筆者は都内の有名医学部を卒業後、並居る都心の有名病院を全てスルーし、郊外の無名病院で初期研修をしていた。これはなにも就活に大失敗したという話ではなく、この動きをする学生というのは一定数いる。「ハイポ」と呼ばれる志向の学生たちだ。対義語は「ハイパー」。
高い志かステータスか、目的は様々だが激務を厭わずバリバリ働き、残業も当直も積極的にこなすのが「ハイパー」だ。一方、仕事よりも優先するものがあったり、心身の強さに自信がなかったりといわゆる「ホワイトに働きたい」学生が「ハイポ」に流れやすい。
「新米医師のくせになんという態度なんだ」と憤るなかれ、これまですさまじい量の勉強・実習・試験を乗り越えてきた医師の人生の中でも、最も辛い試練と言っても過言ではないのが初期研修なのだ。「初期研修医の3割が鬱になる」という話はもはや常識で、どんな病院でどう戦うかというのは、皆それぞれに必死で考えた生存戦略なのである。
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さて、激務を避けられる数少ない「ハイポ病院」へアプローチしたい学生たちは、当然何か他の物を犠牲にすることを強いられる。薄給か、田舎か、高倍率か。そのどれも選べなかった私は「治安」を妥協してしまう。田舎ではなかったが、「関東 治安が悪い」で調べると必ず出て来るような地域だった。立地のせいで、お給料は破格だった。表通りにまで風俗店が立ち並び、道には酔っ払いかホームレスか分からない人がいつも寝ている。しょっちゅう聞こえる喧嘩の怒鳴り声は明らかに日本語ではない。付近を拠点とするタクシー運転手は見たことのないほど荒い運転をする。信じられない光景患者層は当たり前に最悪で、理不尽なクレームも日常。患者が暴れた時のために病院に武術の黒帯が常駐しているくらいだった。医師の方も、ここまで立地を妥協してでもハイポ病院に来るような人材なのだから、精鋭とは言い難い。加えてモンスター患者にウンザリしているから、患者全体への扱いもよくなく、裏で悪口三昧は当たり前。そんな吹き溜まりのような、どんよりとした場所だった。多くの医師が初期研修で躓くのは、こういった「今まで出会ったことのない人たち」と初めて接するからだろう。彼らの多くは裕福な家庭で育ち、中高一貫の名門私立に行き、教育熱心な親の尽力で受験を突破する。アルバイトをする学生はいるが、それを学費や生活費に使う者はほとんどいない。そうして大学を卒業するまで、接するのは同じ医学生や医師がほとんどだ。貧困も暴力も犯罪も「お伽噺」としてしか知らないまま、いきなり人の不幸の煮詰まったような場所に投げ込まれる。Photo by iStock(画像はイメージです) 私も例にもれず恵まれた環境で育ち、研修期間は衝撃的な光景の連続だった。その中でも最も忘れられないのは、ある14歳の少女のケースだ。彼女は夜間、激しい腹痛を訴えて救急外来へ運ばれて来た。当直の医師が問診をしようとしたが、痛みに耐えきれないと、すぐにトイレにこもってしまった。そして長い時間出て来なかったという。ようやく扉が開き、看護師が「大丈夫ですか?」と声をかけた瞬間、彼女は信じられない光景を見た。呆然と立ち尽くす少女の後ろで、血まみれの赤子が産声を上げていたのである。後編記事『「お腹が痛い」と「風俗街の病院」を訪れた14歳少女が受けていた、あまりにむごい性暴力と、その後に待ち受けていた「驚きの結末」』では、彼女のその後について紹介する。
さて、激務を避けられる数少ない「ハイポ病院」へアプローチしたい学生たちは、当然何か他の物を犠牲にすることを強いられる。薄給か、田舎か、高倍率か。そのどれも選べなかった私は「治安」を妥協してしまう。
田舎ではなかったが、「関東 治安が悪い」で調べると必ず出て来るような地域だった。立地のせいで、お給料は破格だった。
表通りにまで風俗店が立ち並び、道には酔っ払いかホームレスか分からない人がいつも寝ている。しょっちゅう聞こえる喧嘩の怒鳴り声は明らかに日本語ではない。付近を拠点とするタクシー運転手は見たことのないほど荒い運転をする。
患者層は当たり前に最悪で、理不尽なクレームも日常。患者が暴れた時のために病院に武術の黒帯が常駐しているくらいだった。医師の方も、ここまで立地を妥協してでもハイポ病院に来るような人材なのだから、精鋭とは言い難い。加えてモンスター患者にウンザリしているから、患者全体への扱いもよくなく、裏で悪口三昧は当たり前。そんな吹き溜まりのような、どんよりとした場所だった。
多くの医師が初期研修で躓くのは、こういった「今まで出会ったことのない人たち」と初めて接するからだろう。彼らの多くは裕福な家庭で育ち、中高一貫の名門私立に行き、教育熱心な親の尽力で受験を突破する。アルバイトをする学生はいるが、それを学費や生活費に使う者はほとんどいない。
そうして大学を卒業するまで、接するのは同じ医学生や医師がほとんどだ。貧困も暴力も犯罪も「お伽噺」としてしか知らないまま、いきなり人の不幸の煮詰まったような場所に投げ込まれる。
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私も例にもれず恵まれた環境で育ち、研修期間は衝撃的な光景の連続だった。その中でも最も忘れられないのは、ある14歳の少女のケースだ。彼女は夜間、激しい腹痛を訴えて救急外来へ運ばれて来た。当直の医師が問診をしようとしたが、痛みに耐えきれないと、すぐにトイレにこもってしまった。そして長い時間出て来なかったという。ようやく扉が開き、看護師が「大丈夫ですか?」と声をかけた瞬間、彼女は信じられない光景を見た。呆然と立ち尽くす少女の後ろで、血まみれの赤子が産声を上げていたのである。後編記事『「お腹が痛い」と「風俗街の病院」を訪れた14歳少女が受けていた、あまりにむごい性暴力と、その後に待ち受けていた「驚きの結末」』では、彼女のその後について紹介する。
私も例にもれず恵まれた環境で育ち、研修期間は衝撃的な光景の連続だった。その中でも最も忘れられないのは、ある14歳の少女のケースだ。
彼女は夜間、激しい腹痛を訴えて救急外来へ運ばれて来た。当直の医師が問診をしようとしたが、痛みに耐えきれないと、すぐにトイレにこもってしまった。そして長い時間出て来なかったという。
ようやく扉が開き、看護師が「大丈夫ですか?」と声をかけた瞬間、彼女は信じられない光景を見た。呆然と立ち尽くす少女の後ろで、血まみれの赤子が産声を上げていたのである。
後編記事『「お腹が痛い」と「風俗街の病院」を訪れた14歳少女が受けていた、あまりにむごい性暴力と、その後に待ち受けていた「驚きの結末」』では、彼女のその後について紹介する。