうちに、「僕もここで何かやりたい」という思いが湧いてきた。
それまで培ってきたイベントのノウハウを活かして、地方で何かできないか、と考えるようになったのです。
「これから何ができるだろう」と、売主と買主が話をしていくというのが、僕たちが理想としているかたちです。これができたことで、この空き家の価値がすごく上がった。まさにベストマッチングでした。契約を交わすときは地元の不動産業者に入ってもらい、2021年3月に引渡されました。
――これからその家をどのように使う予定ですか。
和田:売主が「地元の人との交流を広げるのなら、協力します」とおっしゃってくださって、買主と一緒に近所の人たちと話したり、コミュニティに参加したりしているうちに、「宿泊もできて地域の方々のお役に立てるようなものを作りたい」と思われるようになったそうです。今はリフォームの最中です。工務店も売主さんの紹介なんですよ。
山があって、ホタルが見られて、きれいな川で川下りを楽しむ……。そんな人たちが泊まりに来てくれるところ。地元には徳地和紙というすてきな和紙があるので、その和紙を使って内装や照明、コースターなどの小道具をつくっていきたいと思っているそうです。
――すてきな計画ですね。
和田:地方に移住したものの、トラブルになって撤退するというケースは意外に多いのです。よそ者が来て何かを勝手に始めたら、だいたい摩擦を起こします。
でも、以前に住んでいた方が次に来た方を応援する、というバトンタッチがあれば、地域に溶け込みやすいですから揉め事にならないですよね。そうして、新しい人をいったん受け入れると、地域の方はすごく親身になってくれるんです。
――実家を実際に売ってから、売主さんはどうおっしゃっていますか。
和田:ご自分が思い描いていた通りに進んで、ワクワクしているそうです。住んでいた家がどんなふうに変わっていくのか、どんなふうに地域が活性化していくのか、とご満足いただいています。
――買主はその後どのようなご様子ですか。
和田:この家との出合いで、世界観が変わったそうですよ。「家を再生させるのって面白い」と感じていると聞きました。
家を放置していると、やがて朽ちて廃墟になってしまいます。廃墟になると、誰も寄り付かなくなってしまう。そうなる前に、売主の想いが詰まった実家を民間が引き継いで何か新しいものに生まれ変わらせることができれば、ご両親の想いも活かせます。
コロナ過を経て、働き方の変化や価値観の変容、サステナブルといわれる古いものを大切にする流れを受け、国の施策にも、地方再生というキーワードが目立ちます。「空き家は夢を叶える場所」です。僕は空き家をうまく活用して、生まれ変わらせたいと考えています。

さらに<不動産の新常識…! ここにきて「空き家」利用の「黄金時代」がやってくるかもしれない>でも、空き家になった実家の活用法について、実例をもとに解説しています。