手の付けようがなかった不良が更生し、今では立派に活躍しているタレントの話が美談として紹介されることがあります。ただ、現実ではそううまくいかず、中高生時代に悪さをしていたときが全盛期で、実際に大人になると悲しい末路を辿っている場合も多くあります。中野慎吾さん(仮名・29歳)は、“元ヤン”の幼馴染Aさんが変化していく様子を間近で見てきたといいます。
◆先輩に誘われて暴走族に
実は中野さん自身も元ヤンで、現在は地元の茨城県で中古車販売や修理などを請け負う会社を細々と経営しています。
「自分の地元はいまでもヤンキーがいて、暴走族も少ないながら活動しているようなエリアです。自分は、実家が中古車販売などをしていることもあって早くからバイクに興味があり、先輩に誘われる形で暴走族に入りました。その時に一緒に活動していたのが幼馴染のAで、喧嘩っ早くて幹部までのし上がっていました。自分はそこまでのめり込んでいなかったのですが、Aは所属していたチームの勢力拡大を熱心に行っていたくらい気合が入っていました」
中学生時代はグレていた中野さんですが、実家の店を継ぐため工業高校に進学。徐々に暴走族とも距離を取り始め、Aさんとも疎遠になったそうです。
「Aは勉強ができなかったので、県内でも有数の偏差値が低い高校に進学。たまに駅前で会うくらいで関係性が薄くなりました。ただ話を聞くと、高校生になっても暴走族の活動を続けていて、ヘッドとして20人くらいのヤンキーを率いる存在に。自分は高校を卒業したらすぐに働くつもりだったので、トラブルの多そうなAとあまり連絡をしないようにしていました」
◆まるで別人のような姿に驚く
地元でも札付きのワルとして名を馳せていたAさん。しかし、意外にも次に中野さんが出会った時はガラリと雰囲気が変わっていたそうです。
「駅前のマックで偶然Aに話しかけられたのですが、その時は服装や髪型も変わっていて誰なのか分からなかったほど。どうも、大学進学のために猛勉強しているとかで、少しでも内申点をあげるためにきちんとした見た目を心がけていたそうです。もちろん暴走族も辞めて、ずっと金髪だったのに黒髪に戻し、見た目としては普通の高校生そのもの。そんなに人間って急に変われるものなんだと驚いたことを覚えています」
急変したAさんの心を動かしたのは、社会現象にもなったあのドラマだったそうです。
◆“聞いたこともない三流大学”に合格し…
「話を聞くと、反町隆史が主演を務めた『GTO』をDVDでたまたま観たらしく、ドはまりしてしまったようです。御存知の通り、落ちこぼれの元暴走族リーダーが教員として活躍する話。Aは鬼塚に惚れ込み、自分も教師になりたいと勉強を頑張っているとのこと。申し訳ないですが、何で今さら影響を受けているんだと笑いそうになったのですが、幼馴染が頑張ろうとしているのを邪魔してはいけないと、『お前なら絶対に良い教師になれる』と応援してあげました」
その後、Aさんは都内にある、“聞いたこともない三流大学”になんとか合格し、必死に教員免許の取得に励んでいたそうです。
「連絡先を交換していたので、上京してからも良く近況報告はしていました。荒くれ者のAとは思えないほどに大学に入ってからも猛勉強して、見事に教員免許も取れて大学も無事卒業。涙ながらに報告してくれる姿を見て、恥ずかしながら自分も感激して泣いてしまいましたね。就職先は、たまたま教員募集をしていた埼玉の私立高校になるというので、通勤のために必要な車を格安でお祝いとして贈ってあげたほどです」
◆就職先は「素行の悪い生徒ばかり」で…

「どうも、素行の悪い生徒ばかりの私立高に就職したようで、教員が頻繁に辞めることで有名だったそうです。Aのように有名大学の出身でもない先生は、そういった学校くらいしか就職先がないとか。はじめはAも、『リアルにGTOみたいだ』と喜んでいたのですが、最近では連絡しても覇気がなく、かなりヘコタレているみたいです。なかには、SNSに暴力教師だと動画や写真をあげられ、退職した先生もいるようです。当然、鬼塚のような体当たり指導は当然できるはずもなく、いまは不良生徒に右往左往するだけの生活を送っているそうです」
中野さんは、いつまで耐えられるのか心配が尽きないと話します。
「本性は凶暴ですし、いつブチ切れてしまうか心配です。暴走族時代には、半殺しにされた喧嘩相手をいっぱい見てきましたからね。自分には愚痴を聞いてやるくらいしか出来ないですが、『生徒をボコボコにするのだけはやめろよ』と話しています」
かつては不良として教師を困らせていたワケなので、むしろ問題児側の心境は手に取るようにわかるような気もします。ドラマの世界から一歩飛び出し、自分なりのアプローチを見つけた時にこそ、本当の意味で“グレートティーチャー”になったといえるのではないでしょうか。
<TEXT/高橋マナブ>
―[ヤンキーのその後]―