何かがキッカケで、いつも接している人の信頼度や距離感が変化したという経験はないだろうか。今回は、そのような体験から「自分も気をつけようと思ったし、正しいストレス発散方法をみつけておくべき」だと話す、増原重徳さん(仮名・27歳)のケースを紹介する。◆休日の楽しいドライブデートが…
増原さんは忙しい仕事の合間を縫って、久しぶりに彼女とデートをしていた。いつもなら運転は増原さんが担当だが、寝不足が続いていたこともあり、彼女にお任せ。助手席を後ろへ全開に倒してくつろいでいた。
「彼女は法定速度やマナーを守って運転する人なので、安心して乗っていられる。心地よい揺れにウトウトしはじめたとき、『後ろの車にあおられてる…?』と彼女が不安そうな顔をしました。サイドミラーを見ると、彼女の言う通り、1台の軽自動車が煽ってきます」
車の通りが少ない1本道。幸いにもその1本道は、車が2台横に並べるぐらいの余裕があったため、ギリギリ端に止めてかわすことにしました。ところが、軽自動車はそれすらも邪魔して、いつ衝突してもおかしくないような運転を繰り返してくる、粘着質な車…。
「ナンバーを覚えて警察に通報しようと、後ろに倒していた助手席を戻した瞬間、軽自動車が真横に並んだのです。そして、驚きました。窓を全開に開け、ものすごい形相で暴言を吐き散らしてきたのは、なんと取引先のSさんだったのです」
◆あおりドライバーだったSさんの言い分
Sさんも起き上がってきたのが増原さんだとすぐに気づいたようで、表情は一瞬にして固まり、軽自動車はスーッとスピードを落として後ろに下がっていった。…と思った次の瞬間、ものすごい勢いで追い上げてきて、増原さんの車を抜き去ったとか。
「一瞬のことで気が動転していましたが、そのあと、まさかの再会を果たします。それは、少し走ったところにある道の駅でのことでした。休日で売店や飲食店が混雑していたため自動販売機でジュースを買って飲んでいたところ、なんとSさんがやってきたのです」
Sさんは増原さんに気づいていないフリをして、180度方向転換をしようとします。これには増原さんも、黙ってはいなかった。Sさんの元に走り寄り、「Sさん、危ないじゃないですか!相手がSさんじゃなかったら、警察に通報していましたよ!」と、肩をつかむ。
「そして、彼女には車に戻ってもらい、2人で話をすることにしました、するとSさんは、涙を浮かべて『ストレスが限界なんだ。いつもニコニコして人の機嫌をとって、家に帰れば嫁から給料が安いだの邪魔だのと罵られて…』と吐き捨てるように言ったのです」
◆いつもニコニコ顔だった取引先の40代社員
増原さんと取引先だったというSさんの関係はどうだったのか。
取引先の担当者から営業やプレゼンを受け、企画を採用するかどうかの裁量権を持っていた増原さん。「裁量権はあっても仕事は公正がモットー」と言うとおり、取引先からの変なゴマすりや接待で評価することはないが、そんななか、政治力ではなく企画力で仕事を取ろうとしてきたのがSさんだったという。
「いつもニコニコしていて低姿勢すぎるほどでしたが、媚びるような印象はなく、こちらが出した課題にも誠実に対応してくれる人でした」
あおり運転をするとは到底思えないSさんの人となりであるが、ニコニコ顔の裏に強いストレスがあったとは……。あおり運転後のSさんを見た増原さんは、Sさんが周囲の期待に応えるために相当無理をし、腹が立っても理不尽な場面でもニコニコしてやり過ごしてきたことを理解する。
◆Sさんへの評価はどう変わった?
「Sさんはいつの頃からか、車に乗ってスピードを出したり蛇行運転をしたりすると、気持ちがスッとするようになっていたそうです。僕はSさんに、しばらく会社を休むようにアドバイス。そうしないと、誰かを傷つけたり、通報されたりしかねないとも言い添えました」
Sさんはその後、半年ほど休職し、復帰後は自家用車を手放して自転車に乗るようになったとか。「あおり運転の犯人がSさんだったことにはビックリしましたし、やはり正直、Sさんへの信頼度は低下。残念ながら距離感も遠くなってしまいました」と、増原さん。
あおり運転は、誰かに嫌な思いをさせる行為であり、交通事故にも発展しかねない危険な行為である。また、自身が積み上げてきた信頼や地位も失いかねない。あおり運転でストレスを発散している人は、ぜひ早めに別の方法をみつけてみてほしい。